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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「既成政党vs首長新党」の構図も見え始めた:5〜8日の大阪ダブル選挙紙面

 大阪市長選に共産党推薦で出馬を予定していた渡司考一氏が4日夜、出馬を取りやめるとのニュースが流れました。5日付けの新聞各紙も一斉に報じています。渡司氏は各紙の取材に対して「私の出馬で『反独裁』の票が割れ、橋下氏の当選を許すことを避けたかった」(朝日新聞)「橋下さんの独裁宣言と教育基本条例をどうしても許すことができず、芽を摘むことが大阪市の将来につながると判断した」(毎日新聞)などと明快にコメント。これを反映して、各紙とも「橋下氏の『独裁』阻止に反橋下氏、反維新の会の勢力が結集」との意義付けを記事に書き込んでいます。
 民主、自民、共産が「反橋下」「反独裁」で現職の平松邦夫氏を支援する構図が固まり、「既成政党vs首長新党」の構図も見え始めたと言っていいと思います。ただ、この構図が有権者にどこまで意識されているかは、まだよく分かりません。外形上のことだけで、投票行動にはあまり意味を持たないままかもしれません。
 今後の選挙戦の論争で、多岐にわたる争点をめぐり、平松氏と橋下氏の政策やスタンスの違いが何に根差しているのか、それがどこまで明確になるのか。そして争点がどんな風に整理され、収れんされていくのか。個人的にはそこに注目していきたいと考えています。

5日付朝刊
【朝日】1面3段「共産推薦・渡司氏が撤退」「大阪市長選『橋下氏の独裁阻止』」▼2社面3段「『橋下氏倒すしかない』」「平松氏側、共闘に期待」▼市内版連載企画:なにわのあした1「利用低迷 悩む自治体も:中学の昼食」
【毎日】1面トップ5段「共産・渡司氏が撤退」「『反維新を結集』」▼社会面トップ「共産『非常事態だ』」「市長選不出馬『平松氏を応援』」/3段「倉田氏 賛同署名公表へ」▼15面「文化文芸」のタイトルカットで特集記事「『橋本改革』が残したもの」(国際児童文学館、センチュリー交響楽団、ドーンセンター)
【読売】1面3段「共産・渡司氏 出馬見送り」「平松・橋下氏一騎打ちへ」「『反維新』分裂回避」▼2面2段「大阪全市町村で連合」「倉田氏、知事選公約に 都構想対抗策」▼1社面3段「維新vs反維新 鮮明に」「10万超す共産票 行方焦点」/2段「倉田支持 21首長公表へ」
【産経】1面3段「橋下・平松氏 一騎打ち」「共産系が出馬取りやめ」▼2面3段「倉田氏マニフェスト方針 知事選」「府市で人事交流1000人/『オール大阪』掲げ」
【日経】1社面4段「平松・橋下氏、一騎打ちへ」「共産系渡司氏 出馬取りやめ」
【京都】2面3段「共産系が出馬断念」「『反橋下』結集 平松氏と一騎打ち」/1段「対話路線に『手法変える』」「橋下氏、報道各社に」▼6面・大阪市長選1ページ特集
【神戸】1面1段「平松、橋下氏一騎打ち」「共産系が立候補断念」▼2社面4段「橋下氏『対話路線に』」「当選前提転換方針 周りは懐疑的見方」

5日夕刊
【毎日】1面3段「独裁阻止 共産『泥水飲む』」「渡司氏 苦渋の撤退」
【読売】2社面3段「平松氏『独裁を許さない思い一致』」「橋下氏『既存体制守る側との戦い』」「市長選共産撤退」/「首長のチカラ2」東京都千代田区長の石川雅己氏「都構想 生活者の視点で」
【産経】1社面3段「反維新か中立か」「ダブル選 公明組織票行方は」
【京都】2社面3段「支援の21市長ら公表へ」「倉田氏『首長連合』強調」

