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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

地方紙・ブロック紙に「脱・辺野古」の論調〜翁長知事・安倍首相会談の社説の記録

 沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題をめぐって、沖縄県の翁長雄志知事と安倍晋三首相が17日に初の会談を行ったことについて、地方紙やブロック紙が社説でどのように取り上げているか、ネットで目につく範囲で調べてみました。社説の見出しのみをネットで公開している新聞も含めて17紙(以前の記事で紹介した東京新聞中日新聞も含めれば18紙)を見ることができました。
 いずれも、安倍晋三首相や政府側に、沖縄の民意と向き合うよう求める内容です。特に今回は、安倍首相や菅義偉官房長らが、普天間飛行場の危険性を除去するための「唯一の解決策」と繰り返す、現行の沖縄県名護市辺野古地区への移設計画に対して、別の方策を目指すよう、いわば「脱・辺野古」をはっきりと主張したり(北海道新聞など)、現在政府が進めている辺野古沖の海底ボーリング調査を止めるよう求めたり(河北新報など)している社説が目にとまりました。とりわけ岩手日報のように「『なぜ沖縄なのか』という疑問は一人政府のみならず、戦後70年の節目に立つ本土住民に等しく跳ね返る」と、この問題の責任が政府だけのものではないことに触れる社説が出てきたことは、日本本土のマスメディアでの小さくない変化だと思います。
 すべての地方紙、ブロック紙を網羅した調査ではありませんが、この限られた範囲で見るだけでも、普天間移設問題が「日本本土で知られる」ことの広がり具合が、じりじりと進んできているのではないかと感じます。
 以下に、17紙の社説の見出しと、いくつかの社説は一部を引用して書きとめておきます。ゴチック部は、特にわたしの印象に残った部分です。

【18日付】
北海道新聞「安倍・翁長会談 沖縄の声は聞こえたか」

 沖縄が日本のために払った犠牲をどう考えるのか。この問いに対する答えなくして、和解は考えられない。「国家の意思に従え」という単純な論理ばかりを振りかざす首相は認識を改めるべきだ。
 今月下旬には日米首脳会談が予定されている。翁長氏は辺野古移設反対の沖縄の民意を米国に伝えるよう要請した。
 米国の意向を沖縄に押しつけるが、沖縄の意を受けて米国を説得しようとはしない。これが日本政府の一貫した態度だった。
 米国内でも沖縄への過度な米軍基地の集中に懸念が出ている。辺野古移設とは別の方策を米国とともに模索するのが首相の責務である。県外、国外への移設を目指すのがあるべき道だ。


河北新報「首相・沖縄知事会談/長い対話の始まりと心得よ」

 初のトップ会談は平行線に終わった。計画に固執し、会談をステップにする形で作業を進め既成事実を積み上げるようでは、沖縄県民の感情を逆なでし、調整を遠ざけて根本的な解決をより難しくすることになるだろう。日米の同盟関係にも傷がつこう。
 政府と沖縄県の溝は深く、一度や二度の会談で、双方が歩み寄り、妥協が図られる課題ではない。ましてや調整を経ない30分ほどの話し合いで大きく進展するはずもない。
 一筋縄にはいかないことを覚悟し、政府は当面、建設に向けた海底ボーリング調査の作業を中断し、精力的に話し合いを重ねるべきである。
 会談を都合よく解釈し、地元に「礼は尽くした」と言わんばかりに事を急ぐような対応は避けねばならない。関係修復を閉ざし、解決不能の決定打になりかねないからだ。
 まずは会談を「終えた」と捉えるのではなく、米政府の理解も得つつ、落としどころを探る長い協議が「始まった」と受け止めたい。


秋田魁新報「安倍・翁長会談 解決へ何度でも対話を」

 首相には日米合意に基づく辺野古移設という崩せない枠組みがある。翁長氏は知事選に加え、沖縄県の4小選挙区全てを移設反対派が制した昨年の衆院選の民意を背負っている。
 普天間の「危険性除去」について首相は「われわれも沖縄も思いは同じ」と述べた。しかし問われているのは、普天間の代替施設を沖縄県内に新たに造ることの是非である。日米合意の再考にまで踏み込まなければ、政権と沖縄県の歩み寄りはあり得ない状況だ。
 翁長氏は「辺野古移設が唯一の解決策という固定観念に縛られず、作業を中止してほしい」と訴えた。政権にとって辺野古移設以外の選択肢は、本当に考えられないのか。沖縄県の願う「基地負担軽減」が何を指すのか、政権はいま一度、見詰め直す必要がある。

 
岩手日報「安倍・翁長会談 『なぜ』に明解な説明を」

 鳩山発言の変節で、現地では「県民の被差別意識は、かつてないほど高まっている」と聞いたものだ。県民の意思とは無関係に方針転換した前知事への反発も、それを根拠に移設作業を強行する国への反発も、底流には沖縄の民意が軽んじられることへのやり切れなさがあるだろう。
 翁長氏が「嫌なら代替案を出せと言うのは、こんな理不尽なことはない」と言う時、対面する首相の向こうに本土住民の意思を見ているのは想像に難くない。政府との亀裂は本土との亀裂に等しい。
 民主党政権の2012年6月から12月まで防衛相を務めた森本敏氏は、退任前の会見で普天間移設について、辺野古案は軍事的、地政学的な理由ではなく政治的都合−との見解を述べた。「他に移設先があれば、沖縄でなくてもよい」との考え方だ。
 「なぜ沖縄なのか」という疑問は一人政府のみならず、戦後70年の節目に立つ本土住民に等しく跳ね返る。ここを説明できないままに計画を推し進めるのは、国と国民の信頼関係に関わって重大な禍根を残すだろう。政府は移設作業より説明責任を優先させるべきではないか。

