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「辺野古移設強行するな」が圧倒〜沖縄・名護市長選の地方紙社説

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古地区に移設する計画の是非が争点になり、移設反対を掲げた稲嶺進氏が再選された19日の名護市長選に対し、日本本土(ヤマト)のマスメディアがどう報じたかの一端を知るために、ブロック紙・地方紙各紙の20日以降の社説をネット上で調べてみました。自社サイトで社説を公開していない新聞もあり、地方紙全てを網羅した調査ではありませんが、20〜21日に計23紙が選挙結果に関連する社説を掲載していました。大まかな分類ですが、この選挙結果にもかかわらず、辺野古移設を推進すべしと明確に日本政府支持を打ち出しているのは北國新聞1紙でした。ほかの22紙は、論調の強弱に差はありますが、選挙結果に表れた民意を政府は受け止めなければならず、辺野古移設を強行すべきではない、との内容です(いくつか見出ししかチェックできなかった新聞もありますが、見出しの文言から類推しました)。沖縄県外、国外への移設を目指すべきだ、との主張も少なくありません。
 以下に見出しのみを列記します。

北海道新聞20日付「名護市長選 辺野古案を厳しく拒絶」
▼デーリー東北21日付「名護市長選 移設に反対 民意は明らか」
岩手日報21日付「自治体選挙と国政 「地方は従え」では困る」
秋田魁新報21日付「沖縄・名護市長選 政府は誠意ある対話を」
茨城新聞21日付「名護市長選 民意を重く受け止めよ」
信濃毎日新聞20日付「名護市長選 移設反対の民意は重い」
新潟日報21日付「名護市長選 『アメ』で民意は動かない」
▼中日・東京新聞20日付「名護市長選 『辺野古』強行許されぬ」
岐阜新聞21日付「名護市長選 尊重すべき市民の意思」
福井新聞21日付「名護市長選に民意 辺野古移設押しつけるな」
京都新聞21日付「名護市長選 移設反対 民意に応えよ」
神戸新聞20日付「名護市長選/辺野古は見直すしかない」
山陽新聞21日付「名護市長選 混迷にどう向き合うのか」
中国新聞20日付「名護市長選で現職勝利『県外』民意は揺るがず」
山陰中央新報21日付「名護市長選/民意、重く受け止めるべき」
愛媛新聞20日付「稲嶺市長再選 国は名護市の選択を尊重せよ」
徳島新聞21日付「名護市長再選 移設反対の民意は重い」
高知新聞21日「【名護市長選】アメとムチは通用しない」
西日本新聞20日付「名護市長選 この民意は無視できない」
宮崎日日新聞21日付「名護市長選 辺野古移設は見直すべきだ」
熊本日日新聞21日付「名護市長選 基地の在り方再考すべきだ」
南日本新聞21日付「[名護市長選] 移設強行は許されない」


北國新聞21日付「「普天間」移設計画 理解得る努力を粘り強く」

 ちなみに、このブログの前回の記事でご紹介した全国紙5紙の20日付の社説の見出しも再録しておきます。
朝日「名護市長選 辺野古移設は再考せよ」
毎日「名護市長選 移設反対の民意生かせ」
読売「名護市長選 普天間移設は着実に進めたい」
産経「名護市長選 辺野古移設ひるまず進め」
日経「普天間移設の重要性を粘り強く説け」

 ブロック紙・地方紙の社説のうち、さらに踏み込んで普天間飛行場の県外・国外移設や基地負担の見直しにも言及しているいくつかの例を、一部引用して書き留めておきます。
北海道新聞名護市長選 辺野古案を厳しく拒絶」

 国はこれまでも基地負担を沖縄に一方的に押しつけてきた。辺野古移設が実現しなければ、普天間基地が固定化するかのような恫喝(どうかつ)も続けてきた。こうした手法は地元の反感を増幅させるだけだ。
 工事の強行は到底認められない。このまま作業を進めても混乱は必至だ。日米間で協議して県外、国外への移設を目指す方が現実的であるという事実を直視すべきだ。

茨城新聞名護市長選 民意を重く受け止めよ」

 政府は民意を重く受け止めなければならない。辺野古移設の是非に加え、沖縄以外の日本への分散配置、国外移転など柔軟な対応も検討すべきだ。
(中略)
 仲井真知事は埋め立てを承認する一方で、普天間飛行場の5年以内の閉鎖も要求した。安倍内閣はこれ以上沖縄に基地負担を押し付けるべきではない。
 沖縄以外の日本国内への本格的な分散配置を進めると同時に、日米交渉で国外移転の可能性も模索すべきだ。

