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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄知事選の結果を伝える在京紙紙面の記録 追記・朝日新聞那覇総局長「敗れたのは誰なのか」

 既に大きく報じられているように、11月16日に投開票が行われた沖縄県知事選は、米軍普天間飛行場名護市辺野古地区への移設に反対する前那覇市長の翁長雄志氏が、辺野古移設推進の現職、仲井真弘多氏ら3人を破って初当選しました。得票は翁長氏:36万820票、仲井真氏:26万1076票で、その差は9万9744票。大差です。元郵政民営化担当相の下地幹郎氏は6万9447票、元参院議員の喜納昌吉氏は7821票でした。投票率は64・15%で、2010年の前回を3・27ポイント上回りました。
【写真説明】1面と最終面をつないで選挙結果を伝える琉球新報の17日付紙面

 この選挙結果を東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)も17日付朝刊1面で報じ、社説も掲載しています。それぞれの紙面の主な記事と見出しは後にまとめますが、1面の本記(中心的な記事)の見出しを抜き出して並べると次の通りです。各紙とも東京本社発行の最終版です。

▼1面本記
朝日新聞】1面トップ「辺野古反対の翁長氏当選」「仲井真氏3選阻む」「政権、移設推進の姿勢」
毎日新聞】1面トップ「沖縄知事に辺野古反対派」「自民系現職に大差」「翁長氏初当選 移設計画に影響」
【読売新聞】1面中「沖縄知事に翁長氏」「辺野古反対 容認の仲井真氏破る」※1面トップは「消費増税1年半先送り」
日経新聞】1面中「沖縄知事に翁長氏」「現職に大差『普天間基地、県外に』」※1面トップは「炭素繊維1兆円受注」「東レボーイングから」
産経新聞】1面トップ「沖縄知事に辺野古反対派」「翁長氏当選 工期遅れ懸念」
東京新聞】1面トップ「沖縄知事に翁長氏」「辺野古推進の現職破る」「自民、那覇市長も敗北」「『埋め立て承認 撤回申し入れも』」

 
 経済ニュースが中心の日経新聞はともかくとして、読売新聞が1面のトップ扱いにしていないのが目につきました。さらに各紙の社説の見出しも並べてみます。小見出しを取っている社は小見出しも含めます。
▼社説
朝日新聞】「沖縄県知事選 辺野古移設は白紙に戻せ」「保革」超えた動き/公約違反に「ノー」/唯一の選択肢か
毎日新聞】「辺野古移設に審判 白紙に戻して再交渉を」本土と沖縄に深刻な溝/米国内にも計画に異論
【読売新聞】「沖縄県知事選 辺野古移設を停滞させるな」
日経新聞】「いまこそ政府と沖縄は話し合うときだ」
産経新聞】「沖縄県知事選 政府は粛々と移設前進を」
東京新聞】「新基地拒否の重い選択 沖縄県知事に翁長氏」「基地依存」は死語に/安倍内閣も「不信任」/「過去の問題」でない


 普天間飛行場辺野古移設計画と知事選の結果に対する各紙の論調の違いが、見出しからも読み取れるのではないかと思います。大まかに言えば、選挙結果を沖縄の民意ととらえ、これを重視して現行計画の見直しを求める朝日や毎日、東京と、あくまでも現行計画の推進を求める読売、産経とに論調は二分化しています。
 今回の知事選の意義については、毎日の社説の以下の指摘が重要だと感じました。

 翁長氏の勝利は、過去の知事選に比べてもとりわけ重い意味を持つ。
 沖縄の知事選で初めて保革対決が崩れ、翁長氏が「沖縄対本土」という対立構図を強調する中で勝利したからだ。翁長氏は沖縄保守政界の重鎮だ。保守系地方議員の一部や共産、社民両党など革新政党が支援して保革共闘ができ、自民党などの推薦を受けた仲井真氏に勝った。
 翁長氏の公約「新基地建設反対」の合言葉は、「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー」だった。そこには次のような意味が込められている。
 <日米安保体制は理解するが、日本の安全保障は日本全体で負担してほしい。国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の74%が集中しているのは理不尽で、沖縄への構造的差別ではないか。
 沖縄は基地経済がないと立ちゆかないという見方は誤りで、基地関連収入が県経済に占める割合は現在では5%に減った。基地は今や沖縄経済発展の最大の阻害要因だ。
 基地をはさんで左右や保革に分かれたり、基地か経済かの二者択一を迫ったりするのは、旧態依然の古い発想だ。基地問題はもうイデオロギーではない。沖縄のアイデンティティーの問題であり、沖縄の将来は自分たちの手で決める>
 翁長氏の勝利は、日本政府と本土の一人一人に根本的な疑問を突きつける。なぜ沖縄の現状に無理解で無関心なのか。なぜ沖縄の民意に真剣に向き合わないのか。それは民主主義にもとるのではないか、と。