 5日夕刊では、毎日新聞が1面の記事で渡司氏の立候補取りやめまでの経緯や、渡司氏の心情などを詳しく紹介しています。この記事によると、共産党大阪市長選に公認・推薦候補を擁立しないのは1963年以来、48年ぶりとのこと。毎日は5日付朝刊の記事にもこのデータを書き込んでいましたが、他紙にはありませんでした。こうしたちょっとしたデータも読者の理解を助けると思います。

6日付朝刊
【朝日】1面トップ4段「平松氏 市の維持強調」「橋下氏 都構想前面に」「大阪市長選討論で舌戦」表・討論会で示した主な政策(項目は「市政運営、教育、生活保護、地下鉄」)/3段「共産、平松氏全面支援へ」▼市内版連載企画:なにわのあした2「自治体『府は調整役を』:防災」/2氏討論会詳報▼1社面トップ全8段「将来像譲れぬ」「橋下氏 権限・財源市民に返す」「平松氏 反独裁へ戦線広げる」▼2社面2段「倉田氏支持の21首長公表」/1段「羽柴氏、出馬断念」
【毎日】1面トップ5段「都構想か都市連合か」「橋下氏『267万 巨大すぎる』」「平松氏『上から目線はダメ』」(合同討論会本記)/3段「視点」(解説)「感情的対立は不毛」▼14面1ページ特集「暮らしに影響見極め」(市民病院ルポ、政令市の経過、特別区の仕組み、識者談話・瀬田史彦・大阪市立大大学院准教授など)▼15面1ページ詳報・合同討論会▼2社面4段「平松氏『独裁阻止』」「橋下氏『受けて立つ』」「討論後に街頭舌戦」/3段「強権手法 改める」「倉田氏が公約 地方分権改革」表・倉田氏の主な公約
【読売】1面トップ4段「大阪市の姿 対立鮮明」「平松氏『他自治体と連携』」「橋下氏『解体し区長公選』」表・座談会での主な主張(項目は政治スタンス、大阪市の将来像、市営地下鉄民営化、教育行政)▼二社面4段「バトル2時間 平行線」/2段「渡司氏が平松氏支援」
【産経】1面3段「倉田氏、支援首長『21人』」「マニフェスト骨子発表」▼3面4段「橋下氏『反維新は政治の弱さ』」「平松氏『反独裁で幅広い戦線』」(討論会本記)▼2社面「持論展開 かみ合わず」
【日経】1社面3段「市町村との連携重視」「倉田氏が府知事選公約」
【京都】2面2段「首長会議を創設 『卒維新』目指す」「倉田氏が公約骨子発表」/1段「平松氏の支援 共産府委名言」/1段「自民府連も平松倉田両氏を支持」/1面「羽柴氏が出馬断念」
【神戸】2社面1段「脱維新へ首長会議創設」「倉田氏が公約骨子発表」/1面「自民が平松氏倉田氏を支持」/1段「平松氏支援 共産が明言」/1段「倉田氏支援の21首長を公表」

※日曜日のため6日は夕刊発行はなし

 5日は朝日、毎日、読売、産経の新聞4紙が大阪市長選の立候補予定者による合同討論会を開催しました。渡司氏の立候補取りやめで、討論会に参加したのは再選を目指す平松邦夫市長と知事からのくら替えを目指す橋下徹氏の2人。討論というよりも対談になりました。朝日新聞の記事によると、討論会は新聞4社が個別に市長選立候補予定者に要請しましたが、日程の都合から合同開催となったとのことです。
 討論会の内容は相当に濃かったようで、朝日、毎日、読売は本記を1面トップに据え、2人のやり取りの詳報も、1ページを組んだり、翌日以降も含めて何回かに分けて掲載したりと、それぞれに紹介に力を入れています。

7日付朝刊
【朝日】4面3段「『橋下維新』を注視」「与野党、国政進出に警戒感」▼市内版連載企画:なにわのあした3「中小企業が稼げない:円高」▼2社面2段「倉田氏・平松氏 自民府連が支持」
【毎日】2面3段「『評価する』67% 大阪都構想」(全国世論調査)▼2社面全5段「かすむ民主」「『反維新』結集優先『突出あかん』」
【読売】1社面連載企画「岐路 2011大阪ダブル選」(上)「採算重視か 公の役割か 市営地下鉄民営化」
【産経】1社面トップ全6段「直接訴え 熱意駆ける」「ダブル選 告示前ラストサンデー」
【京都】2面2段「告示控えPR作戦」
【神戸】2社面2段「各陣営 懸命の訴え」

