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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

自衛隊に何をどこまでさせるのか〜集団格闘死事件が問うもの

 海上自衛隊には対テロなどを専門とする「特別警備隊」という特殊部隊が広島県江田島市にあります。その隊員養成課程で昨年9月、養成過程を辞めることが決まっていた当時25歳の3等海曹が、15人を相手にした格闘訓練中に倒れ、16日後に死亡する事件がありました。刑事事件として捜査している海自警務隊が、教官ら数人を業務上過失致死容疑で近く広島地検書類送検する方針を決めたことが報じられています。
 「教官の2等海曹らを書類送検へ 業過致死容疑で海自警務隊」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/200905/CN2009050801001005.html
 15人を相手にするという通常の訓練では考えられない異常さ、死亡した3曹が異動を2日後に控えていたこと、海自の当初の広報発表では15人を相手にしていたことは伏せられていたこと、などの事情から、制裁や懲罰的な集団暴行だった疑いはないのか、注視していました。傷害致死罪ではなく業務上過失致死罪を適用ということなので、警務隊としては制裁や集団暴行ではなく、訓練中の事故と判断したのでしょう。
 この事件をめぐっては昨年10月、防衛省が中間報告を公表しています。この中でも早々に制裁や集団暴行の疑いは事実上否定されていました。ただ、さすがに15人相手の格闘訓練の必要性は「認めがたい」としています。中間報告はPDFファイルで防衛省ホームページからダウンロードできます。
 「海上自衛隊特別警備隊関係の課程学生の死亡事案について(中間報告)」
 (平成20年10月22日 防衛省
 http://www.mod.go.jp/j/sankou/report/2008/pdf/20081022_houkoku.pdf
 書類送検後の焦点は広島地検がどのような判断を示すのかに移ります。検察も故意犯ではなく過失犯との判断になるのか注目したいと思いますが、仮に過失犯との認定であったとしても、教官らの個人責任で終わる話ではなく、特殊部隊を離れて別の人生を歩もうとしていた1人の若者を死に追いやった自衛隊の組織上の問題であることに変わりはありません。以前のエントリー(「不祥事続きの海自への新たな海外任務に疑問」)でも指摘しましたが、イージス艦と漁船の衝突事故など不祥事の続発については、海自自らが任務の増大と多様化が不祥事の続発と無縁ではないと認めています。ソマリア沖での海賊対処に派遣されている護衛艦には、特別警備隊の隊員も乗艦しています。問われるのは「自衛隊に何をさせるのか」「任務増大の歯止めをどこでかけるのか」ですし「自衛隊シビリアンコントロールをどう考えるのか」だと思います。
 この事件については、検察の捜査の帰趨も見ながらまた書きたいと思います。
9日の憲法メディアフォーラム4周年シンポは都合がつかず参加できませんでした。「『戦地』派遣―変わる自衛隊 」の著者の半田滋さんや「自衛隊員が死んでいく」の著者の三宅勝久さんらの話を楽しみにしていたのですが残念です。憲法メディアフォーラムのサイトにリポートがアップされるのを待ちたいと思います。