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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

読書:「『戦地』派遣 変わる自衛隊」(半田滋 岩波新書)

「戦地」派遣―変わる自衛隊 (岩波新書)

「戦地」派遣―変わる自衛隊 (岩波新書)

 著者の半田さんは1992年以来、防衛省(旧防衛庁)取材を手掛ける東京新聞編集委員。以前のエントリー(「お知らせ:5月9日に自衛隊・米軍報道を検証する集会」)でもお知らせしましたが、5月9日の憲法メディアフォーラム4周年記念シンポに出席する予定のパネラーの1人です。
 2001年の「9・11」米同時テロ後、海上自衛隊はインド洋の米軍艦艇などへの給油活動に乗り出し、2003年のイラク戦争を受けて、翌04年にはイラク陸上自衛隊航空自衛隊が派遣され、自衛隊の海外派遣は新たな段階に入ります。国連の枠組みによらない日本独自の、それも「米国追従」の色彩が強い派遣であり、戦火がやまずいつ自衛隊員が戦闘行為に巻き込まれるか分からない「戦地」への派遣でした。これらの実績の上に、06年には自衛隊法が改正され海外派遣は自衛隊の本来任務に格上げされました。
 一方で、07年から08年にかけては、元防衛事務次官汚職事件の摘発、イージス艦と漁船の衝突事故、イージス艦情報流出などの不祥事が次々に明るみに出ました。08年4月には、航空自衛隊によるイラクバグダッドへの武装兵員輸送業務は憲法9条イラク特措法に違反しているとする名古屋高裁の判断が示されました。10月には田母神俊雄航空幕僚長(当時)が過去の中国侵略や朝鮮半島の植民地支配を正当化して「わが国が侵略国家だったなどというのはまさにぬれぎぬ」と主張する論文を発表し、更迭されました。
 わたし自身は2003年から04年当時、職場でイラク戦争自衛隊イラク派遣の取材にかかわり、04年から2年間は労働組合運動にフィールドを変え、その後職場に戻ってからも、一貫して自衛隊の動向に関心を持ち続けてきました。本書はこの間に自衛隊をめぐって起こったことを整理して考えるのに非常に役立ちました。
 著者が「はじめに」で書いている本書の狙いを紹介しておきます。「自衛隊の実像を知る」ための有意義な1冊です。

 私は抜本的な改革には、無原則に追加してきた任務の見直しが必要だと思っている。半世紀もの長きにわたり、国防に特化してきた自衛隊にあれもこれもと多様な任務を求めるのは無理がある。
(中略)
 精査する作業は、海外活動でこそ重要だろう。本書でも詳細にその実態に迫るが、軍事に疎く、自衛隊への関心もない政治家がいきなり派遣を決め、後から制服組が「できることは何か」と活動内容を考えるというのが海外派遣決定に至る現在の政治状況である。したがって活動の内容はちぐはぐなものになる。インド洋派遣やイラク派遣で政府は、戦闘に巻き込まれる危険性のある「戦地」派遣を決めてから、憲法九条を踏み越えないよう「非戦闘地域」という用語を生み出した。小泉純一郎首相に至っては「自衛隊のいるところが非戦闘地域だ」と理屈にならない理屈をこねた。
(中略)
 命懸けとなる「戦地」派遣を命じながら、活動の実態を知ろうともしない政治家たち、また「派遣そのものが目的」という政治の意思をくみ取り、知恵を絞って駐留を続ける隊員たちが少しずつ権力を握っていく姿を描いている。そうした活動の一方で、米国主導のミサイル防衛(MD)システムが日本に導入され、また自衛隊が米軍と一体化する米軍再編が日米で合意されたことにより、自衛隊が「対米追従カード」に変化した事実を明らかにしている。
 日本と米国との関係が変わらない限り、自衛隊の海外活動は増えることはあっても減ることはないだろう。「いけいけどんどん」で進めば、憲法との整合性を問われる場面は必ず来る。その日のために、自衛隊の実像を知る必要があると考える。

 
※あらためてのお知らせです。

憲法メディアフォーラム開設4周年記念シンポジウム
自衛隊・米軍報道〜マスメディアは事実を伝えているのか〜

日時◇ 5月9日(土)13時30分〜16時30分 資料代◇500円
場所◇ 東京しごとセンター地下講堂
(東京都千代田区飯田橋3-10-3:JR飯田橋駅東口からホテルメトロポリタン隣)

出演者プロフィルなどは
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20090418/1239989959を参照ください。