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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「岩国で受け入れを」那覇市長発言の意義〜オスプレイ試験飛行、間もなく沖縄へ

 山口県の米軍岩国基地で21日、垂直離着陸輸送機「オスプレイ」が試験飛行を始めました。岩国基地に一時駐機しているオスプレイは12機。沖縄の普天間飛行場への配備が予定されています。安全性への疑問から日本では沖縄以外の自治体からも配備と飛行への反対が多く、機体が7月に船で米本土から到着した後、飛行を控えていました。19日に日本政府が「安全宣言」を出したことで、沖縄への移動への準備として、試験飛行を始めました。9月中にも沖縄へ移駐と報じられています。
 試験飛行は、山口県と福岡県の沖合の日本海に設定されている訓練空域で行われることが明らかになっています。岩国基地から訓練空域への移動に際しては、最短コースとなる中国山地越えはせずに、瀬戸内海に出て海上を飛ぶコースを取ったようですが、共同通信は自社ヘリから記者が目視で確認した情報として、21日午前中に飛んだオスプレイ2機が山口県下関市の市街地上空を飛んだと伝えました。読売新聞も「2機が下関市の市街地上空を飛行した」と伝えています(大阪本社21日夕刊最終版)。
 ちなみに19日の日本政府の安全宣言では、「安全確保策」として、航空法が定める安全高度150メートル以上で飛び、原発施設や史跡、人口密集地の上空は回避すること、米軍施設・区域周辺の飛行経路は病院や学校上空を避けて設定し、可能な限り海上を飛行すること、近距離での低空編隊飛行は米軍施設上空に限定すること、米軍普天間飛行場の騒音対策のため深夜、早朝の飛行は必要最小限に制限すること、「垂直離着陸モード」は米軍施設上空に限定すること、「転換モード」は飛行時間を可能な限り短くすることなどを盛り込んでいます。

 大阪でも全国紙各紙の21日夕刊はこのニュースをいずれも1面で大きく扱いました。ただ、配備先の沖縄に関連した記事は、仲井真弘多知事が定例会見で「配備ありきのやり方でどんどん進めている印象が非常に強い」と批判した様子が朝日、毎日、読売に短く載ったほかは、毎日が第2社会面の雑観記事に嘉手納基地周辺住民の批判の声を盛り込んでいるだけです。
 沖縄では、夕刊を発行していない沖縄タイムス琉球新報の2紙とも、号外スタイルの紙面をPDFファイルにしてサイト上にアップしました。「電子号外」と呼ぶ速報の方法です。ダウンロードして印刷すれば、新聞販売店の店頭などでの「張り出し」に使えます。

 ※沖縄タイムス電子号外
  http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-09-21_39284
 ※琉球新報電子号外
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-197124-storytopic-3.html

 沖縄の最近のオスプレイ関連記事の中で、強く印象に残った記事がありますので紹介し、一部を引用します。翁長雄志(おなが・たけし)那覇市長に取材した琉球新報の記事です。
 ※「翁長那覇市長『岩国で受け入れを』 オスプレイ配備
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-197053-storytopic-252.html

 翁長市長は日米同盟の重要性を認めた上で「日米安保体制の中で基地を提供するには、地元の信頼が一番大切だ」と指摘。尖閣諸島など東アジア情勢にオスプレイがどう貢献するか示されないことや、10万人が結集した県民大会を踏まえ「最も信頼関係のない沖縄、過重な基地負担のある沖縄に配備すると、日米関係も大変厳しい状況になる」と強い懸念を示した。
 その上で福田良彦岩国市長が「機体の不具合についてある程度疑義は払拭(ふっしょく)できた」と話すなど、日本政府の事故検証や試験飛行を容認する姿勢を見せていることに言及。「オスプレイの事故検証を岩国市が評価していることは日米安保にとって重要な要素だ。日本全体で日米安保を考えてもらう意味でも、岩国市の姿勢に敬意を表したい」と述べた。
 その上で岩国市への配備を「日本全体で基地を負担する第一歩にしてほしい。今取り得るベターな方法ではないか」と語った。

 補足すれば、福田良彦・岩国市長は21日、実際に試験飛行が始まったことに「政府の判断については非常に残念。準備飛行とはいえ、認めることはできない気持ちに変わりはない」と述べる(時事通信)など、試験飛行をもろ手を挙げて無条件に容認しているわけではないようですが、さりとて日本政府や米軍に抗議するわけでもありません。「事実上の容認」ないしは「容認の姿勢」との評価は妥当だと思います。
 ※時事通信「『政府の判断、非常に残念』=オスプレイ試験飛行で−岩国市長」
  http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012092100525
 以前のエントリーでも触れたましたが、7月にオスプレイが岩国に搬入された際、琉球新報は解説記事で「これまで米軍基地問題は、過重な基地を沖縄に背負わせる『沖縄差別』との言葉で表現されることが多かった。だが、今回のオスプレイ搬入は、安全保障政策に関して米政府の意向を優先し、民意を軽んずる日本政府の体質を明確に示した」と指摘していました。オスプレイが日本全国で訓練飛行をする見通しであること、そのことを受けて、沖縄以外の日本本土(ヤマト)の自治体でも配備反対の声が高まっていることが背景にあります。日本本土に住む多くの日本人が、この「配備反対」の眼差しの先に「過重な基地を沖縄に背負わせる『沖縄差別』」のありさまを見るようになり、差別の存在を意識するようになるかもしれないと、わたしは考えてきました。那覇市の翁長市長の「オスプレイ運用は岩国で」との発言から思うのは、仮にオスプレイの日本配備が避けられないのなら、沖縄以外の本土の基地のどこかが配備先となることを、その地元の自治体が受け入れれば、少なくともオスプレイ配備に関しては沖縄差別は生じない、と言えるかもしれないということです。翁長市長の発言は、日本本土でもっと知られていいと思います。
 ※参考過去エントリー「オスプレイ配備反対の先に」2012年7月27日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120727/1343317379

 最後に、全国紙各紙の9月21日夕刊の主な記事と見出しを書き留めておきます(大阪本社発行の最終版)
【朝日】
1面トップ「反発の中 国内初飛行」「沖縄、来月配備」「米軍オスプレイ」/「『丁寧に説明』官房長官
第2社会面「『反対の声 上げたのに』」「岩国市民ら抗議」/「固定翼に変換後 加速一気」/「『まさか飛ぶとは』沖縄知事」
【毎日】
1面準トップ「オスプレイ試験飛行」「12機、完了に2週間」/「下関上空を通過」/「予定通りの行動 官房長官
第2社会面「『国民の命 軽視だ』」「市民、怒りの声」/「『配備ありき』沖縄知事不快感」
【読売】
1面トップ「オスプレイ試験飛行」「2機、市街地上空通過」
第2社会面「岩国市民、冷静に受け止め」「沖縄知事は批判」
【日経】
1面準トップ「オスプレイ試験飛行」「28日にも普天間に」
社会面「懸念積み残して上空へ」「岩国で抗議の声」
【産経】
1面「オスプレイ国内初飛行」「岩国離陸、山口・福岡沖」
2面(総合面)「藤村長官『予定通り』」