4月末に日米間の軍事協力関係をめぐって大きなニュースが続きました。日米両政府は27日、外務・防衛担当閣僚による協議で、日米防衛協力の新たな指針を決定しました。翌28日には安倍晋三首相とオバマ米大統領が会談しました。
※「日米、地球規模へ協力拡大 18年ぶり防衛指針改定」2015年4月28日(47news=共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015042701002057.html
【ニューヨーク共同】日米両政府は27日午前(日本時間27日深夜)、ニューヨークで外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)を決定した。自衛隊と米軍の協力を地球規模に広げ、平時から有事まで「切れ目のない」連携を打ち出した。安倍政権が認めた集団的自衛権行使を反映させたほか、沖縄県・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国を念頭に離島防衛への共同対処を明記した。改定は18年ぶり。
安倍政権が整備を目指す新たな安保法制の核心部分を先取りし、海外を含む自衛隊活動の積極的展開を促す大きな転機となる。
※「国際秩序構築へ日米同盟強化 TPP早期妥結を主導」2015年4月29日(47news=共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015042801002268.html
【ワシントン共同】安倍晋三首相は28日午前(日本時間同日深夜)、オバマ米大統領とワシントンで会談した。国際秩序の構築に向け日米同盟を強化することで一致。環太平洋連携協定(TPP)交渉の早期妥結を日米が主導する方針を確認した。沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設推進でも合意した。会談に合わせ、中国による南シナ海の岩礁埋め立てやロシアのクリミア編入を念頭に「力や強制による一方的な現状変更」を認めないとした日米共同ビジョン声明を発表した。
会談後の共同記者会見で安倍首相は「日米同盟の歴史に新たな一ページを開いた」と強調した。
東京発行の新聞各紙も28日付朝刊から29日付朝刊にかけて、それぞれ1面トップで報じるなど大きく扱っています。そして、日米の軍事協力の拡大、米軍と自衛隊の行動の一体化、自衛隊の活動の飛躍的な拡大に対して、各紙の論調は批判ないしは懐疑的な姿勢と全面支持の姿勢とに2極化しています。前者は朝日、毎日、東京の各紙、後者は読売、産経、日経の各紙です。このニュースについてのわたしの個人的な受け止めはともかく、戦争と平和の問題をめぐってマスメディアの論調が2極化している状況には危惧の念があります。本来は異なった論調がメディアの間にあること自体は、多様な価値観が社会に保たれていることを担保する意味で、悪いことではありません。しかし過去の戦争の歴史を振り返ると、いざ戦争とのかけ声が高まってきたときには、戦争に反対する言論はかき消され、あるいは転向を迫られていきます。日本の現代史で言えば、1930年代に新聞は戦争遂行一色になりました。その後、1945年の敗戦まで、新聞は戦争をあおる側に立ち、「大本営発表」報道に代表されるように、事実を報道することすらできなくなっていきました。戦争と平和の問題に関する限りは、マスメディアは歴史を踏まえて慎重な上にも慎重であって然るべきではないか、と考えています。
