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ブロック紙、地方紙社説は批判が圧倒〜集団的自衛権容認の閣議決定の報道

 集団的自衛権の行使容認へ憲法解釈を変更した7月1日の安倍晋三内閣の閣議決定に対し、ブロック紙や地方紙が社説でどのように論評しているか、2日付紙面の掲載分を対象にネットで調べてみました。確認できた28紙のうち、閣議決定を批判する内容が26紙でした。ほかに見出しのみ確認できた新聞が2紙あります。見出しから察するに、閣議決定を批判する内容だと思います。閣議決定を支持する内容は2紙でした。ブロック紙、地方紙のすべてを網羅しているわけではなく、自社サイトで社説を公開している新聞だけに限った調査ですが、特定秘密保護法成立の際などと同じく批判が圧倒していると言っていいと思います。以下に、それぞれの見出しを書き留めておきます。

閣議決定を批判】
北海道新聞集団的自衛権の行使容認 日本を誤った方向に導く」結論だけを置き換え/集団安保にも道開く/駆け付け警護可能に
河北新報集団的自衛権/重い選択、あまりに軽く」
東奥日報「国民に改正の是非を問え/憲法解釈変更」
▼デーリー東北「集団的自衛権閣議決定 専守防衛の国是揺らぐ」
秋田魁新報自衛権閣議決定 9条踏みにじる暴挙だ」
岩手日報自衛権解釈改憲 主権者の意思を顧みよ」
茨城新聞集団的自衛権容認 国のありよう託せない」
▼神奈川新聞「集団的自衛権閣議決定 首相は説明責任果たせ」
信濃毎日新聞「安保をただす 憲法解釈変更 政府の暴走を許すな」自衛と言いながら/安全に資するのか/法案に「待った」を
新潟日報憲法解釈変更 平和国家の根幹が揺らぐ」行使の範囲が広がる/期限ありきの協議だ/中身よりも形を重視
中日新聞「9条破棄に等しい暴挙 集団的自衛権容認」軍事的な役割を拡大/現実感が乏しい議論/国会は気概を見せよ ※東京新聞と同一の内容
福井新聞集団的自衛権行使容認 戦う国がなぜ安全なのか」不戦の誓いどこに/つぎはぎの3要件/国民と乖離する国
京都新聞自衛権閣議決定  9条空洞化の責任は重大だ」歯止めなき新3要件/安保条約の変質招く/「巻き込まれ」現実に
神戸新聞集団的自衛権憲法を骨抜きにする閣議決定」国民不在の解釈改憲/民主主義を取り戻す
山陽新聞集団的自衛権 これで歯止めかかるのか」拡大解釈の懸念/拙速さ際立つ/国民に向き合え
中国新聞集団的自衛権を容認 平和主義を踏みにじる」将来に禍根残す/むしろ緊張招く/「抑止力」に疑念
山陰中央新報集団的自衛権容認/国民的議論尽くすべき」
愛媛新聞集団的自衛権閣議決定 平和国家を危うくする暴挙」
徳島新聞自衛権閣議決定(上) 将来に禍根を残す暴挙だ」※7月3日付に「自衛権閣議決定(下) 主権者軽視とは何事か」
高知新聞「【集団的自衛権 安倍政治を問う】『限定的容認』の危うさ」
西日本新聞「安倍政治を問う 試される民主主義の底力」開店休業状態の国会/健全な批判勢力こそ
宮崎日日新聞集団的自衛権容認 急がず国民的議論が必要だ」「歯止め」はあいまい/専守防衛からの逸脱
佐賀新聞集団的自衛権行使容認」
南日本新聞「[集団的自衛権] 禍根を残した国民不在」「[集団的自衛権] 憲政に汚点残さないか」
沖縄タイムス「[集団的自衛権容認]思慮欠いた政権の暴走」
琉球新報解釈改憲閣議決定 日本が『悪魔の島』に 国民を危険にさらす暴挙」「限定」の偽装/テロの標的に

大分合同新聞憲法解釈を変更 国ありよう託せない」※見出しのみ確認
熊本日日新聞集団的自衛権 『9条』の信頼捨てるのか」※見出しのみ確認


閣議決定を支持】
福島民友新聞集団的自衛権/安保政策の歴史的転換点だ」
北國新聞集団的自衛権 法整備へ理解深めたい」


 以下に、印象に残った社説を書き留めておきます。
秋田魁新報自衛権閣議決定 9条踏みにじる暴挙だ」

 そもそも今回の閣議決定は、憲法尊重擁護義務を定めた99条に反するのではないか。条文の内容は、主権者である国民が大臣ら公務員に憲法を守るように求めている。根底には国家権力の制御を目的とする立憲主義があり、9条を空文化する憲法解釈は立憲主義そのものを損なう。
 このような解釈がこのまま許されるのであれば、改憲という正当な手続きを経ずして、9条以外の条文も国家権力が都合よく書き換えることが事実上可能になる。