7日夕刊
【読売】2社面「首長のチカラ3」東京都副知事猪瀬直樹氏「大都市が『国を変える』」

 毎日新聞が7日付朝刊で全国世論調査結果を掲載。1面に置いた本記のメインは、日本のTPP参加の是非でしたが、橋下氏が公約に掲げる大阪都構想への評価を訪ねる質問もあり、「評価する」との回答は67%に上ったとの記事が2面に掲載されました。大阪だけでなく全国世論調査でのこの高い数字は、正直なところ驚きです。橋下氏が代表の地域政党大阪維新の会」をめぐっては、将来の国政への進出が取りざたされていることからも、留意しておきたいデータです。
 読売新聞が社会面で3回続きの企画を開始。「大阪都構想の各論とも言える争点を探る」とのことです。読売は夕刊では「首長のチカラ」を連載。橋下氏について「独裁」のキーワードで語られるようになり、その政治手法に賛否がはっきり分かれてきている中で、興味深い読み物だと感じています。

8日付朝刊
【朝日】1面3段「公明 自主投票へ」▼市内版連載企画:なにわのあした4「競争力強化へ正念場:関空
【毎日】1面4段「公明 自主投票へ」「維新と対立回避」▼2面1段「大阪府知事選 主要3新人に聞く」表・主要3氏の主な主張(項目は「都構想・都市制度」「教育基本条例案」「橋下府政への評価」)▼大阪地域版に知事選3氏のインタビュー詳報「大都市制度、教育条例 違い鮮明」
【読売】2社面3段「公明 自主投票」/3段「橋下氏『翼賛会』平松氏『反独裁』」「維新包囲網TV討論で火花」/連載企画「岐路 2011大阪ダブル選」(中)「巨大施設に再び賭ける エンターテインメント都市」▼市内版に5日の平松、橋下両氏の座談会詳報の(下)
【産経】1面トップ・タイトルカット「大阪政治決戦 3つの焦点」(上)大都市制度改革「『大大阪再び』志は同じ」全7段▼2面3段「維新、衆院選を視野」「橋下氏『次のステップは国政』」
【日経】1社面1段「府知事選出馬予定3人『大阪のかたち』論戦」
【京都】2面1段「『橋下包囲網』で公明が対応苦慮」

8日夕刊
【朝日】2社面3段「役所 士気アップ手探り」「公務員改革 ダブル選争点に」
【読売】2社面「首長のチカラ4」横浜市長・林文子氏「行政自らニーズつかむ」
【産経】2社面3段「公明、自主投票へ」「維新と全面対決回避」
【日経】1社面3段「公明、自主投票へ」「維新と対決回避」

 産経新聞が8日付朝刊から争点に焦点を当てた連載企画をスタートさせました。初回は大都市制度改革。舌戦も激しく、もはや全面対決で折り合いを付けようもないように見える平松氏と橋下氏ですが、橋下氏の大阪都構想に対し、平松氏が9月に特別自治市構想を掲げた際には、都市制度を構造的に見直すという点ではわずかに共通項もあったと振り返っています。見出しに取っている「大大阪」は「だいおおさか」と読みます。関東大震災後の大正末期から昭和初期にかけて、大阪は黄金期を迎えて繁栄を謳歌しました。しかし今は東京一極集中が進んでいます。産経の記事は「ともに大阪の地盤沈下を憂いながら、正反対の道を歩む2人」と指摘。大阪都構想は「最大の争点」と報じられることが多いだけに、ただ対決モードを強調するだけではない、そんな記事も貴重だと感じました。
 大阪市長選で、既存政党のうち民主、自民、共産が「反橋下」を鮮明にして現職の平松氏支持を打ち出している中で、公明党は自主投票となりました。10日に知事選が告示され、13日には大阪市長選も告示。いよいよです。