 一方、逆方向の主張ながら、産経の社説(紙面では「主張」のタイトルです)にも目を引かれました。一部を引用します。

 翁長氏は「県内に基地を造らせないと訴えてきたので、これを第一にやりたい」と述べ、仲井真氏が昨年暮れに決断した辺野古埋め立て承認の取り消しや撤回の方策を検討する考えを示した。
 だが、日米合意に基づく普天間移設は、抑止力維持の観点から不可欠であり、見直すことはできない。政府は移設工事を粛々と進めなければならない。
 今後、辺野古移設反対派が、県民の意思が示されたと勢いづき、工事阻止をねらって反対運動を激化させることも予想される。
 しかし、埋め立て承認は、明らかな虚偽など国の申請に瑕疵(かし)がなければ取り消すことができない。新知事が承認をほごにするようなことは、法的秩序を混乱させるものであり、認められない。
 改めて認識すべきは、日本の安全保障に関わる基地移設の行方を決定する権能は、知事にはないという点である。
(中略)
 政府は基地問題を総合的かつ現実的にとらえて対応するよう、県民や県に対して説明を続けなければならない。衆院選を最初の論戦の機会とすべきだ。
 沖縄には「沖縄」と「日本」とを、ことさら対立的にとらえる主張も一部にあるが、こうした風潮に乗るべきではない。不安定さをもたらし、中国につけ込む隙を与えることは避けるべきだ。

 気になるのは「政府は基地問題を総合的かつ現実的にとらえて対応するよう、県民や県に対して説明を続けなければならない。衆院選を最初の論戦の機会とすべきだ」との主張です。衆院選安倍晋三首相や自民党辺野古移設推進をはじめとした安全保障政策を公約に掲げ、ていねいに説明すべきだ、との主張と受け止めていますが、その結果として安倍首相や与党が衆院選勝利すれば、今回の知事選の結果はともかく、国民の総意としてその政策は支持されたと受け止めるべきだ、となるのでしょうか。
 産経新聞は1面に「『民主主義問う』 解散に大義」とのタイトルの政治部長の署名評論も掲載しています。


 以下に備忘として、各紙ごとに、主な記事と見出しを書き留めておきます。辺野古移設の現行計画に批判的な新聞の方が社会面にも関連記事が多く、全体として情報量が多いように思います。

朝日新聞
1面トップ「辺野古反対の翁長氏当選」「仲井真氏3選阻む」「政権、移設推進の姿勢」
1面「敗れたのは誰なのか」(松川敦志・那覇総局長の署名評論)
2面・時時刻刻「翁長氏、抵抗策を模索」/「辺野古移設  阻止へ『難題』」/「自民『基地の県民投票ではない』」/「米、先行き懸念」
社会面見開き見出し「『沖縄の誇り』浸透」「移設か否か 葛藤」
社会面「翁長氏、対本土前面に」「党派超えた国への怒り」/「仲井真氏、反発押し返せず」
第2社会面「カネと引き換え認めぬ・基地頼らない・まず危険除去・経済振興を」「有権者それぞれの思い」/「普天開設問題『最も重視』40% 本社出口調査
社説「沖縄県知事選 辺野古移設は白紙に戻せ」「保革」超えた動き/公約違反に「ノー」/唯一の選択肢か


毎日新聞
1面トップ「沖縄知事に辺野古反対派」「自民系現職に大差」「翁長氏初当選 移設計画に影響」/「那覇市長選でも与党系候補敗北」/「普天間『従来通り』」「日米首脳会談で確認」
3面・クローズアップ「埋め立て承認撤回も」/「政府は振興策維持」/「『基地重視』翁長氏に 出口調査」/「米は警戒感 移設の停滞懸念」
3面「普天間移設なぜ難航?」「鳩山政権で辺野古案が迷走 県外候補地も見つからず」「基地集中に県民反発」(質問なるほドリ)
社会面トップ「県民の選択ぶれず」「翁長さん 移設反対『心一つ』」
社会面「政府の『アメとムチ』に決別」(解説)
社会面「ひと・翁長雄志さん」
社会面「『公約違反』響く 仲井真さん」
社会面「政府との駆け引きに注目」我部政明琉球大教授
社説「辺野古移設に審判 白紙に戻して再交渉を」本土と沖縄に深刻な溝/米国内にも計画に異論


