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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

自衛隊配備を根本的に問う沖縄の新聞〜再び「ミサイル防衛を嗤う」 ※追記「消えぬ『過剰感』」

 ひとつ前のエントリー(「既視感があるミサイル防衛〜沖縄メディアと視点の共有を」)で触れた北朝鮮の衛星ロケット―弾道ミサイル実験は13日朝、北朝鮮が発射を強行したものの、失敗に終わりました。直後から韓国メディアなどを通じて発射情報が駆け巡りましたが、日本政府の「確認」の発表は遅れに遅れました。韓国国防省が「発射」を公式に発表した後ですら、「わが国としては確認していない」とコメントするお粗末さ。この間、政府内でどのような情報伝達があったのかは、既に各マスメディアが詳しく報じています。
 「万が一の事態に備える」として自衛隊の迎撃ミサイル(PAC3)舞台部隊が展開していた沖縄の新聞2紙はこの結末に対して、それぞれ14日付の社説で、発射を強行した北朝鮮への抗議の意思を表しつつ、日本政府の対応に対しても、発射当日の情報伝達の混乱にとどまらず、沖縄へのPAC3など事前の自衛隊配備への「そもそも論」に根本的な疑義を投げ掛けています。沖縄タイムスは結びに「住民を危険から守るというよりも、そのことを表向きの理由とした機動展開訓練の側面と、自衛隊を認知させるための政治的デモンストレーションの意味合いが強かったのではないか」と指摘。琉球新報は、宮古島で発射情報を得た自衛隊が信号弾を撃って隊の内部には情報を伝達しながら、住民には一切知らせなかったことを例に「配備は軍事情報獲得が目的で、住民保護は後回しだったと言われて、言い訳できるだろうか」と問うています。
 北朝鮮は核開発を公言しており、ロケット技術と結びつくことで核ミサイルの保有が可能になります。北朝鮮が公式には「衛星打ち上げのため」と称しても、ロケット発射が容認できないのはこのためです。それはそれとして、北朝鮮のミサイルに備えるためとして、日本がミサイル防衛(MD)を進めることが妥当かどうかという論点もあることを、今回の事態はあらためて問い掛けているのではないか。沖縄2紙はそのことに気付かせてくれるように思います。
 以前のエントリーでも触れましたが、「抵抗の新聞人」として知られる桐生悠々は戦前の1933年に、在籍していた信濃毎日新聞に「関東防空大演習を嗤う」と題した社説を書き、軍が東京周辺で行った防空大演習に対して、要するに「東京に敵機が飛来するようでは戦争に負けるのは必至だ」と喝破していました。それから12年後、その通りの事態になりました。悠々にならうなら、これはルポライターの鎌田慧さんが用いた造語ですが、今は「ミサイル防衛を嗤う」ときなのかもしれません。ミサイルが飛んで来るような事態にならないよう、日本は国際協調に基づく外交努力こそを最優先にするべきでしょう。沖縄2紙の報道からは、そんなことも思い起こしました。
 備忘も兼ねて、両紙の社説の一部を引用します。

沖縄タイムス「[北朝鮮発射失敗]あの騒ぎは何だったか」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-14_32446/

 政府は「人工衛星」の何が危険なのか、具体的な説明がないまま、県内4市に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備与那国島などにも部隊を投入し、県庁には連絡係を常駐させた。
 実戦色を漂わせた大がかりな部隊展開は復帰後、初めてと言っても過言ではない。
 住民を危険から守るというよりも、そのことを表向きの理由とした機動展開訓練の側面と、自衛隊を認知させるための政治的デモンストレーションの意味合いが強かったのではないか。

琉球新報「『衛星』発射強行 『先軍政治』の失敗だ 日本も効果的外交構築を」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-189948-storytopic-11.html

 一方で、空騒ぎは日本政府にも言えることだ。自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を鳴り物入りで県内に配備したが、今回、沖縄付近に落下する可能性があったのは破片にすぎない。PAC3はミサイルの航跡を高速で計算して迎撃する建前で、軌道を予測しがたい破片を打ち落とすのはおよそ不可能だ。
(中略)
 なおかつ今回、イージス艦は迎撃の判断に必要な航跡を十分に捕捉できなかったと政府筋が明らかにしている。一体何のための配備だったのか。
 しかも、あれほど危機をあおり、役所にすら自衛隊が乗り込んだのに、的確な情報伝達はなかった。全国瞬時警報システム(Jアラート)も鳴らずじまいで、まるで東日本大震災の時の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のようだ。
 しかも宮古島では、発射情報を得た自衛隊は信号弾を撃って隊の内部には情報を伝達したが、住民には一切、知らせることがなかった。配備は軍事情報獲得が目的で、住民保護は後回しだったと言われて、言い訳できるだろうか。
 一体PAC3にいくら投じてきたのか。自衛隊配備の費用はいくらだったのか。壮大な無駄遣いだった感は否めない。

 日本本土(ヤマト)の全国紙の社説は、見出しのみ記録しておきます。いずれも北朝鮮を批判する内容が中心で、各紙それぞれの差異もあるのですが、沖縄2紙のような自衛隊配備への疑問はいずれにもありませんでした。
朝日「北朝鮮ミサイル 発射強行に抗議する」
毎日「北朝鮮ミサイル失敗 安保理で厳正な対応を」
読売「『衛星』発射失敗 強固な北朝鮮包囲網の構築を」
日経「北朝鮮の危険な挑発をどう止めるか」
産経「北ミサイル発射 さらなる暴挙に備えよ 安保理で実効性ある懲罰を」

※参考過去エントリー
ミサイル防衛を嗤う」=2009年4月3日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20090403/1238694217

※参考
青空図書館:「関東防空大演習を嗤う」桐生悠々
 http://www.aozora.gr.jp/cards/000535/files/4621_15669.html
 初出:信濃毎日新聞 1933(昭和8)年8月11日


【追記】2012年4月17日午前9時55分
 自宅では琉球新報を郵送で購読しています。だいたい1日遅れで届きますが、週末はさらに遅れます。電子版にすれば即日読むことができ、料金も送料分安くなるのですが、沖縄に身を置くことができない代わりに、紙の新聞を広げる行為は続けていたいと思い、郵送のままです。

 14日付の紙面が昨日届きました。1枚めくって2面、3面、いわゆる総合面には「消えぬ『過剰感』」「説明は置き去り」の大きな見出し。本土の新聞とはかなり異なった趣です。1面トップ「北朝鮮ミサイル失敗」の大見出しの隣り、準トップの記事は「教室で106デシベル記録」「ミサイル警戒米戦闘機騒音」「屋上は119デシベル測定 普天間第二小」の見出し。北朝鮮のミサイル発射問題に伴い、米軍普天間飛行場の米軍戦闘機の離発着が急増し、発射前日の12日には飛行場に隣接する小学校の教室内で、車の直前でクラクションを鳴らされるのに匹敵するような騒音を計測した―との内容です。本土(ヤマト)ではほとんど知られていない被害だと思います。