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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

【憲法メモ】6月3日〜9日:琉球新報社説「大阪訓練移転案 本質から目を背けるな」ほか

 憲法に関連した論考やニュースで目に留まったものをまとめた【憲法メモ】です。

水島朝穂さん「『あたらしい憲法のはなし』からの卒業―立憲主義の定着に向けて(2)」(今週の直言=2013年6月3日)
 http://www.asaho.com/jpn/bkno/2013/0603.html
 水島さん自身が書いているように「挑発的な問題提起」です。

 さて、「直言」ではこの間、「憲法96条先行改正」問題を何度も取り上げてきた。ここにきて微妙な変化も生まれている。「日本維新の会綱領」の冒頭にある、日本国憲法を罵倒する表現を借りれば、「日本を孤立と軽蔑の対象に貶め」ているのは、安倍晋三橋下徹という二人の政治家だが、彼らが主張する「96条先行改正」の主張は、このところトーンダウンした感がある。
 しかし、油断は禁物である。安倍首相には「私の任期のうちに憲法改正を」という異様な思い入れと思い込みがあり、祖父(岸信介元首相)と叔父(佐藤栄作元首相)ができなかった改憲をやって「新しい時代を切り開きたい」というパワフルな思い違いをしたまま、参院選に突入してくる可能性はまだある。「まず96条から」という壮大なる勘違いに、しばらく付き合わねばならない。「アベノミクス」なる「催眠政治」の賞味期限もそろそろ切れるし、TPPをめぐる公約違反(総選挙で当選した自民党衆院議員のうち205人がTPP反対だった!)も、交渉の実態が明らかになるにつれてボデイブローのように効いてくると思うので、今後3カ月が一番危ない。限られた政治的寿命のなかで、「何でもいいから、憲法改正の実績を作りたい」と盲進するおそれがある。
 この日本政治史上、最も危険な「壊憲の鉄砲玉」をいかに止めるか。一研究者として微力ながら、この間、全国をまわって、「護憲か、改憲か」ではなく、「立憲か、壊憲か」を軸に訴えてきた。5月3日前後は、札幌、岡山、水戸の3都市を48時間で講演したほか、18日の盛岡講演では、東北6県から集まった「9条の会」の人々に講演し、討論にも参加した。
 参加者すべてが「護憲派」だったので、議論が活発になることを願って、あえて挑発的な問題提起をいくつか仕掛けてみた。その一つが、「戦後日本に立憲主義が定着しなかった要因の一つは、『あたらしい憲法のはなし』に過度に依拠する憲法教育が行われたからではないか」という論点である。これを口にすると、会場は一瞬凍りついた。
(中略)
 『あたらしい憲法のはなし』の限界を最もよく示す記述は、普通選挙の説明の下りにある。「気がくるった人まで選挙権をもつというわけではありませんが…」。現代ではあり得ない表記であるだけでない。先週5月27日、改正公職選挙法参議院で可決・成立して、精神疾患や知的障害で成年後見人を付けた人にも、選挙権が回復することになった。7月の参議院選挙から13万6000人が一票を投じることができるようになる。
 この66年前の小冊子に過度に依存し、「護憲のバイブル」のような扱いを続けることはもうやめるべきである。『あたらしい憲法のはなし』からの卒業である。尾崎豊『卒業』(1985年)の一節に「仕組まれた自由にだれも気づかずに この支配からの卒業」というのがあるが、言葉を借りれば、「憲法は国民が守るきまり」という思考の「支配からの卒業」である。卒業のあとにくるのは「立憲主義」という思考でなければならない。

 わたしが「あたらしい憲法のはなし」を知ったのは、新聞労連委員長を務めていた当時です。古い話ではなく、むしろ最近のことと言っていいと思います。
 「立憲主義の定着」の観点からどうとらえるか、という発想はわたしにはなかったので、この水島さんの論考には正直なところ、少なからず驚きました。「なるほど」と思う部分も、「いや、しかし」と思う部分もあります。現在の憲法をめぐる情勢の中で、わたしなりに「あたらしい憲法のはなし」には思うところがあります。まだ有用な部分が少なくない、と考えています。いずれこのブログで別に項を立てて書いてみようと思います。