信濃毎日新聞名護市長選 移設反対の民意は重い」

 「普天間飛行場の固定化は避けなければならない」と政府は繰り返す。普天間の固定化か、辺野古移設か―という二者択一を沖縄に迫るのが、そもそもおかしい。政府は基地負担の軽減に取り組む姿勢をアピールしている。県民が実感できる軽減を早急に実現する道は、県外移設ではないか。
 移設に賛成する市民には、地域再興の願いが強い。辺野古には米軍キャンプ・シュワブがあり、60年代のベトナム戦争当時は米兵でにぎわった。しかし、その後は寂れてしまった。移設問題とは切り離して振興策を探るべきだ。

新潟日報名護市長選 『アメ』で民意は動かない」

 安全保障などの国策は、一自治体の選挙結果に左右されないという論法にはおよそ賛同できない。原発もまたしかりである。
 面積が全国の0・6%という沖縄県には、在日米軍専用施設の74%が集中している。騒音や米兵による犯罪などで、地元の苦衷は計り知れないものがあろう。
 当該地域の住民の暮らしと安全が、何よりも尊重されなければならない。どう喝的なやり方で懸案を前に進めるべきではない。
 原発と同様に、基地問題も国民的な議論に高めていくことが求められる。そのきっかけを与えたのが、今回の市長選ではないのか。

▼中日・東京新聞名護市長選 『辺野古』強行許されぬ」

 危険な普天間飛行場の返還は急務だが、名護市民がこれ以上の基地負担を拒み、稲嶺氏も市長権限で移設阻止の構えを見せる以上、「国外・県外」移設に切り替えた方が、返還への早道ではないか。
(中略)
 琉球新報など地元メディアの県民世論調査で、知事の埋め立て承認を支持する回答は34・2%で、不支持は61・4%。しかし、共同通信の全国世論調査では、承認を評価する回答は56・4%、評価しないは30・7%と、全く逆だ。
 この世論調査からうかがえるのは、米軍基地負担は沖縄県民が受け入れて当然という、本土の側にある、どこか人ごとの空気だ。
 日米安保体制が日本と周辺地域の平和と安全に不可欠と言うのなら、その基地負担は沖縄に押し付けず、国民が可能な限り等しく負うべきである。本土の側にその覚悟がないのなら、日米安保体制の重要性を口にする資格などない。

愛媛新聞「稲嶺市長再選 国は名護市の選択を尊重せよ」

 政府は知事の埋め立て承認を根拠に移設手続きを進める構えを見せるが、もうこれ以上、沖縄に負担を押しつけるべきではない。それでも強行するようなら、民主主義の崩壊につながりかねない。
 推進派だった末松文信氏は基地の誘致に「町の振興」を託した。しかし市民は、基地に依存した町の活性化より、安心して暮らせる環境と自然保護を優先した。そもそも基地をめぐる二者択一の構図を町に押しつけ、対立さえもたらしたのは日本政府であり、米軍なのである。
 その過去を政府はいずれ清算しなければならない。というのも国は基地の対価としてでなく、基地の有無にかかわらず沖縄の経済発展に歴史的責任を負っているからだ。

高知新聞「【名護市長選】アメとムチは通用しない」

 むろん普天間飛行場の固定化はあってはならないが、辺野古以外の道は本当に閉ざされているのか。
 難航する辺野古固執することを疑問視する声は米側にもある。日米両政府が2年前に発表した共同文書には、辺野古以外に検討の余地を広げる文言も盛り込まれていた。
 普天間を閉鎖し新たな基地は造らない。海兵隊による「抑止力」は、部隊を既存の基地に巡回駐留させるローテーション方式で維持する。そんな方法も真剣に検討しなければならない。
 メディアや専門家の中には、安全保障に関わる国策の是非を地方の首長選で問うことを批判し、政府を後押しする論調もある。だがその論理を推し進めると、地方は国が決めた安保や原発政策などに唯々諾々と従うしかなくなってしまう。それは地方自治や分権の思想とは懸け離れている。
 特定の地域を犠牲にする安保体制のままでいいのか。国民全体で真剣に考えるべき時だ。

