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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

記者「我々の商売が、なくなっちゃいますねえ」〜山本一太議員のツイートが示すもの

 先日、ツイッターのタイムラインを眺めていて、自民党の“ツイッター議員”として知られる山本一太参院議員のツイートが目に止まりました。

舛添氏のぶら下がりが終わった後、取材していた何人かの記者に、こう言われた。「え?一太さん、こんなに細かく、ツイートしたんですか?我々の商売が、なくなっちゃいますねえ!(苦笑)」
http://twitter.com/ichita_y/status/9216114764

 自民党の議員有志が立ち上げた勉強会「経済戦略研究会」の17日の初会合終了後のツイートで、「舛添氏」とは前厚生労働大臣舛添要一氏のことです。この勉強会は舛添氏を中心にした新たなグループ結成の動きではないかとの観測から新聞や放送メディアの関心も高く、「メンバーには谷垣総裁と距離を置く議員が多く、党内には「『ポスト谷垣』で舛添氏を担ぐ動きに発展するのでは」との見方も出ている」(読売新聞)などと報じました。
 このツイートは、取材に詰めかけていた記者たちが、山本議員が勉強会のもようを逐一、ツイッター上で発信していたことを知って「我々の商売が、なくなっちゃいますねえ」と苦笑した、ということを紹介しているわけです。勉強会は午前11時から正午ごろまで行われたようですが、山本議員のツイートは勉強会の前後も含めて計27回、勉強会のもようを1〜3分おきに時々刻々と“同時中継”していました。
※山本議員のツイッター・アカウント
 http://twitter.com/ichita_y

 冒頭に紹介したツイートは国会議員と記者たちとの何気ないやり取りのようにも見えますが、わたしはツイッターが今後、既存マスメディアの報道に変化を迫る可能性を考える上で、2つの意味で示唆に富むツイートだと受け止めています。一つは、一次情報を社会に伝える役割を担っていたマスメディアの存在感が減少していくこと、もう一つはマスメディアや記者の取材行為、ないしは報道の舞台裏や内幕が社会に可視化されていくことです。
 1点目に関しては、昨年12月のエントリー「メディアのありようを変えるTwitter」で既に書いていますが「Twitterを使いこなす政治家が増え、それぞれが政治活動の局面局面でつぶやくようになれば、政治のナマの現場の一次情報がマスメディアを経由することなく、ダイレクトに有権者に届くのが当たり前になる」ということです。山本議員の17日の一連のツイートはまさにそういうことです。テレビがナマ中継でもすれば別ですが、マスメディアは速報、詳報ともに政治家自身のツイートには歯が立たないことを示しています。「我々の商売が、なくなっちゃいますねえ」という記者の苦笑は、一次情報の伝達の点ではまったくその通りでしょう。
 山本議員のこのツイートは、勉強会に参加した国会議員の一人としての立場ですが、政策決定の責任者や政党の代表者がもろもろの政治判断や決定事項をマスメディアを通じてではなく、ツイッターで直接、社会に発信することも原理的には可能です。「原理的」というのは、実際にやるかどうかは別として、やろうと思えば十分に可能ということです。この点も、年明けに鳩山由紀夫首相がツイッターを開始した際にエントリー「鳩山首相Twitterで政治報道が変わる?」で指摘しました。今のところ、鳩山首相ツイッターではゆるい話題ばかりを取り上げていますが、原口一博総務相のようにツイッター上で政策課題についてかなり言及する閣僚も出てきています。
 2点目の取材や報道の可視化については、「記者が苦笑した」ということ自体、その一例です。ほかにも、一連のツイートの中でマスメディアの取材ぶりに触れています、また、山本議員は勉強会翌日に以下のようなツイートを発信しています。

 経済戦略研究会。「舛添要一氏、塩崎恭久氏、中川秀直氏、鳩山邦夫氏等が中心メンバー」みたいな報道は、(いろいろな意味で)ちょっとミスリードだと思う。会の呼びかけ人になった(=他の議員に参加を呼びかけた)のは、舛添氏、塩崎氏、菅氏、世耕氏等だ。
http://twitter.com/ichita_y/status/9273852906

 マスメディアの報道がミスリードかどうかはともかく、有権者や社会の人々がマスメディアの報道以外にも情報を得ることができるようになったことの意味は、マスメディアにとって小さくありません。
 取材、報道の可視化という点では、記者会見の開放はより直接的です。外務省や総務省では記者会見が開放され、大臣会見には毎回、インターネットメディアやフリーランス・ジャーナリストが参加しています。会見のもようをツイッターで速報する人も少なくなく、どのマスメディアの記者がどんな質問をしたのかも明らかにされています。質問以外にも記者クラブ加盟の記者たちの言動をツイートしている例も少なくありません。以下はニュースサイト「ガジェット通信」発行人の深水英一郎さんの一例です。

会見に居て欲しいのは、記者じゃなくて代表質問者みたいな人なんじゃないかなと。会見で記者が一斉に攻殻機動隊のオペレーターのお姉さんよろしく凄い勢いでキーボード叩いているのをみて、その壮絶なまでの無駄っぷりにクラクラした。 #fpress
http://twitter.com/getnewsjp/status/9375833282

 このブログで繰り返し書いてきていることですが、今や既存マスメディアやそこで働く記者は、自らも社会から見られています。のみならず、既存マスメディアが発信しない出来事もネット上のニュースサイトのほかツイッターやブログなどのソーシャルメディアを通じて社会に知られています。記者会見の開放問題はその一例です。新聞やテレビが報じていない出来事を、新聞の読者やテレビの視聴者もネットで知っています。そうした読者や視聴者が「報じないマスメディア」をどんな風に見ているか。マスメディアの側は重く受け止めるべきだと思います。新聞や放送メディアとそこで働く記者、編集者は、ただニュースを発信していれば事足りる時代ではありません。

※参考過去エントリー
「メディアのありようを変えるTwitter」2009年12月30日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091230/1262155761
鳩山首相Twitterで政治報道が変わる?(追記あり)」2010年1月2日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100102/1262363857