あたらしい憲法のはなし (小さな学問の書 (2))

あたらしい憲法のはなし (小さな学問の書 (2))

※ネットでも無料で読めます
青空文庫「あたらしい憲法のはなし」
http://www.aozora.gr.jp/cards/001128/card43037.html


琉球新報社説「大阪訓練移転案 本質から目を背けるな」(2013年6月5日)
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-207574-storytopic-11.html
 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長や同党幹事長の松井一郎大阪府知事の「オスプレイの訓練を大阪・八尾空港に誘致」構想が表面化したのは6月2日(日)でした。週明け3日には地元八尾市の田中誠太市長が反対を表明。しかし橋下氏と松井氏は6日、首相官邸安倍晋三首相、菅義偉官房長官と会い、八尾空港への訓練誘致の検討を申し入れました。これに応えて安倍首相は防衛大臣に検討を指示しました。報道によると、官邸での会談で、橋下氏と安倍首相は沖縄の基地負担の軽減をともに口にしたとのことです。
 日本維新の会と橋下氏の構想に対して、琉球新報は5日の社説で「自らの政治基盤強化のために、沖縄の基地問題を利用しているのではないかという疑念がくすぶる」「参院選挙をにらみ、沖縄の基地問題に取り組む姿勢を見せることで、維新の党勢衰退の窮地を抜け出す足掛かりにしたいという政治的思惑が色濃い」と批判しています。

 維新の会の勢力が最も強い本拠地大阪での提起だが、唐突感と違和感を禁じ得ない。自らの政治基盤強化のために、沖縄の基地問題を利用しているのではないかという疑念がくすぶるからだ。
(中略)
 橋下氏は「沖縄の基地負担軽減のため、オスプレイの訓練くらい本州で受けないといけない。大阪の話を出さないのは無責任だ」と強調したが、「できるかどうかは分からない。政府にボールを投げる」と実現可能性には自ら疑問符を付けた。
 橋下氏は、在沖米海兵隊の風俗業活用を奨励する発言や、旧日本軍の「従軍慰安婦」を容認した発言に対する国内外の厳しい批判にさらされ、政治家としての資質が厳しく問われている。
 今回の提案は、参院選挙をにらみ、沖縄の基地問題に取り組む姿勢を見せることで、維新の党勢衰退の窮地を抜け出す足掛かりにしたいという政治的思惑が色濃い。沖縄の負担軽減とは別次元の狙いがあり、成算も見えない。腰が据わっていないように映る。
(中略)
 本土への訓練移転といっても数日にとどまることは目に見えている。一年中、オスプレイが飛び交う沖縄にとって、配備中止ではない訓練移転は根本的解決には程遠い。問題の本質から目を背けないでほしい。
 橋下氏は大阪府知事時代、米軍機訓練の関西空港への移転受け入れを探る発言をしていた。沖縄の痛みを引き受ける姿勢に打算がないというなら、オスプレイ部隊ごと普天間飛行場を県外・国外に移すと主張するのが筋だろう。

 この誘致構想にはいくつもの論点があると思います。「沖縄の基地負担の軽減」の観点から見た場合は、琉球新報の社説の通りだと思います。
 もう一つの大きな論点だとわたしが思うは、橋下氏や松井氏がいかなる立場で政府に要請をしたのかです。どうやら本人たちの意識は日本維新の会という国政政党の共同代表と幹事長として、ということのようです。7日に松井氏が八尾市の田中市長と会談した際には「政党の幹事長として」の立場を明らかにしていたことからも、そう推察できます。しかし一方で橋下氏は、大阪府大阪市を再編する大阪都構想を推進したいという大阪市長ですし、松井氏は大阪府知事です。大阪府民、大阪市民、つまりは大阪の住民を代表する立場です。大阪の住民の意志から離れて、政党の代表、幹事長として、現に地元市長には一切、事前の通告、打診、相談もなく政府に要請を行ったことは、あまりに都合よく立場を使い分けていないでしょうか。琉球新報の社説にならうなら、橋下氏や松井氏の立場も「本質」です。本質から目を背けず、大阪のマスメディアはこの点にも多様な観点からの意見、考え方を紹介していくべきだと思います。
 日本維新の会と橋下氏らのオスプレイ訓練誘致構想に対しては、沖縄県名護市在住の作家目取真俊さんもブログで批判を加えています。この誘致構想には沖縄の地域政党「そうぞう」も同一歩調を取っているのですが、その点をどう読み解くのかを含めて、とても参考になります。
 ※目取真俊さん「参院選に向け沖縄を政治利用する橋下市長と下地代表」=「海鳴りの島から」2013年6月6日
 http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/36982312104b35f3b971c118e0b92889