【読売新聞】
1面中「沖縄知事に翁長氏」「辺野古反対 容認の仲井真氏破る」
※1面トップは「消費増税1年半先送り」
2面「政府、辺野古移設に全力」「反対主張 翁長氏を説得へ」
2面「衆院選への影響 限定的か」
※3面・スキャナーは「首相アベノミクス問う」
第2社会面「『振興策どうなる』不安」「当選の翁長さん『辺野古撤回頑張る』」/「『自民の後退示す』『沖縄特有の状況』首都圏の与野党
社説「沖縄県知事選 辺野古移設を停滞させるな」


日経新聞
1面中「沖縄知事に翁長氏」「現職に大差『普天間基地、県外に』」
※1面トップは「炭素繊維1兆円受注」「東レボーイングから」
2面「翁長氏『阻止へ権限行使』」「辺野古移設 政府、作業進める方針」/「保守層にも浸透 翁長氏」
社会面トップ「辺野古に『ノー』の審判」/「翁長氏『ぶれず公約実行』」/「仲井真氏『考え通らなかった』」
社会面「『普天間、もう解決して』」「『子供に基地残さない』」「沖縄の有権者 思い様々」
社会面「保革双方が支持 新時代の沖縄に」富川盛武・沖縄国際大教授
社説「いまこそ政府と沖縄は話し合うときだ」


産経新聞
1面トップ「沖縄知事に辺野古反対派」「翁長氏当選 工期遅れ懸念」
1面「『民主主義問う』 解散に大義」(有元隆志・政治部長の署名評論)
3面・水平垂直「内憂外患はらんだ船出」「『革新』との連携 限界も」/「辺野古 取り消し迫る恐れ」/「一歩及ばず/痛烈な政府批判 政界反応」/「辺野古 作業推進へ」「政府、月内にも海上調査再開」
第2社会面「『普天間固定化するのでは』」「地元住民『対立乗り越え解決を』」
社説(「主張」)「沖縄県知事選 政府は粛々と移設前進を」


東京新聞
1面トップ「沖縄知事に翁長氏」「辺野古推進の現職破る」「自民、那覇市長も敗北」「『埋め立て承認 撤回申し入れも』」/「移設反対の城間氏当選 翁長氏後継アピール」
1面「『オール沖縄で基地解決』尊重を」(解説)
2面・核心「辺野古移設 県民『ノー』」「仲井真氏の承認 撤回で政府と対立必至」
3面「社共『建設断念を』自民『計画通りに』」
3面「米、『移設撤回』政策を注視」/「『白紙一緒に』名護市長」/「6割が移設支持せず 出口調査」/「『中国も速報』」
社会面見開き見出し「『国に屈せず声届けて』」「『ぶれずに約束実行』」
社会面「沖縄の新基地反対続く」/「見通し立たず 無力感も」/「民意を受け止めて」佐藤学・沖縄国際大教授/「基地問題、袋小路も」川上高司・拓殖大大学院教授
第2社会面「翁長さん 歴史の1ページ開いた」
社説「新基地拒否の重い選択 沖縄県知事に翁長氏」「基地依存」は死語に/安倍内閣も「不信任」/「過去の問題」でない


※追記:2014年11月18日14時45分
 朝日新聞の16日付朝刊1面に掲載された松川敦志・那覇総局長の署名評論にも触れておきます。
 「敗れたのは誰なのか」とのタイトルで、昨年12月に仲井真弘多知事が辺野古の埋め立てを認めた経緯を振り返り、仲井真氏が沖縄では怨嗟の的になっていることを紹介しつつ、「問題は、恨みと嘆きの先に、ひとり仲井真氏だけがいるのかということだ」と続けます。3代前の故西銘順司氏が「沖縄の心」を「ヤマトンチュ(本土の人)になりたくて、なりきれない心」と表現したこと、その2代後の稲嶺恵一氏が頻繁に口にしたのは「県民のマグマ」だったことを紹介。そして、忘れてならないのは「政府と我々自身のありようだ」と説きます。「普天間問題で国にはかつて、沖縄の声に耳を傾けようという一定の配慮がまだしもあった。問答無用の強行を避けてきたからこその、日米が返還に合意してからの18年にわたる混迷だったともいえる」。今はそうではありません。「反対運動が続き、移設問題を争点とする知事選が控えているにもかかわらず、『過去の問題』と言い放つ政権。これに対する批判がさして広がらない本土世論」。最後を松川総局長は「沖縄に押しつけ、沖縄を切り捨て、沖縄を忘れる。私たちの政府、そして本土が、敗れたのである」と結んでいます。