宮崎日日新聞名護市長選 辺野古移設は見直すべきだ」

 市民の示した移設反対という明確な意思表示を政府は重く受け止め、県外、国外への移設を真剣に検討すべきである。同時に国民すべてが、多大な基地負担に苦しんでいる沖縄県民の心情を理解することが大切だ。
(中略)
 移設反対を訴える市民の意見が多数を占めたのだ。民主主義国家であるなら、安倍内閣はこれ以上沖縄に基地負担を押しつけてはならない。沖縄以外の国内への本格的な分散配置を進め、同時に日米交渉で国外移転の可能性も模索するのが現実的といえる。

南日本新聞21日付「[名護市長選] 移設強行は許されない」

 名護市長選で応援演説に立った自民党石破茂幹事長は、500億円の名護振興基金をつくると訴えた。露骨な主張はむしろ市民の怒りを買ったようである。
 振興策の見返りに基地負担をのませるのは、もはや時代遅れの手法ということだ。日米安保条約の原点に立ち返って、腰を据えた論議が必要だろう。
 沖縄では基地の集中に「差別」の声が高まっている。日米同盟の恩恵を享受する本土が、負担を引き受ける覚悟も問われる。

 岩手日報の社説は、名護市長選を取り上げつつ、政府と自治体の関係を憲法を交えながら論じています。先に引用した新潟日報の論調にも通じています。安全保障は政府の専権事項だと強調している読売新聞や産経新聞の論調に対置する論調だと思います。

岩手日報「自治体選挙と国政 「地方は従え」では困る」

 沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する現職が、推進を掲げた自民党推薦の新人を退けた。
 昨年末、仲井真弘多知事から辺野古沖の埋め立て承認を得た安倍政権は「火消し」に躍起。菅義偉官房長官は「市長の権限は限定されている」などとして、地方選は国の方針を左右しないとの認識を示した。その姿勢は、はたして妥当なのだろうか。
(中略)
 戦後憲法は、その第8章に明治憲法には全く定めのなかった「地方自治」を加えた。旧憲法下では知事は国が派遣する地方官であり、自治体は中央政府の地方行政機関にすぎなかった。まさに「国の方針」によって戦争に突き進んだ歴史を省れば、中央政府に対する「地方政府」としての自治体の役割は重い。
 主権者たる全国民に責任を持つ政府と、地域社会の住民に責任を持つ自治体は、いわば国を動かす両輪だ。それぞれがバラバラでは前に進まないのは当然だが、かといって一方の車輪に別の車輪が従わなければならないという関係でもあるまい。
 その意味で、札束で頬を張るにも似る幹事長の行動は、逆効果だったと言えよう。現職が新人につけた票差は、同じく移設容認派を破って初当選した前回の票差の3倍に近い。この結果を「国の方針」に反映させようとしないのは現行憲法の精神にもとると、政権は認識するべきだ。


 辺野古移設推進を支持する社説も引用しておきます。
北國新聞「『普天間』移設計画 理解得る努力を粘り強く」

 日本を取り巻く現在の厳しい安保環境では、米海兵隊の航空基地(普天間飛行場)を沖縄から撤去する選択肢は取り得ず、辺野古への移設計画が行き詰まれば、危険な普天間飛行場の固定化という、沖縄県の最も避けたい事態が限りなく現実のものになるとみられる。それは辺野古移設を迫る「脅し文句」などではない。
 日米同盟による抑止力を維持する必要性や、軍事的、地政学的に沖縄がきわめて重要な位置を占めていることを理解する沖縄県民は決して少なくはなく、前々回まで3回の名護市長選は辺野古移設容認派が勝利していた。政府、与党としては、道は険しくとも辺野古移設計画の理解を得る努力をなお粘り強く、誠実に継続するほかあるまい。一般県民の理解を広げることは可能なはずだ。

▼読売新聞「名護市長再選 普天間移設は着実に進めたい」

 そもそも、在沖縄海兵隊の輸送任務を担う普天間飛行場の重要な機能を維持することは、日米同盟や日本全体の安全保障にかかわる問題だ。一地方選の結果で左右されるべきものではない。
 仲井真知事が市長選前に承認を決断したことは、そうした事態を避けるうえで、適切だった。
 名護市長には、代替施設の建設工事に伴う資材置き場の設置などの許可権限があり、工事をある程度遅らせることは可能だろう。ただ、権限は限定的で、辺野古移設の中止にまでは及ばない。
 稲嶺市長は、末松氏が集めた票の重みも踏まえて、市長の権限を乱用し、工事を妨害する行為は自制してもらいたい。
 政府は今後、在日米軍の抑止力の維持と沖縄の基地負担の軽減を両立させるため、沖縄県と緊密に協力し、建設工事を加速させることが肝要である。
 工事が遅れれば、市街地の中央に位置する普天間飛行場の危険な状況が、より長く続く。在沖縄海兵隊のグアム移転や県南部の米軍基地の返還といった基地負担の軽減策も遅れるだろう。
 仲井真知事らが求める工事の期間短縮や、円滑な実施には、地元関係者の協力が欠かせない。政府は、辺野古移設の意義を粘り強く関係者に説明し、理解を広げる努力を続ける必要がある。

