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地方紙・ブロック紙は「警告」「警鐘」と受け止め〜高浜原発の福井地裁仮処分

 関西電力高浜原発の運転を差し止める福井地裁の仮処分決定についての記事の続きです。
 この決定を取り上げた地方紙・ブロック紙の社説をネットでチェックしたところ、見出しのみの例を含めて27紙(中日新聞東京新聞は1紙とカウント)を確認できました。うち決定に明らかに疑義を示しているのは北國新聞。ほかの26紙は見出しのみのものも含めて、決定を警告・警鐘として真摯に受け止めるべきだ、との立場と読めました。以下に26紙の見出しを列挙します。

【15日付】
北海道新聞「『高浜』差し止め 原発回帰に重い警鐘だ」
河北新報「再稼働不可仮処分/問題提起を重く受け止めよ」
▼神奈川新聞「高浜再稼働差し止め 不安を直視した判断だ」
信濃毎日新聞原発再稼働 2度のノーかみしめよ」
新潟日報「再稼働差し止め 安全神話に警鐘鳴らした」
中日新聞東京新聞「国民を守る司法判断だ 高浜原発『差し止め』」
北日本新聞「高浜再稼働差し止め/安全の根拠再検討せよ」
福井新聞「高浜原発再稼働認めず 重い警告どう受け止める」
京都新聞「高浜差し止め  新規制基準への疑義は重い」問われた人格権/リスク「ゼロ」要求/懸念解消の努力を
神戸新聞「高浜差し止め/安全審査の正当性揺らぐ」
山陽新聞「再稼働差し止め 原発の安全性に重い警告」
中国新聞「『高浜再稼働』差し止め 新規制基準が問われる」
山陰中央新報「再稼働差し止め仮処分/多くの課題を示す判断だ」
愛媛新聞「高浜原発差し止め 政府は再稼働方針を撤回せよ」
徳島新聞「高浜再稼働認めず 政府は重く受け止めよ 」
高知新聞「【再稼働の禁止】危険性認めた決定は重い」
西日本新聞「高浜原発仮処分 決定を重く受け止めたい」
大分合同新聞「再稼働差し止め仮処分 立ち止まる機会にしよう」※見出しのみ
熊本日日新聞「高浜原発仮処分 前のめり姿勢への警告だ」※見出しのみ
南日本新聞「[高浜原発仮処分] 再稼働の不安に応えた」
琉球新報「再稼働差し止め 脱原発の世論と向き合え」

【16日付】
秋田魁新報「高浜原発差し止め 国は謙虚に受け止めよ」
岩手日報「再稼働差し止め 原発の安全に重い警告」
福島民報「【高浜原発差し止め】国は当事者意識を持て」
沖縄タイムス「[高浜原発差し止め]『粛々と』とはいかない」

【17日付】
佐賀新聞「高浜原発差し止め」


 決定に疑義を示した北國新聞の社説の一部を、備忘を兼ねて引用します。「福井地裁の仮処分決定には疑問をぬぐいきれない」としつつ、感情的になることなく、原子力規制委の説明責任が重くなること、再稼働に向けた手続きでは国が前面に立たなければならなくなることを指摘しています。

北國新聞15日付「高浜原発差し止め 疑問ぬぐえない地裁決定」

 裁判官は原発の安全性や規制基準の妥当性、地震の規模を合理的に判断する知識や経験をどれだけ有しているのだろうか。原子力規制委が科学的、技術的な見地から進めた審査を根本から否定する判断は科学的な検証にどこまで耐えるのだろうか。福井地裁の仮処分決定には疑問をぬぐいきれない。
 原発の安全をめぐって規制委と地裁の判断が対立する構図は地元に不安を招く。司法が原発の新規制基準と審査を否定したことは、原発の規制行政に対する信頼が揺らぎかねない事態である。
 福島第1原発事故を受けて原子力規制委が定めた新基準が仮処分決定の指摘通りに「緩やかに過ぎ、適合しても安全性は確保されていない」のであれば、再稼働の前提条件が成り立たなくなる。北陸電力志賀原発など他の原発の運転差し止め訴訟にも影響が及ぶ。
 原子力規制委に求められる説明責任はより重くなったのではないか。新規制基準の合理性と審査内容を分かりやすく示す必要がある。福井地裁の決定を受けて菅義偉官房長官原発の再稼働を進める方針に「変わりはない」と述べた。それなら国は再稼働に向けた手続きの中で、もっと前面に立たなければならないだろう。


 以下に、福井地裁決定を警告・警鐘と受け止めるべきとする社説の中で、印象に残ったものをいくつか、備忘を兼ねて一部を引用して書きとめておきます。

河北新報「再稼働不可仮処分/問題提起を重く受け止めよ」

 規制委も実は、新基準適合と安全はイコールではない、と再三繰り返している。高浜2基の適合を決定した後の会見でも、田中俊一委員長は「リスクをゼロと確認したわけではない」と述べた。
 あくまで科学的に求める基準に対応できたかどうかを判断するだけとの姿勢に徹する構えだが、安倍政権は規制委が適合と判断した原発の再稼働を進める、と言明する。
 基準適合判断をお墨付きと位置付けたい政府とそれを避けたい規制委の間で、再稼働の前提になる「安全」の判断が宙に浮いている格好だ。
 再稼働推進の立地自治体からも「誰が最後の安全性を確認して守ってくれるのか」と苦言が出ている。責任の所在が曖昧なまま、なし崩し的に手続きや準備が進む状況では不安が収まるわけはない。
 万が一の危険があり得るならば、事故が起きた場合の避難が最も重要になるが、規制委の審査対象ではない。政府が「前面に立つ」と言いつつ、実効ある避難計画の立案や訓練は後手に回る状況だ。


