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琉球新報「犠牲強要を拒む意思表示 『見ぬふり』の壁に穴を」〜「『オール沖縄』全勝」の沖縄2紙社説

 少し時間がたってしまいましたが、12月14日の衆院選結果やその後についての沖縄の新聞2紙の社説を紹介し、一部を引用して書き留めておきます。
 この選挙で沖縄では、四つある小選挙区のすべてで非自民党の候補が当選を決めました。うち一つは共産党の公認候補です。自民党の公認候補もみな比例区で復活当選するのですが、小選挙区での沖縄の民意の集約という観点から見れば、自民党が獲得議席数で圧勝した本土とは際立った違いがあります。要因としては、各小選挙区で非自民の有力候補が一本化したこと、米軍普天間飛行場沖縄県内移設(名護市辺野古地区に代替基地を建設するとの日米両政府の合意)を是とするかどうかという明確な争点があったこと、11月16日の県知事選では県内移設に反対を掲げた翁長雄志氏が保革を超えた支援体制で圧勝していたこと、などが挙げられると思います。沖縄で今何が起きているのかを知るための一助として、沖縄のマスメディアを通じてこの選挙結果の意味を知ることには、本土に住む日本人にとっても大きな意義があると思います。沖縄から発せられている問いは、日本政府や政権を成り立たしめている、日本国の主権者が受け止めるべき問題であると考えるからです。

沖縄タイムス
・12月15日付「[移設反対派全勝]揺るがぬ民意を示した」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=94760

 2010年の知事選で仲井真弘多氏が「県外移設」の公約を掲げて再選を果たしたとき、作家の大城立裕さんは、選挙後に一文を草し、こう指摘している。
 「日米安全保障のための基地なら、全国で共同責任をもつべきなのに、なぜ沖縄だけの負担なのか、という単純素朴な不平が消えないのである」
 大城さんは、住民意識の変化に注目する。
 「(沖縄は)『祖国』に絶望しかけている。民族の危機とはいえまいか」
 この不公平感と政府への不信感、「自分たちの未来を自分たちで決める」という自己決定権への渇望が、知事選に次ぐ衆院選での圧勝をもたらしたのである。
 この期に及んで民意を無視し、辺野古移設を強行するようなことがあれば、嘉手納基地を含む米軍基地の一大撤去運動が起こり、政府と沖縄の関係は、大城さんが指摘するような危機的状況に陥るだろう。
 (中略)
 知事選で仲井真氏が約10万票の大差で敗れ、今回、衆院選の選挙区で自民候補がそろって敗れたのは、端的に言えば、公約を翻し、辺野古移設を認めたからだ。
 「辺野古ノー」の沖縄の民意は、政府が考えるよりもはるかに根強い。見たい現実だけを見て、沖縄の滔々(とうとう)たる世論に目をつぶることは、もはや許されない。

・12月18日付「[『辺野古』新局面]確かに山が動き始めた」
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=95243

 翁長雄志新知事は、就任後初めての県議会で「辺野古に新基地を造らせないということを私の県政運営の柱にしていく」と語った。
 現行案に対してこれほど明確に拒否の姿勢を示した知事はいない。沖縄選挙区で当選した4人の議員が国会で知事を支える。この構図ができたのも初めてだ。
 安倍晋三首相や沖縄基地負担軽減担当相を兼務する菅義偉官房長官衆院選期間中、一度も沖縄に入らなかった。9月の所信表明で「沖縄の方々の気持ちに寄り添う」といいながら、選挙応援にも入れなかったのである。
 共同通信社衆院選後の15、16両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、辺野古移設について「計画をいったん停止」と答えた人が35・0%、「白紙に戻す」が28・7%だった。
 移設賛成が反対を大きく上回っていた昨年12月の調査に比べ、世論に変化が生じていることがうかがえる。
 対日政策に影響力を持つジョセフ・ナイ元米国防次官補は今月初め、朝日新聞の取材に答え、次のように語っている。
 「沖縄の人々が辺野古への移設を支持するなら私も支持するが、支持しないなら我々は再考しなければならない」(8日付朝日新聞)。この踏み込んだ発言が、知事選後だという点に注目したい。
 米国は民意に敏感である。普段、民主主義の大切さを説いているだけでなく、敵意に囲まれた基地は機能しない、ということを経験で知っているからだ。
 ナイ氏は、中国の弾道ミサイル能力が向上したことで沖縄の基地がぜい弱になり、基地を沖縄に集中させることがリスクになりつつある、との見方を示したという。
 東アジアの安全保障環境も沖縄の民意も全国世論も、大きく変わってきているのである。
 選挙で翁長陣営と争った県議会野党も、初心に帰ってこの変化に正面から向き合ってもらいたい。
 この期に及んで辺野古移設を強硬に進めようとすれば、民意の猛反発は避けられず、島ぐるみの反対運動に発展するのは確実だ。辺野古埋め立てを強行するよりも計画を見直すほうが、普天間の危険性除去は早まる。


