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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄戦から69年の本土・全国紙の社説(備忘)

 6月23日は沖縄の慰霊の日でした。第2次大戦末期、1945年の沖縄の地上戦で、日本軍の組織的戦闘が終結したとされる日です。沖縄戦の全戦没者は約20万人。このうち一般住民の戦没者は約9万4千人とされます。軍隊は住民を守らない、ということが教訓として残った戦いだとわたしはとらえています。日本の戦争指導部は、沖縄戦を本土決戦のための時間稼ぎと位置づけていました。軍事的に劣勢でも降伏はありえず、敗北が決まっていながら戦闘が続いたことが住民被害を大きくしました。
 沖縄戦から69年の今年、慰霊の日は、安倍晋三首相が熱意を示す集団的自衛権の行使容認をめぐり、憲法改正ではなく閣議決定による憲法解釈の変更をめざし、自民党公明党の了承を取り付けるための与党内協議が行われているさなかで迎えました。昨年末には特定秘密保護法が成立、公布される一方で、沖縄では米軍普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古地区に建設する日米合意案に対し、仲井真弘多知事が埋め立て計画を承認。日本政府が近く着工することが予想される事態になっています。
 ことしの慰霊の日を、本土の新聞各紙は23日付夕刊と翌24日付朝刊で伝えました。全国紙の東京本社発行の紙面では、朝日、毎日、読売の3紙が社説に取り上げているのが目につきました。安倍首相の安全保障政策を是とするか非とするか、社論の違いがこの日の社説にも反映されています。
 備忘を兼ねて、それぞれ見出しと本文の一部を引用します。

朝日新聞「沖縄慰霊の日―犠牲者に誇れる平和か」

 慰霊の日は、「本土防衛の捨て石」となった沖縄の悲劇を後世に伝え、平和を誓う日だ。
 そんな苦痛の記憶を抱える沖縄県民の多くにとって、安倍政権の進める外交・安全保障政策は、「気持ちに寄り添う」どころか、不安をかき立てる。
 昨年暮れ、特定秘密保護法が成立。今年4月、武器輸出三原則を緩和し、輸出禁止政策を放棄した。そしていま、集団的自衛権行使容認に向け、憲法解釈変更の閣議決定を急ぐ。
 政府は、日本を取り巻く安全保障環境の変化を指摘する。尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化など、不穏な空気が存在しているのは事実だろう。
 だが、現在でも国内の米軍基地の74%が集中する沖縄に、さらなる負担を押しつけていいのか。普天間飛行場の移設先を名護市辺野古にすれば、負担増にしかならない。
 一方、集団的自衛権の行使が認められれば、沖縄の自衛隊もさらに強化されるのではないかと心配する声が沖縄にはある。
 米軍に加えて自衛隊まで出撃基地となれば、沖縄の軍事的負担はさらに増す。他国から攻撃される危険性が高まり、沖縄をさらに国防の最前線へと押しやることになるのではないか。

毎日新聞「沖縄慰霊の日 政治の想像力が足りぬ」

 安倍政権は、地元の民意に反する形で、辺野古移設の手続きを着々と進めている。今年11月16日に投開票される沖縄県知事選の前に既成事実を積み重ねておきたいのだろう。
 国民の理解が得られないまま安全保障政策を推進する政権の姿勢は、集団的自衛権の問題でも顕著だ。
 米軍と自衛隊の前線基地となる可能性が高い沖縄では、集団的自衛権への反発が強い。それにもかかわらず首相は、追悼式後、集団的自衛権について「政治の責任として、決めるべき時には決めていきたい」と記者団に語った。
 首相が記者会見で集団的自衛権の行使容認の検討を指示した5月15日は、沖縄が42年前に本土復帰した日だった。
 県民が戦没者を慰霊したり、本土復帰を振り返ったりする日に、国の指導者が集団的自衛権への意欲を語る。大詰めを迎えている集団的自衛権を巡る与党協議は、現実的な安全保障論というよりは、自民、公明両党の字句修正に終始している。
 集団的自衛権を巡るこうした経緯もまた戦争の記憶の風化と無縁ではないように見える。政治の想像力の欠如を危惧する。

▼読売新聞「首相沖縄訪問 米軍基地負担を着実に減らせ」

 沖縄の米軍基地負担を着実に軽減するため、政府は全力で取り組まなければならない。
 太平洋戦争末期の沖縄戦終結に合わせた「慰霊の日」の23日、安倍首相は、沖縄全戦没者追悼式に出席した。
 あいさつで、沖縄県内の基地負担軽減について「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、『できることは全て行う』との姿勢で全力を尽くす」と強調した。
 仲井真弘多知事は昨年末、米軍普天間飛行場辺野古移設に伴う埋め立てを承認した。式典の平和宣言では、3年連続で「県外移設」を訴えてきたが、今年は県外に固執しない表現に変えた。
 沖縄県では依然、県外移設を求める声が根強い中、苦渋の判断をした仲井真知事を支えるためにも政府は、様々な基地負担軽減策をきちんと実行する必要がある。
 仲井真知事の任期満了に伴う11月の知事選では、普天間問題が大きな争点となろう。辺野古移設に反対する保守系市長が出馬の構えを見せる一方、知事は3選出馬に関して態度を保留している。
 知事選結果が辺野古移設に与える影響を最小限にするため、可能な手を打つことが重要である。
 政府は、埋め立て予定地のボーリング調査を7月にも開始し、代替施設の工事をできる限り前倒しする方針という。設計・工事期間の短縮を図り、「2022年度以降」とされる普天間飛行場の返還を早めるべきだ。