この日米の閣僚間、首脳間の協議では、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題も取り上げられ、名護市辺野古への移設の方針を再確認したと報じられています。沖縄県の翁長雄志知事は安倍晋三首相と会談した際、辺野古移設に沖縄の民意は反対であることをオバマ米大統領に伝えるよう要請していました。安倍首相がオバマ大統領と会談するよりも前に、2プラス2の場で「辺野古移設」は再確認されたようです。閣僚間の協議で、そして首脳会談の中で、日本側は沖縄の民意をどう説明したのか、あるいは説明しなかったのか。日本本土のマスメディアは続報の中で明らかにすべきだろうと思います。
4月28日は、1952年にサンフランシスコ講和条約が発効して、沖縄が日本本土の独立から切り離されて米施政権下に置かれた日、沖縄の「屈辱の日」です。那覇市の沖縄県庁前で開かれた県民集会には雨の中、約2500人が参加したと報じられています。在京紙で、この集会の記事を紙面に載せていたのは朝日、毎日、東京でした。
沖縄では翁長知事が29日に記者会見し、強い憤りを表明したことが報じられています。
※「沖縄知事、辺野古確認に強い憤り 日米首脳会談を批判」2015年4月29日(47news=共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015042901001522.html
沖縄県の翁長雄志知事は29日、県庁で記者会見し、安倍晋三首相とオバマ米大統領が28日の日米首脳会談で米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設を確認したことに対し「強い憤りを感じている」と批判した。「あらゆる手法を用いて辺野古に新基地は造らせない」と述べ、辺野古移設を阻止する意向を重ねて示した。
翁長氏は5月下旬にも訪米し、辺野古移設に反対する考えを米政府に直接伝達する意向を表明。地元の理解なしに辺野古移設を進めるのは不可能だと強調し「頓挫することによって起きる事態はすべて政府の責任だ」と警告した。
以下は東京発行各紙の28日付朝刊、29日付朝刊のそれぞれ1面の記事や社説の主な見出しです。これだけでも各紙の論調と、その2極化ぶりは読み取れるのではないかと思います。備忘を兼ねて書きとめておきます。
【28日付朝刊】
▼朝日新聞
1面トップ「日米同盟の本質 転換」「防衛指針18年ぶり改定」「地球規模に協力拡大」
1面「安保条約の枠超える」解説
社説「日米防衛指針の改定 平和国家の変質を危ぶむ」
▼毎日新聞
1面トップ「切れ目ない日米体制構築」「防衛指針改定で合意」
1面「辺野古移設が唯一の解決策」「日米両国で確認」
社説「新日米防衛指針 国民不在の安保改定」
▼読売新聞
1面トップ「対中 平時も一体運用協議」「自衛隊と米軍」「日米防衛新指針 合意」
1面「安保法案 自公、政府見解を了承」
社説「防衛協力新指針 日米同盟の実効性を高めたい」
▼日経新聞
1面トップ「日米、世界で安保協力」「指針18年ぶり改定」「新法制も与党実質合意」
1面「日米同盟、線から面へ」
▼産経新聞
1面準トップ「集団的自衛権 5分野例示」「日米ガイドライン 再改定合意」
社説(主張)「日米新防衛指針 平和守る同盟の再構築だ 『対中国』で切れ目ない対応を」
▼東京新聞
1面トップ「戦時の機雷掃海明記」「日米防衛新指針 安保法制より先行」「『ホルムズ』念頭 地球規模で対米協力」
1面「与党協議を飛び越え」解説
1面「辺野古に新基地」「首脳会談より前に再確認」
社説「防衛指針と安保法制 『専守』骨抜きの危うさ」
【29日付朝刊】
▼朝日新聞
1面トップ「日米『核兵器は非人道的』」「不拡散へ共同声明」「首脳会談 同盟強化を確認」
第2社会面「『屈辱の日』沖縄の怒り」(那覇市、写真)
▼毎日新聞
1面トップ「安保・経済で同盟強化」「日米首脳 共同声明」「TPP進展を歓迎」「戦後70年『和解の模範』」
社会面「屈辱の日 2500人集会」「雨中、辺野古移設反対訴え」(那覇市・沖縄県庁前、写真)
▼読売新聞
1面トップ「日米同盟 世界に貢献」「戦後70年 過去を克服」「中国の海洋進出 批判」「TPP妥結へ進展」