福島民報「【高浜原発差し止め】国は当事者意識を持て」

 一方で官房長官は会見で「政府としては規制委の判断を尊重し、再稼働の方針に変わりはない」とも話している。そこまで言うのなら、当事者としての国の関わりを明確に認めて対応すべきではないか。
 東京電力福島第一原発廃炉・汚染水対策でも、安倍首相らは「国が前面に立つ」と言い続けているが、東電任せとの批判が消えない。放射性物質を含む雨水が、原発の排水路から港湾外の海に流出し続けていた問題では、経済産業省東電に情報開示を積極的に求めなかった管理監督の認識の甘さも露呈した。
 今回の決定を通して浮かび上がったのは、電力会社任せ、規制委任せにしようとする国の相も変わらぬ当事者意識の薄さだ。


信濃毎日新聞原発再稼働 2度のノーかみしめよ」

 問題なのは政府の対応だ。高浜原発の半径30キロ圏には、京都府の7市町と滋賀県高島市も含まれるのに、再稼働の同意を得る範囲について判断を示さず、地元に丸投げしている。住民の避難計画の実効性も疑わしいままだ。
 福井県には高浜、大飯を含め14基の原発が集中し、電力会社は10基の再稼働を目指している。周辺住民との溝を埋めず、なし崩しに動かすことは許されない。
 住民と自治体、国、電力会社で原発の問題点や地域のエネルギー構想を話し合う場を設けてはどうか。立地自治体の経済は原発への依存度が高い。これに代わる振興策にも知恵を集めたい。
 樋口裁判長は大飯原発の判決でこう述べていた。「多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いという問題を並べて論じ、当否を判断すること自体、許されない」。政府や電力会社に欠けている大事な観点だ。


新潟日報「再稼働差し止め 安全神話に警鐘鳴らした」

 そもそも問題点は少なくない。規制委は高浜3、4号機で同時に事故が起きても対応できることを確認したとしているものの、1、2号機の原子炉に燃料がなく、停止していることが前提だ。
 高浜原発のある若狭湾沿いには原発が全国最多の14基あるが、複数にまたがって事故が起きた場合どうなるかといった集中立地の問題は考慮されていない。
 避難計画の実効性も疑問視されている。福島事故の教訓から、3府県にまたがる30キロ圏の全自治体を再稼働の同意対象に加えるべきだとの声は強い。多くの問題を積み残したままなのが実情である。
 政府は原発を「ベースロード電源」と位置づけ、2030年の電源比率で割合を18〜19%とする方向で検討している。
 2割を切ることで、原発に批判的な世論への配慮をにじませているようにも見える。
 だが、この数字は再稼働だけにとどまらず、新規制基準で定めた40年を超えて運転するか、建て替えや新増設をして初めて達成可能となるものだ。
 核燃料サイクルや放射性廃棄物の最終処分といった重要な問題も事実上、先送りとなったままだ。


福井新聞「高浜原発再稼働認めず 重い警告どう受け止める」

 だが現実的課題も横たわる。高浜3、4号機は今年2月、新規制基準の適合性審査に合格し、高浜町会がいち早く再稼働に同意。町長や知事の判断待ちだ。
 国策民営の原発判断が行政と司法で相反すれば、住民を抱える立地自治体は「股裂き状態」となり、困難な状況になりかねない。脱原発の世論は勢いを増し、原発から一部が30キロ圏内に入る京都府滋賀県の「同意」判断も一層難しくなる。
 原発の安全性に関しては科学的、技術的見地による客観性の高い判断が求められてきた。過去の裁判では高度な専門性を理由に原発の危険性について科学的判断に踏み込まず、事実上、行政裁量に任せてきた。
 樋口裁判長は大飯原発訴訟で「学術的論議を繰り返すと何年たっても終わらない」と指摘したように早期判断に導いた。今後、上級審で一体誰がどのように判断していくのか、司法全体の責任は一段と重くなる。


愛媛新聞「高浜原発差し止め 政府は再稼働方針を撤回せよ」

 新基準自体が否定された影響は、高浜原発だけにとどまらない。示された懸念は、分離して仮処分の審理が進む関電大飯原発3、4号機(同)や、原子力規制委員会の審査をほぼ終えた四国電力伊方原発など、全国どの原発にも当てはまる。
 住民らは、基準地震動を超える地震で炉心が損傷し、重大事故に陥る可能性があるとして人格権が侵害されると訴えた。決定は「関電の想定は信頼に値する根拠が見いだせない」と、住民側の主張を認めた形だ。「250キロ圏内の住民に具体的危険がある」という指摘を、社会全体で受け止める必要がある。


徳島新聞「高浜再稼働認めず 政府は重く受け止めよ 」

 高浜3、4号機では、地元の同意の在り方をめぐっても問題が浮上している。
 地元同意は福井県高浜町だけでいいというのが政府と同県の立場だが、避難計画の策定が求められる30キロ圏内の自治体には、京都府滋賀県の8市町が含まれている。
 広範囲に放射性物質が飛散する原発事故に、県境はない。甚大な被害に遭う恐れがある自治体や住民の意向を十分に尊重すべきである。
 東京電力福島第1原発では、廃炉の見通しどころか、詳しい事故の原因も解明されていない。汚染水や除染廃棄物の処理もままならず、福島県の避難者は今も12万人近くに上っている。
 各種世論調査で、再稼働に反対する意見が過半数を占めているのは当然だろう。
 安全性への不安が残っている中、再稼働に踏み切ることは許されない。


※追記 2015年4月20日6時45分
 岐阜新聞も15日付朝刊紙面に社説を掲載。知人がSNSで知らせてくれました。ありがとうございます。
 ▼岐阜新聞「再稼働差し止め仮処分 立ち止まる好機としたい」