産経新聞名護市長選 辺野古移設ひるまず進め」

 稲嶺氏は市長の権限を盾にとって名護市辺野古沿岸部への移設工事を阻止する考えを示している。だが、移設が滞り、日米同盟の抑止力に深刻な影響を与える事態を招くことは許されない。
 仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は昨年末、辺野古沿岸部の埋め立て申請を苦渋の判断の末に承認した。この流れを止めてはならない。市長選は移設にとって厳しい結果となったが、政府は名護市にいっそうの理解を求める努力を重ね、移設進展に全力を挙げるべきだ。
 政府は知事の承認を受け、今年は埋め立てのための測量調査や普天間の代替施設の設計を進める予定だ。移設実現までには、基地の燃料タンク設置や河川切り替えの許可や協議など、名護市長がかかわる権限が約10項目ある。
 稲嶺氏はこれを移設阻止に利用しようとしているのだろうが、これらは安全性確保が問題であって、政治目的のためにその趣旨を逸脱することは容認できない。
 沖縄は国の守りの最前線に位置する。在日米軍の基地の再配置が円滑に進むかどうかは、抑止力のありようや同盟の安定性に重大なかかわりをもつ。辺野古移設は政府の責任で決定する問題であることを理解してもらいたい。

 普天間飛行場辺野古地区への移転計画について、「日米同盟」という国策の問題であることを強調している点が共通しています。わたし個人の意見は別として、そうした考え方があることは理解できますが、ここでは一つだけ、個人的な感想を記しておきます。
 産経新聞の社説(同紙は「主張」と呼んでいます)は「沖縄は国の守りの最前線に位置する」として「辺野古移設は政府の責任で決定する問題であることを理解してもらいたい」と書いています。「理解してもらいたい」とは文脈上、稲嶺氏と稲嶺氏を支持する沖縄の人々に対しての語りかけのように読み取りました。この言説を目にしてわたしが想起したのは、かつての沖縄戦で、沖縄が本土決戦までの時間を稼ぐための「捨て石」になった歴史です。沖縄戦から今日、学ぶことの一つは、日本軍は沖縄の住民を守らなかったこと、沖縄の住民を守るために沖縄に配置されたのではなかったことです。
 産経新聞に限らず、沖縄に米軍基地が必要だと説く言説は、多くは沖縄が軍事的、地政学的に重要であることを強調していますが、どこかに沖縄戦の時の「捨て石」の発想につながっていく「本土優位」の発想が無意識にであれ潜んでいないか、危惧があります。仮に今日も、沖縄の人々に、本土の住民ならしなくても済むような忍従を強いてしか「国防」が成り立たないのであれば、それは国防のありようとして本末転倒ではないだろうか、ということを考えざるを得ません。「国の守り」「国防」と言うときに、守るべきは何なのか、どうやって実現の道を探っていけばいいのか、あらためて歴史に学びたいと考えています。わたしの個人的な思いです。


 最後に、沖縄の地元紙2紙の社説に触れておきます。沖縄タイムス琉球新報とも、21日以降も関連の社説の掲載を続けています。沖縄防衛局が21日、普天間飛行場辺野古への移設に向けた代替施設設計などの受注業者を募る入札を公告したことに対しては、選挙で示された民意を踏みにじるものとして、激しい抗議を表明しています。
沖縄タイムス社説
20日付:[稲嶺氏が再選]敗れたのは国と知事だ
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=60995
21日付:[強硬安倍政権]名護市民 孤立させるな
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=61059
23日付:[名護市長選再論]「まっとうさ」を貫こう
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=61174
琉球新報社
20日付:稲嶺氏再選 誇り高い歴史的審判 日米は辺野古を断念せよ
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218090-storytopic-11.html
21日付:市長選政府反応 民意無視は許されない
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218133-storytopic-11.html
22日付:辺野古入札公告 民主国家の自殺行為だ
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-218188-storytopic-11.html

【写真説明】選挙結果を報じる20日付の琉球新報紙面が自宅に届きました