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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「白紙委任ではない」〜参院選開票結果の各紙報道から ※追記:琉球新報の紙面

 参院選が21日、投開票されました。既に大きく報道されている通り、自民党が圧勝。連立を組む公明党議席と合わせると、参議院でも与党が過半数を占めることになり、衆参のいわゆる「ねじれ」は解消されました。
 この選挙結果を新聞各紙がどのように伝えたか、わたしの住む大阪での全国紙各紙と関西の代表的な地方紙である京都新聞神戸新聞の各1面の記事や社説、こうした大きな選挙の後の“定番”とも言える各紙の政治部長の署名評論のそれぞれの見出しを書き留めておきます。

 1面トップ記事(本記)の主見出しは、朝日、神戸以外は「ねじれ解消」でそろいました。選挙戦を通じて「ねじれ」が解消するかどうかを最大の焦点に位置付けていたことからすれば、オーソドックスな見出しだと思います。主要争点が「アベノミクス」だったことを反映して、朝日、読売、日経、京都、神戸の各紙は「経済」「アベノミクス」を2本目以降の見出しに取りました。よくも悪しくも、本記の見出しは客観性を意識しています。
 興味深いのは、安倍晋三首相が意欲を燃やす憲法改正問題への、全国紙各紙の言及ぶりです。
 いちばん目立つ紙面は改憲を社論にかかげる産経で、憲法改正の発議に必要な国会議員数の割合である「3分の2」をタイトルに入れた企画記事の連載を1面で開始しました。記事中では「与党の大勝によって、政治は新たなステージへと突入する。これまでの『過半数』をめぐる与野党の攻防は事実上終わりを告げ、『3分の2』をターゲットとしたせめぎ合いへと変化する。『3分の2』とは、憲法改正に必要な国会勢力を意味する」と書いています。
 同じく改憲が社論の読売は、1面の見出しに「憲法」「改憲」は見当たりません。社説の最後で、憲法解釈の見直し、集団的自衛権の解釈見直しに触れているものの、改憲には直接的には触れていません。日経は社説で「現行憲法に問題があり、改憲の必要性がるのはその通りだ」としつつ「国力の回復が何よりも求められる現在、優先させるべきテーマは経済再生である。改憲論議は同時並行で進め、急ぐものは立法改革で対応すればいい」としています。
 一方、朝日、毎日はともに社説で改憲問題に触れ、憲法96条の改変には48%が反対で賛成の31%を上回ったとの世論調査結果を挙げたり(朝日)、「首相は選挙戦終盤に憲法9条改正への意欲を示したが、改憲の具体的な内容や優先順位まで国民に説明しての審判だったとは到底言えまい」(毎日)と指摘しています。圧勝とは言っても、憲法改正まで白紙委任されたわけではない、ということです。
 この「白紙委任ではない」との観点は憲法だけのことではありません。圧勝と言いながら投票率は低下傾向にあること、安倍政権との対決色を鮮明にした共産党が躍進したこと等々を考えれば、安倍政権と自民党が選挙で得た支持について、わたしたちの社会のどの部分をどういう風にどれだけ代表していると言えるのか、精査が必要だろうと思います。朝日や毎日、京都新聞神戸新聞の社説も同じようなことを指摘しています。毎日新聞政治部長の署名評論の見出し「白紙委任ではない」は、今回の選挙結果を言い表す一言として、もっとも適切であるように思います。


※朝日、毎日、読売、産経、日経は大阪本社発行の最終版
【朝日】
1面本記「安倍自民 大勝」「与党、衆参で過半数」「経済最優先を継続」
1面「民主惨敗 野党再編も」
1面「首相、改憲へ『議論深める』」
1面「自民、1人区29勝2敗」「大阪・京都・東京 共産が議席
2面「問われる自己修正力」曽我豪・政治部長
社説「両院制した自公政権 民意とのねじれ恐れよ」

【毎日】
1面本記「自民圧勝 ねじれ解消」「民主惨敗17議席」「共産8議席 維新伸びず」「改憲に足がかり」
1面「首相『96条先行』」「野党に協力要請の意向」
1面「投票率低下52%台」
1面「白紙委任ではない」前田浩智・政治部長
社説「衆参ねじれ解消 熱なき圧勝におごるな」