 朝日新聞毎日新聞集団的自衛権をめぐる安倍政権の方針に厳しく非を鳴らしながら、沖縄の基地問題の解消を問うているのに対し、読売新聞は集団的自衛権の問題には言及せずに、辺野古地区への代替施設建設推進のために沖縄の基地負担の軽減を実現すべきだと主張しています。沖縄戦の悲惨さに触れていないのも朝日、毎日との際立った違いですが、そもそも社説のテーマの表記が朝日、毎日が「沖縄慰霊の日」なのに対し、読売は「首相沖縄訪問」であり、この日を現在の社会状況、政治状況の中でどう位置づけるか、その発想自体に根本的な差があるように思いました。


 ほかに地方紙の社説もネット上の各紙のサイトで調べてみました。確認できた社説の見出しを以下に書き留めておきます。各紙書きぶりに違いはありますが、いずれも基調に、安倍政権の安全保障政策に批判的なスタンスがあることが読み取れるように感じました。

中日新聞東京新聞23日付「沖縄慰霊の日に考える アーニーが見た戦場」
西日本新聞23日付「慰霊の日 今こそ聞きたい沖縄の声」
信濃毎日新聞24日付「沖縄慰霊の日 寄り添うと言うのなら」
中国新聞24日付「沖縄慰霊の日 戦争の痛みを忘れまい」
南日本新聞24日付「沖縄慰霊の日  非戦の訴えに耳傾けよ」


 東京では、23日の各紙夕刊紙面ではそれぞれ1面で慰霊の日を報じました。その中では、1面トップに、平和祈念式典で石垣市立真喜良小学校3年の増田健琉君が朗読した平和の詩「空はつながっている」を大きく組んだ東京新聞の紙面が目を引きました。各紙の主な記事の見出しなどを書き留めておきます。

朝日新聞
1面「沖縄 悼み祈る」囲み3段、写真3段「父親の名前が刻まれた『平和の礎』の前で涙する女性」
6面「沖縄戦の記憶 どう生かす」/「戦争遺跡 進まぬ文化財指定」「県内979件中 指定16件」/「体験者の絵500枚も」「平和祈念資料館、3万点収集」
第2社会面(10面)「『あんなこと二度と起こしては』」「沖縄・慰霊の日 不戦の誓いあらた」
第2社会面「同世代の悲劇 心寄せ」「両陛下、『対馬丸事件』生存者らと懇談へ」

毎日新聞
1面トップ「基地負担 消えぬ反発」「沖縄69年目 慰霊の日」写真2・5段「『平和の礎』を訪れ、戦没者の冥福を祈る人たち」
1面「『戦世』もう来ないで」「両親が犠牲 経験初めて文集に」
社会面トップ「戦場で別れた弟、妹よ」「『泣く子だめ』ガマに入れず消息不明」「DNA照合 国に求める」

▼読売新聞
1面「沖縄 慰霊の日」「基地負担軽減へ 首相都知事決意」写真2段「『平和の礎』の前で手を合わせて祈る遺族たち」
社会面「『次世代で守って』」「沖縄 86歳、慰霊塔の管理訴え」/「せかいは手をつなぎ合える 小3が詩朗読」

日経新聞
1面「平和の誓い新たに」「慰霊の日 首相『沖縄の負担軽減』」写真2段「沖縄全戦没者追悼式で献花に向かう安倍首相」
社会面トップ「次代へ 不戦の祈り」「基地負担 なお重く」/「平和な空どこまでも」「石垣の小3男子 自作の詩を朗読」

東京新聞
1面トップ「平和の詩『空はつながっている』」「やさしい空 平和を運んで」/「沖縄『慰霊の日』」「戦後69年 続く祈り」
4面「沖縄知事の平和宣言要旨」/「首相あいさつ要旨」
社会面トップ「日米に利用されないで」「集団的自衛権容認 政府へ不信」「親失い、夫はベトナム戦…女性訴え」/「遺族ら追悼 戦争への道 不安の声」

【写真説明】東京新聞の23日付夕刊1面

 沖縄の地元紙である沖縄タイムス琉球新報の24日付の社説も紹介しておきます。仲井真知事の「平和宣言」への批判的な視点が共通しています。
沖縄タイムス
[平和宣言]これほんとに平和宣言?
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=74069
琉球新報
平和宣言 「沖縄の心」を反映させよ
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-227438-storytopic-11.html

 琉球新報の24日付の紙面です。社会面には「いつか来た道」「軍は住民守らず」などの見出しがあります。