 憲法改正問題をめぐるマスメディアの報道でも、99条はあまり触れられてこなかったと感じますが、公務員に憲法尊重擁護の義務を課したこの条文は改憲問題の急所だと考えています。条文は「天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と簡潔に規定しています。


京都新聞自衛権閣議決定  9条空洞化の責任は重大だ」

 集団的自衛権にこだわる理由について安倍首相は、日米安全保障条約で米国が日本の防衛義務を負う一方、日本には米国を守る義務がないことを挙げ「米国民の理解を得られない」とした。しかし、日本が提供する基地と巨額の「思いやり予算」は、米国にとっても不可欠だ。現行の日米安保が片務的という見方は当たらない。
 集団的自衛権が行使できることで、日米同盟は北大西洋条約機構NATO)や、かつての共産圏のワルシャワ条約機構のような本格的な軍事同盟に変質することになる。その危うさは、集団的自衛権を大義名分とした過去の軍事介入を振り返れば明らかだ。
 南ベトナム政府の要請で米国が介入したベトナム戦争(1965年)、「プラハの春」を終わらせた旧ソ連と東欧軍によるチェコ介入(68年)、旧ソ連によるアフガニスタン侵攻(79年)、9・11テロに報復するアフガニスタン戦争(2001年)などだ。
 アフガニスタンには米国以外に約50カ国が派兵し、死者は千人を超える。もし自衛隊が派遣されていたら、日本の若者が血を流したであろうことは想像に難くない。

 在日米軍基地と「思いやり予算」はそれはそれで問題を抱えていると考えていますが、それはさておき「現行の日米安保が片務的という見方は当たらない」との指摘は重要だと感じます。ベトナム戦争チェコ介入などの前例は、ほかの社説も指摘しています。集団的自衛権がどのように行使されてきたか、近現代史を踏まえた視点は重要だと思います。


神戸新聞集団的自衛権憲法を骨抜きにする閣議決定

 「批判を恐れず、平和への責任を行動に移す」と、首相は会見で胸を張った。首相が思い描くのは全てがトップダウンで決まる社会だと神戸女学院大の内田樹名誉教授はみる。「デモクラシーは邪魔だ、立法府はいらない」というのが本音だろうと首相の政治観を分析する。
 昨年末の特定秘密保護法の強行可決も、そうした認識の表れか。これからも数の力で国民が望まない政策を推し進めるのであれば、歯止めとなるのは民意しかない。

 安倍晋三首相の政治観、憲法観の問題は要因として小さくないと感じます。


沖縄タイムス「[集団的自衛権容認]思慮欠いた政権の暴走」

 集団的自衛権の容認を閣議決定したこの日、名護市辺野古では米軍普天間飛行場の移設に向けた工事が着手された。閣議決定を受けて米軍と自衛隊の役割を定めた防衛協力指針(ガイドライン)の年内改定に向けた作業も加速しそうだ。集団的自衛権の行使容認、ガイドライン見直し、辺野古移設の3点セットによって沖縄の軍事要塞(ようさい)化が進むのは間違いない。沖縄が標的になり、再び戦争に巻き込まれることがないか、県民の不安は高まるばかりである。

琉球新報解釈改憲閣議決定 日本が『悪魔の島』に 国民を危険にさらす暴挙」

 ベトナム戦争当時、米軍の爆撃機は沖縄から飛び立ち、沖縄はベトナムの民から「悪魔の島」と呼ばれた。米軍占領下にあり、日本国憲法の適用外だったからだ。
 米国の要請によりベトナム戦争に加わった韓国は、ベトナム国民から根深い怨嗟(えんさ)の的となった。当時、日本は憲法の歯止めがあったから参戦せずに済んだが、今後は日本中が「悪魔の島」になる。恨みを買えば東京が、原発が、ミサイルやテロの標的となろう。それで安全が高まると言えるのか。
 安倍晋三首相は「イラク戦争湾岸戦争に参加するようなことはない」と強調するが、日本は戦後ただの一度も米国の武力行使に反対したことはない。徹頭徹尾、対米従属だった国が、今後は突然、圧力をはねのけるようになるとは、まるで説得力を欠いている。
 運転手がどこへ行こうとしているかも分からず、口出しもできず、助手席に乗るようなものだ。
 他国からすれば無数の米軍基地が集中する沖縄は標的の一番手だろう。米軍基地が集中する危険性は、これで飛躍的に高まった。

 沖縄の新聞にはいつも学ぶことがたくさんあります。
【写真説明】琉球新報の2日付の紙面が自宅に届きました。琉球新報閣議決定当日の1日には、輪転機で印刷した号外も配布しています。