▼日経新聞
1面トップ「日米『不動の同盟国』」「TPP妥結へ協力」「中国の海洋進出けん制」
▼産経新聞
1面トップ「「戦後70年 新時代の同盟強化」「首脳会談、日米、中国にらみ連携」
▼東京新聞
1面トップ「『辺野古に基地』再確認」「同盟強化で日米首脳」
1面「沖縄『造らせない』」「『屈辱』の4・28集会」(那覇市・沖縄県庁前、写真)
※追記 2015年4月30日8時50分
4月30日付の東京発行朝刊各紙は、米議会での安倍首相の演説をいずれも1面トップで扱いました。各紙の1面記事や社説の主な見出しを書きとめておきます。
安倍首相は沖縄県の翁長知事から「普天間飛行場の辺野古移設に反対」との沖縄の民意をオバマ米大統領に伝えるよう要請を受けていました。各紙の記事によると、安倍首相は日米首脳会談で、翁長氏からそう伝えるよう要請があったことはオバマ大統領に伝えたようですが、同時に「自分の立場はゆるぎない」(東京新聞)として、辺野古移設を進めることを表明したとのことです。沖縄の民意をばっさりと切り捨てた、ということです。
29日の翁長氏の会見は、各紙によって扱いが分かれています。朝日、毎日、東京が独立の記事の仕立てなのに対し、日経は単独の記事ではなく、読売、産経は総合面の短信です。日米の軍事協力の劇的な拡大をどう評価するか、その論調の違いと符合する扱いの差異だと感じます。
【30日付朝刊】
▼朝日新聞
1面トップ「先の大戦に『痛切な反省』」「安保法制『夏までに成就』」「安倍首相、米議会で演説」「『侵略』『おわび』使わず」
1面「対米・対アジア 二つの顔」立野純二・論説副主幹
4面(総合面)「首相『辺野古揺るがぬ』」「オバマ氏『負担軽減に協力』」/「沖縄知事『首相の固定観念』」
社説「日米首脳会談 核廃絶へ、次は行動だ」「『和解の力』を礎にして」(2本)
▼毎日新聞
1面トップ「首相『大戦、痛切に反省』」「安保法制『夏までに』」「米議会演説」
1面「辺野古が解決策 立場ゆるぎない」「首脳会談で首相」
2面「沖縄知事『強い憤り』」「辺野古移設確認を批判」
社説「日米同盟強化 中国けん制に偏らずに」重層的な地域安定策を/辺野古移設は再考を
▼読売新聞
1面トップ「大戦『痛切な反省』」「歴代首相の認識継承」「日米『希望の同盟』」「首相 米議会で演説」
1面「アジア投銀 対応連携 首脳会談」
1面「『海の長城』懸念共有」連載企画・日米新時代1
社説「日米首脳会談 世界平和と繁栄に役割果たせ 対中国で『法の支配』を広めたい」「不動の同盟」発信せよ/新防衛指針の具体化を/TPP早期妥結図ろう
4面「辺野古移設推進『残念』」※短信
▼日経新聞
1面トップ「首相『痛切な反省』」「大戦、アジアに苦しみ」「米議会演説」「米国との和解強調」/「安保法制成立 首相『夏までに』 異例の国際公約」
2面「対米公約で退路断つ」「普天間移設や安保法制」※沖縄知事会見を含む
社説「日米が支えるアジア安定への一歩」緩やかな安保網築け/TPPの早期妥結を
▼産経新聞
1面トップ「首相『日米 希望の同盟』」「米議会演説 中国を念頭」
1面「未来志向 共感強める米」
1面「『対処力、一層の強化』」「首脳会談 防衛指針再改定を評価」
5面「辺野古移設確認に『強い憤り』」※短信
社説(主張)「日米首脳会談 地球規模の同盟実践を TPP妥結で経済新秩序築け」「南シナ海」が試金石に/新投資銀でも連携保て
▼東京新聞
1面トップ「『反省 歴代首相と同じ』」「首相、慰安婦問題には触れず」「安保法制 今夏成立を約束」「米議会演説」
1面「辺野古新基地『ゆるぎない』」「首相『知事反対』は伝達 日米首脳会談」
1面「翁長知事憤り『来月訪米、直接訴え』」
2面「『首相、かたくなな固定観念』」翁長氏会見要旨
社説「日米首脳会談 物言う同盟でありたい」不戦が戦後の出発点/憲法制約あるはずだ/沖縄県民の反対無視