【読売】
1面本記「自公過半数 ねじれ解消」「自民1人区圧勝 29勝2敗」「民主惨敗 当選最少」
1面「アベノミクスを加速」「首相 秋に『成長戦略実行国会』」
1面「投票率52%前後 本社推計」(ベタ)
1面〜2面「懸案に挑む『黄金の3年』」永原伸・政治部長
社説「参院選自公圧勝 数に傲らず着実に政策実現を 日本経済再生への期待に応えよ」

【産経】
1面本記「自公『76』ねじれ解消」「民主最低『17』近畿全敗」「参院選 維新2桁届かず」「安定多数、長期政権へ」
1面「首相 改憲『腰落ち着け』」(「3分の2」時代―政治はどこに向かうのか 上)
1面「千載一遇の好機が来た」五嶋清・編集局次長兼政治部長
主張(社説)「衆参ねじれ解消 『強い国』へ躊躇せず進め 痛みが伴う課題にも挑戦を」

【日経】
1面本記「与党圧勝 ねじれ解消」「参院選 自民65大幅増」「民主17、過去最低に」「維・み伸び悩み」「アベノミクスに信任」
1面「成長戦略 追加策急ぐ」「首相『改憲、時間かけ議論』」
1面「『3年間』を生かせるか」池内新太郎・政治部長
社説「経済復活に政治力を集中すべきだ」

京都新聞
1面本記「自公圧勝 ねじれ解消」「アベノミクス信任」「民主惨敗、共産躍進」「維・み伸び悩む」
1面「長期政権へ足場固め」
1面「自民・西田氏、共産・倉林氏 京都」
1面「滋賀は二之湯氏」
社説「参院選自民圧勝 数任せの政治は許されぬ」

神戸新聞
1面本記「自民 最多65議席」「与党が安定多数」「民主惨敗、共産が躍進」
1面解説「経済政策特化が奏功」
1面「兵庫は鴻池、清水氏」「民主、結党以来初の敗北」
1面「改憲に向け首相『国民合意努力する』」
1面「兵庫知事 井土氏4選」
社説「参院選 自民圧勝 政権への白紙委任ではない」


※追記 2013年7月23日6時50分
 備忘のため参院選の結果を書き留めておきます。
比例区得票数
自民 18,460,404 公明 7,568,080 民主 7,134,215 維新 6,355,299 共産 5,154,055 みんな 4,755,160 社民 1,255,235 生活 943,836 大地 523,146 緑の党 457,862 みどりの風 430,673 幸福 191,643
参院選当選者数
自民65 民主17 公明11 維新8 みんな8 共産8 社民1 諸派・無所属3


※追記 2013年7月23日22時50分
 自宅で購読している琉球新報の22日付け紙面が届きました。
【1面】

【2〜3面=総合面】

【社会面】

 沖縄選挙区は改選定数1のいわゆる「1人区」の中で、岩手とともに自民党議席を取れなかった選挙区です。琉球新報の1面トップの本記は以下の通りです。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-209886-storytopic-3.html

 第23回参院選は21日、投開票が行われ、沖縄選挙区(改選数1)は社大党委員長で現職の糸数慶子氏(65)=生活、共産、社民、みどり推薦=が29万4420票を獲得し、3選を果たした。26万1392票を獲得した自民党新人で社会福祉法人理事長の安里政晃氏(45)に3万3028票差をつけた。無所属新人の新島メリー氏(67)は1万505票、幸福実現党新人で団体職員の金城竜郎氏(49)は9462票だった。全国的に自民党が圧勝する中で、世論の大多数が反対する米軍普天間飛行場の県内移設を推進する安倍政権に対し、県内有権者は厳しい審判を下した。
 糸数氏は選挙戦で、キャッチフレーズである「平和の一議席」の継続を強く訴えた。安倍晋三首相が憲法改正の発議要件を定めた96条を改正する考えを表明していることに対しては、護憲の立場を強調し、支持を広げた。
 普天間の移設問題では、自民党県連や安里氏も県外移設を主張していたが、糸数氏は自民党本部が「辺野古移設推進」を公約に明記していることとの「ねじれ」を追及。比例代表候補を抱える社民党県連、共産党県委との共闘も奏功し、両党や民主、生活など野党支持層のほか、無党派層からも安里氏を大きく上回る支持を集めた。
 安里氏は与党候補として政策実行能力を訴えたが、普天間移設問題に関する党本部との政策のねじれ問題が尾を引き、選挙態勢の構築が遅れた。選挙最終盤には首相や閣僚、党幹部が次々来県し、精力的に支援したが、無党派層や浮動票の支持を呼び込めなかった。
 新島、金城の両氏は支持を広げられなかった。
 投票率は53・43%で、前回2010年参院選の52・44%から0・99ポイント上昇した。
 当日有権者数(在外含む)は110万2534人(男性53万5768人、女性56万6766人)だった。