琉球新報社説「維新訓練移転案 県外移設こそ国民議論を」(2013年6月8日)
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-207716-storytopic-11.html

 日本維新の会橋下徹共同代表が安倍晋三首相に対し、米海兵隊MV22オスプレイの訓練の一部を大阪府八尾空港で受け入れる構想を伝えた。沖縄の負担軽減というより、「慰安婦」に対する自身の暴言への批判をかわす小手先の案に見える。沖縄を政治利用するつもりなら、やめてもらいたい。
(中略)
 風俗活用発言について、橋下氏は「『性犯罪を抑えるために本気になってください』と伝えるため」と述べ、沖縄での犯罪抑止が理由だったと自己正当化した。八尾空港利用についても沖縄の負担軽減が目的だという。沖縄に寄り添っているかのように見えるが、これは明らかに理不尽だ。なぜ、沖縄への基地固定化が前提なのか。
 オスプレイ配備撤回の東京行動で県民代表が政府に渡した建白書にある「普天間基地を閉鎖・撤去し、県内移設を断念する」との沖縄側の要求はまるで考慮していない。橋下氏は、全機移駐もしくは普天間飛行場の県外・国外移設こそ提案し、国民的議論を促すのが筋だ。八尾移転案は大いに疑問だ。

 八尾空港への訓練移転構想の欺瞞がよく分かります。橋下氏が寄り添っているのは沖縄ではなく、基地の沖縄への固定化を図る安倍政権のように思えます。


▽「作家のなだいなださん死去」
 47news(共同通信)=2013年6月9日
 http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013060901001599.html

 「パパのおくりもの」や「老人党宣言」などユーモアと風刺に富んだ著作で知られる作家で精神科医のなだいなだ(本名堀内秀=ほりうち・しげる)さんが6日死去していたことが9日、分かった。83歳。東京都出身。
 1953年に慶応大医学部を卒業。医師として病院に勤める傍ら、幅広い文筆活動を展開した。
 「海」や「トンネル」などで計6回芥川賞候補となったが受賞は逃す。65年のエッセー「パパのおくりもの」で注目を浴びた。独自の平和論を展開した「権威と権力」、専門医の立場でアルコール依存症の問題を扱った「アルコール中毒―社会的人間としての病気」など、多くの著書を残した。

 昨年末の衆院選のころ、老人党のことが毎日新聞のインタビュー記事で大きく取り上げられていました。当時、わたしはこのブログに新聞各紙の選挙報道の記録を掲載中で、毎日新聞の記事のことも書き留めています。
※参考過去記事 「9条護り平和へ攻める『老人党』」〜毎日新聞「今、平和を語る」なだいなださん(2012年12月11日)
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20121211/1355159201
 なだいなださんはインタビューで、目指すべきは「強い国」ではなく「賢い国」の方がいいと指摘し「平和の大切さも失われたときに初めてわかる。老人党の僕は、戦前と戦後を知っているから、このことだけは断言できる。平和はいい。老人党は今後も常識の党であり続けたい」と語っていました。今の社会情勢をどんな風に見ているか、もっと聞いてみたかったと思います。ご冥福をお祈りいたします。
※老人党 http://6410.saloon.jp/