ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

続・この1年に読んだ本から

 昨日のエントリーの続きです。

地域メディアが地域を変える

地域メディアが地域を変える

地域メディアが地域を変える」(河井孝仁・遊橋裕泰編著、モバイル社会研究所企画 日本経済評論社)
 執筆陣は9人。スイッチオン・プロジェクトでご一緒している河北新報の寺島英弥さんから寄贈していただきました。ありがとうございました。
 「地域の持続的な維持かつ多様な発展を可能にしようと様々な取り組みを行ってきた研究者及び実務家のグループと、世の中で同時進行するモバイル化の光と影を研究テーマに据えるモバイル社会研究所が、地域社会における情報リテラシーについて分析した共同研究(二〇〇七年度)が出発点」(はしがき)とのことです。執筆者によって文体にも用語にもけっこう差があり、正直に言えば全編をすいすい読む、というわけにはいきませんでしたが、メディアのありようのイメージが広がり、わたし自身が拠って立つマスメディアの今後の社会的な役割を考える上で非常に参考になりました。

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)

ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言」(中川淳一郎 光文社新書
 著者はニュースサイトの編集者。ブログにネガティブなコメントを執拗に書かれたりした経験のある人ならば、このタイトルにひかれて本書を読み、溜飲が下がる思いを経験できるかもしれません。色々な読み方ができる一冊だと思います。わたしは「リアルで言えないことはネットでも発言しない」を自らのルールにしています。その考え方がそれほど間違ってはいないと感じました。

政権交代論 (岩波新書)

政権交代論 (岩波新書)

政権交代論」(山口二郎 岩波新書
 著者の山口・北海道大教授は東京新聞朝刊の特報面に週1回コラムを寄稿しており、その歯切れの良さが魅力で楽しみにしています。タイミングよく刊行された本書も2大政党制の意味と政権交代の必要性について、本来の政治的な右派と左派の位置付け、「個人化」と「社会化」、「小さな政府」と「大きな政府」の違いなどを踏まえて分かりやすく解説しています。また米国、英国の政権交代を紹介し、さらには民主党の課題と展望まで見通します。山口教授が民主党のブレーンを務めたという点を割り引いて読めば、有用な1冊です。世論調査内閣支持率の低下が目立ってきている今、あらためて9月の政権交代は何だったのかを考える上では、なお役に立つ1冊でしょう。 

報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの

報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの

「報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの」(寺沢有 インシデンツ)

 発行元のインシデンツは、山口県光市の母子殺人事件の被告を実名で取り上げた単行本の刊行で話題になりました。そのインシデンツが刊行した第1作が本書です。経営者でもあるフリーランス・ジャーナリスト寺沢有さんのインタビュー集です。登場するのは映画「ポチの告白」の高橋玄監督、警察社会の裏金の内部告発者である元北海道警の原田宏二さん、愛媛県警の仙波敏郎さんのほか、裁判官の寺西和史さん、弁護士の清水勉さんら10人。マスメディアの関連では元朝日新聞編集委員の落合博実さんのインタビューが収録されています。タイトルのとおり「報道されない」重い内容、告白ばかりですが、それだけに本書としてまとまった形になって世に出たことの価値は高いと思います。
 わたしにとって畏友でもある寺沢さんは「おわりに」で次のように書いています。

 『ポチの告白』に対する感想で「救いがない」というものをよく見かける。事実に基づく映画である以上、現在の日本の社会が「救いがない」わけだ。それならば、どうするかという問題が出てくる。しかし、ほとんどの国民は「救いがある」まで待つつもりらしい。そもそも「救いがない」という言葉自体、かなり受け身だ。
 過去、小さな努力を怠ってきたために、現在、大きな努力が必要とされている。ここで何もしなければ、将来、さらに大きな努力が必要とされるし、それでも手遅れかもしれない。こういう反省から、私自身も自分で出版事業をはじめ、本書を刊行したしだいである。

 あらためて、わたしも分に応じた努力をしなければならないと考えています。
※参考
THE INCIDENTS http://www.incidents.jp/