 
信濃毎日新聞「首相と沖縄 痛みを理解しているか」

新潟日報「首相・翁長会談 沖縄の痛み踏まえてこそ」

 
福井新聞「首相、沖縄知事会談 『負担軽減』は基地撤去だ」

 先の大戦で日米決戦の場となり、一般住民だけでも10万人近く犠牲になった悲劇の島だ。戦後70年たった今でも国益の「捨て石」と住民は言う。翁長氏が菅会談で述べたように「沖縄県が自ら基地を提供したことはない。強制接収された」のが歴史の事実だ。
 国全体の0・6%にすぎない県土に米軍専用施設の約74%が集中。米兵による女性暴行や傷害事件が相次ぎ、普天間隣接地でヘリ墜落事故も起きた。土地は無条件で返還すべき―これが沖縄の「清算」であろう。
 翁長氏は「自ら土地を奪っておきながら老朽化したとか、世界一危険だからとか、(移設が)嫌なら代替案を出せと言うのは、こんな理不尽なことはない」「私は絶対に辺野古に基地は造らせない」と言い切った。
 辺野古へ移設すれば基地が要塞化する懸念も強い。日米軍事専門家の間でも沖縄の地理的優位性に疑問を投げかけ、ミサイル攻撃の標的になる危険性を指摘する声さえある。果たして「この道しかない」という安倍政権のワンフレーズ・ポリティクスがどれだけ説得力を持つのか疑問だ。


京都新聞「安倍・翁長会談  『唯一の解決策』超えて」

 戦争末期、地上戦で県民の4人の1人が犠牲になった沖縄は、終戦から1972年の本土復帰まで27年間、米軍に占領された。この間、多くの土地が強制収用され、今も国内の米軍専用施設の約74%を背負い続ける。その苦難の歴史と県民感情に正面から向き合わない限り、答えを出すのは難しい。
 首相がなすべきことは、辺野古移設の日米合意を優先するばかりではなく、沖縄の思いを米側にきちんと伝えた上で解決の道を探ることだ。その意味で今度の訪米はいい機会だ。
 政府は沖縄との溝を埋める努力がいる。そのためには、沖縄防衛局が進める移設への作業をいったん止め、冷静に対話ができる環境をつくる必要がある。地元の理解と信頼関係なくして、安定した安全保障は望めない。民意に耳を傾け、「唯一の解決策」を超える道を探らねばならない。


神戸新聞「沖縄と基地問題/米国との関係が最優先か」

中国新聞「首相・沖縄知事会談 『対米ポーズ』では困る」

山陰中央新報「首相・沖縄知事会談/事態打開のきっかけに」

愛媛新聞「首相と翁長知事会談 民意くみ真摯な対話を続けよ」


高知新聞「【安倍・翁長会談】硬直思考では平行線だ」

 最近の本紙に、かつて米国防次官補代理として沖縄返還交渉に携わったモートン・ハルペリン氏の評論が掲載された。氏は辺野古移設に関し「日本政府が民意を黙殺している」とし、民意を無視して造った基地に「安定的な将来はない」と警告する。
 氏はまた「唯一の解決策」にも疑問を投げ掛ける。海兵隊基地を置く場所として沖縄以外の東アジア地域や米国内の基地など、他の選択肢も考慮し、日米が真剣に検証すべきだという
 ハルペリン氏ばかりでない。有力な現役上院議員らから辺野古移設は「非現実的」と異論が出たり、沖縄への基地集中を危機管理の面から問題視したりする意見もある。
 米国は民主主義のプロセスを誇りとする国だ。首相は日米首脳会談でありのままの沖縄の現実を、オバマ大統領に伝えることが必要だろう。


西日本新聞「首相と沖縄知事 痛みへの共感が第一歩だ」

大分合同新聞「首相・沖縄知事会談 事態打開のきっかけに」※見出しのみ

熊本日日新聞「首相・翁長氏会談 旧来の発想抜け出す時だ」※見出しのみ


南日本新聞「[辺野古会談] 国は誠実に対話続けよ」

 首相は今月来日したカーター米国防長官に「(辺野古移設を)確固たる決意の下に進めていく」と表明した。官房長官が沖縄との対話を継続すると表明してからわずか3日後である。
 沖縄県民に対して著しく配慮を欠いた発言である。沖縄の民意を軽んじているとしか思えない。
 首相は26日から訪米する。オバマ大統領と会談し、日米同盟の強化を世界に発信する方針である。今回の会談を辺野古問題解決へ努力する姿勢のアピールに利用しようとしているのなら、沖縄の怒りはますます増幅するに違いない。
 「上から目線」と翁長氏が政府を批判して以降、長年基地負担に苦しんできた県民にさらに共感が広がっているという。安倍首相が今向き合うべき相手は米政府ではない。
 辺野古埋め立てに向けた作業を続けたままで、沖縄側と冷静な対話はできない。政府は直ちに工事を止め、信頼醸成に努めるべきだ。


 自宅で郵送で購読している琉球新報の18日付紙面が手元に届きました。1面トップの見出しは、翁長知事が安倍首相に言いきった言葉「新基地絶対造らせない」です。