 社説は以下のリンク先で読めます。
 「自公参院選圧勝 より謙虚な政権運営を 県内移設は撤回のとき」
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-209877-storytopic-11.html
 「沖縄に民主主義を」の小見出しが付いた後半部分を引用します。本土のマスメディアで働く1人として、本土に住む日本国の有権者の1人として、あらためて脳裏に刻みつけておきたい内容です。

沖縄に民主主義を
 普天間飛行場の返還問題に対する沖縄の民意は明解だ。糸数氏も、自公が推した安里政晃氏も県内移設に一貫して反対した。最新の琉球新報世論調査でも74%が県内移設にノーの意思を示した。
 自民党本部は、自民県連の「県外移設」の意向を無視して、党公約に辺野古移設を明記した。政権与党は、沖縄の民意や自然環境の保護を求める世界潮流も直視し、日米合意の破綻を悟るべきだ。
 繰り返し指摘してきたが、県知事や県議会、県下41市町村の全首長、全市町村議会が辺野古移設に反対している。民主的手続きを一顧だにしないのはアンフェアであり、民主国家とは言えない。日米は民主主義、基本的人権の尊重を共通の価値観だと盛んに喧伝(けんでん)する。ならば、沖縄にもその民主主義をきちんと適用してもらいたい。
 尖閣諸島竹島の領有権問題では、中国、韓国と対立したままだが、そろそろ首相自ら問題解決に乗り出すべきだ。その場合、武力による解決は国際法上も禁じられており、選択肢になり得ない。
 安倍首相は領土ナショナリズムの沈静化に努めつつ、尖閣竹島問題の平和的解決に向けて中韓首脳に会談を働きかけるなどリーダーシップを発揮してほしい。「戦争宰相」ではなく、「平和宰相」として名を残してもらいたい。

 もう一つの沖縄の新聞、沖縄タイムスの22日付けの社説も紹介しておきます。
 沖縄タイムス社説「[糸数氏3選]沖縄の民意受け止めよ」2013年7月22日
 http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-07-22_51998

 沖縄選挙区は、現職で社大党委員長の糸数慶子氏が、自民党公認の新人、安里政晃氏を破って3選を果たした。
 安倍政権が進める米軍普天間飛行場辺野古移設や米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備に、明確な反対の民意が示された。普天間辺野古移設反対の民意は揺らいでいない。この選挙結果を受けて、安倍政権は計画を見直すべきだ。
 今回の参院選で自民は、31ある全国の1人区で29議席を確保する圧倒的な強さをみせた。その中で、沖縄で敗北したのはなぜか。
 党公認の安里氏は新人で知名度が低かったものの、資金と運動量では、相手陣営をはるかに上回っていた。党本部も安倍首相はじめ多数の閣僚を沖縄入りさせるなどテコ入れに腐心した。
 にもかかわらず、糸数氏が勝利したのは、安倍政権の沖縄に対する姿勢に、多くの県民が危機感と不信感を抱いていたからだ。
 争点の普天間移設問題では自民党県連が地域版公約に「県外移設」を掲げ、党公認候補の安里氏も「県外」を主張したが、党本部は参院選公約に「辺野古移設推進」を明記した。この「二股公約」は、分かりにくさと不信感を有権者にもたらした。
 選挙戦終盤、沖縄入りした安倍首相は、那覇市内での街頭演説で、安里氏、仲井真弘多知事らと選挙カーの上に並んだ。首相は「普天間の一日も早い移設を実現していきたい」と強調したものの「辺野古」の名は口にせず、公約の「ねじれ」がかえって浮き彫りになった。
 自民党西銘恒三郎衆院議員、島尻安伊子参院議員が「県外」の公約を翻したことも有権者の疑念につながった。
 民主党政権以降、普天間移設で現行辺野古案を掲げて、国政選挙などで当選した例はない。普天間移設をめぐる党中央と県連のねじれも本をただせば「党中央が示す方針では選挙に勝てない」という地元の危機感からだった。