琉球新報
・12月15日付「安倍政権に信任 平和憲法が危機に オール沖縄の民意尊重を」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-235932-storytopic-11.html

 県民は「沖縄のことは沖縄が決める」と自己決定権を行使し、政府与党に辺野古移設拒否をあらためて突き付けたことになる。知事選に続き「オール沖縄」で反新基地の民意が示されたといえる。
 政権公約に地元が三度(みたび)反対を明確に打ち出したこと、さらには衆院選沖縄選挙区で自民党公認が全敗したという現実を安倍政権は重く受け止め、移設を断念すべきだ。地元の民意をこれ以上無視することは民主主義国家として許されない。
 選挙区で落選し、比例で復活した自民党の4氏は政府与党と歩調を合わせた辺野古移設の公約が有権者から支持を得られなかった事実を真摯(しんし)に受け止めてほしい。
 「普天間の危険性除去」の一方で、辺野古に新たな危険をもたらす移設を沖縄の政治家が推進していいのか。「一日も早い危険性除去」なら普天間飛行場の即時閉鎖しかない。
 沖縄の代表として、過重な米軍基地負担を沖縄だけに押し付ける差別政策を今後も認めていいのかを、いま一度考えてもらいたい。

・12月16日付「『オール沖縄』全勝 犠牲強要を拒む意思表示 『見ぬふり』の壁に穴を」
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-235975-storytopic-11.html

 安倍晋三首相は開票当日、「説明をしっかりしながら進めていきたい」と、なお新基地建設を強行する考えを示した。翌日には菅義偉官房長官も、沖縄の自民党候補全敗について「真摯(しんし)に受け止めるが、法令に基づき(移設を)淡々と進めていきたい」と述べた。
 まるで沖縄には彼らが相手にする民意など存在しないかのようだ。米軍基地を置く領土だけがあればいい、住民の意思など邪魔だとでも言うのだろうか。中国政府がウイグル自治区チベットでしてきたこと、最近の香港で行ったことと何が変わるのか。
 問題は、この沖縄への犠牲の強要が、安倍政権の体質に由来するだけではないという点だ。
 世論調査をすると、沖縄では辺野古移設への反対が常に7〜8割を占めるのに対し、全国では賛成が反対を上回ることもある。
 海兵隊の適地は沖縄のみ、という考えが背景にあるが、思い込みにすぎない。移動手段を考えれば北部九州に置く方が合理的だ。事実、沖縄の基地問題が浮上した1996年にも、2005年の米軍再編協議でも、当の米国が海兵隊の本土移転を打診している。だが日本側が拒んだというのが実態だ。
 尖閣問題を抱え、海兵隊が必要というのも誤りだ。日米の外務・防衛閣僚が交わした正式文書は島嶼(とうしょ)防衛を米軍でなく日本のみで対処する分野と定める。米軍が対処するなどあり得ないのだ。
 こうした事実は全国ではほとんど報じられない。報道機関の責任もあるが、結局のところ、国民は「見たくない真実」から目をそらしている。日本全体が、米軍が身近にあるのは困る、置くなら沖縄で、と無意識に考えていることの反映と言えば言い過ぎだろうか。
 だから政府の辺野古移設強行に国民の反発は少ない。沖縄への犠牲の強要は、安倍政権だけでなく日本全体の「見て見ぬふり」に由来すると考えられるのである。

【写真説明】琉球新報の15日付紙面1面(手前)と16日付社説