ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

首相への怒声を報じるマスメディア、報じないマスメディア

 もう1週間以上も前のことになってしまいましたが、沖縄の基地の問題や本土マスメディアのありようをめぐる様々な論点にかかわることだと思いますので、備忘を兼ねて書きとめておくことにします。沖縄の「慰霊の日」のことです。
 第2次大戦末期の沖縄戦で、日本軍の組織的戦闘が終結したとされる6月23日は、沖縄では「慰霊の日」です。戦後70年の今年は、米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設をめぐって、沖縄県民の総意として反対を訴える翁長雄志知事と、強行する安倍晋三政権・日本政府が全面的に対立する中で迎えました。糸満市摩文仁平和祈念公園で行われた県と県議会主催の「沖縄全戦没者追悼式」では、翁長知事が平和宣言で辺野古移設に触れ、作業の中止を求めると歓声と拍手に包まれたのに対し、安倍首相には「戦争屋」「帰れ」との怒号や抗議の声も飛びました。
 このことを報じたかどうかで、本土マスメディアの対応は分かれました。東京都内発行の全国紙で見ると、朝日新聞毎日新聞などが伝えましたが、読売新聞は伝えていません。産経新聞は伝えてはいますが、企画記事の中で「慰霊の邪魔になる」との批判的な取り上げ方でした。共同通信やAFP、ロイター通信も報じていますが、NHKは目にする限りでは触れていません(チェック漏れがあるかもしれません)。ネットでは、AFPの東京特派員がツイッターで「へい、NHK。なんで安倍首相に『帰れ!』と叫んでいる人々を映さないんだ?」とつぶやいたことが話題になっていました。
 全国紙で言えば、安倍政権支持を鮮明にし、普天間飛行場辺野古移設も支持する読売、産経両紙が、首相への怒声を報じないか、報じても批判的なトーンというのは、偶然ではないと思います。ちなみに琉球新報の記事によると、安倍首相に「戦争屋は出て行け」と怒声を浴びせ、警官に促され退席させられた那覇市の92歳の男性は、沖縄戦で失った祖父の遺骨が見つかっていません。「辺野古の基地建設を止めることが、私が生きている間に沖縄差別をなくす最後の機会だと思っている」と取材に話しています。彼にとっては、安倍首相や日本政府が普天間飛行場辺野古移設を強行することこそが「慰霊の邪魔」なのだろうと感じます。
【参考】
▽AFP東京支局のヒュー・グリフィスさんのツイート
 https://twitter.com/Huw_Griffith/status/613567488110886912
琉球新報「『戦争屋 帰れ』安倍首相に罵声 沖縄全戦没者追悼式」2015年6月24日
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244719-storytopic-1.html


 式典へ3年連続の出席となった安倍首相のあいさつで、今年と昨年を比べて気付いたことがあります。
 沖縄の基地負担に触れて昨年は「申すまでもなく、米軍基地の集中が、今なお県民の皆様の大きな負担となっています。基地の負担を能うる限り軽くするため、沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、『できることは全て行う』との姿勢で全力を尽くしてまいります」と話していました。今年は「沖縄の人々には、米軍基地の集中など、永きにわたり、安全保障上の大きな負担を担っていただいています。この三月末に西普天間住宅地区の返還が実現しましたが、今後も引き続き、沖縄の基地負担軽減に全力を尽くしてまいります」と変わりました。「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら」の文言が消えました。正直と言えば正直だと思います。
【参考】
▽平成二十六年沖縄全戦没者追悼式における内閣総理大臣挨拶
 http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0623okinawa.html
▽戦後70年沖縄全戦没者追悼式における内閣総理大臣挨拶
 http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0623aisatsu.html