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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

戦後70年の安倍首相談話、読売、産経・FNN調査も「評価」が上回る〜安保法案、産経・FNN調査では「必要」が急増 ※追記あり

 安倍晋三首相が8月14日に発表した戦後70年談話に対する世論調査が2件報じられました。読売新聞社が15、16日に実施した調査では、「評価する」48%、「評価しない」34%。同じ日程で産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が実施した調査では「評価する」57・3%、「評価しない」31・1%でした。先行した共同通信社の調査も含めて、いずれも「評価する」が「評価しない」を上回っています。

※読売新聞「70年談話を『評価する』48%…読売調査」=2015年8月18日
 http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000302/20150817-OYT1T50088.html
※産経ニュース「内閣支持率43%に回復 首相談話『評価57%』 安保法案『必要』58%」=2015年8月17日
 http://www.sankei.com/politics/news/150817/plt1508170004-n1.html

 まとめると以下の通りです。
共同通信 「評価する」44・2%「評価しない」37・0%
▼読売新聞 「評価する」48%「評価しない」34%
産経新聞・FNN 「評価する」57・3%「評価しない」31・1%

 「評価する」「評価しない」の差をみると、共同通信7・2ポイント、読売新聞14ポイント、産経新聞・FNN26・2ポイントと随分開きがあります。新聞紙面に掲載されている質問項目をみてみると、ある程度、その理由が推察できます。
 読売新聞の設問は次の通り。談話の内容には言及していません。

 安倍首相は、戦後70年を迎えるにあたり、談話を発表しました。あなたは、この戦後70年談話を、評価しますか、評価しませんか。

 産経新聞・FNNの設問は、まず首相が談話に「反省」「侵略」「植民地支配」「お詫び」という言葉を盛り込み、「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と表明したことを説明してその姿勢について評価を尋ね(回答は「評価する」59・8%「評価しない」31・5%)、次に、談話が「戦争に関わりのない世代に、謝罪を続ける宿命を負わせてはなりません」と表明したことへの評価を尋ね(「評価する」66・1%「評価しない」27・7%)、その上で次のように尋ねています。文体は要旨と思われます。

 70年談話は、積極的平和主義を訴え、国際社会で責任を果たしていく「未来志向」を打ち出している。談話全体について

 「未来志向」という言葉自体にマイナスイメージはないと思います。産経新聞・FNNの調査結果で、70年談話の全体の評価がほかの調査と比べて「評価する」が高く出ているのはそうしたことにもよると推察されます。考えようの違いかもしれませんが、回答を一定の方向に誘導する意図的な設問の組み方のようにも感じました。


 なお、内閣支持率は以下の通りです。カッコ内は前回比。「支持」が回復し、「不支持」が減る傾向にあります。
▼読売新聞 支持45%(2ポイント増) 不支持45%(4ポイント減)
産経新聞・FNN 支持43・1%(3・8ポイント増) 不支持45・0%(7・6ポイント減)


 国会で審議中の安全保障関連法案については、産経新聞・FNNの調査で法案が「必要」との回答が58%に上り、前回調査比で15・9ポイント増です。「必要ない」は33・1%で前回比16・6ポイント減。「必要」「必要ない」が逆転したのが目を引きます。
 ※産経ニュース「安保法案『必要』が16ポイントも上昇 女性に浸透 全世代で『必要』が多数」=2015年8月17日
  http://www.sankei.com/politics/news/150817/plt1508170012-n1.html
 産経新聞は以下のような分析を示しています。

 民主党など野党による「戦争法案」「徴兵制復活」といったレッテル貼りが一時的に盛り上がったが、浸透せず有権者の多くが冷静に判断するようになったためとみられる。

 後述のように、同時期の読売新聞の調査では法案への「反対」が「賛成」を大幅に上回っています。わたしは別の要因の可能性もあるのではないかと感じています。
 産経新聞・FNNの設問は「日本の安全と平和を維持するために、安保関連法案の成立は必要だと思うか」で、ここにも誘導を感じないわけではありませんが、前々回は同じ設問でやはり「必要」が「必要でない」を上回っていました。過去記事で書きとめているように、前回は設問の文章が分かりません。わたしが見落としている可能性もあるので、推測でしかありませんが、設問を変えたら「必要」との回答が減り、元に戻したら増えた、ということなのでしょうか。そうだとすれば、それはそれで世論調査のありようの観点からは興味深いと思います。前回7月調査の設問の文章を探してみたいと思います。ちなみに今回調査でも、法案を今国会で成立させることについては「賛成」34・3%(前回比5・3ポイント増)に対し「反対」56・4%(7ポイント減)です。

 安保法案の賛否を問う読売新聞の設問は、今回は前回のような誘導の色彩が薄まって、以下のようになっています。

 現在、参議院で審議されている、集団的自衛権の限定的な行使を含む、安全保障関連法案についてお聞きします。あなたは、この法案に、賛成ですか、反対ですか。

 結果は「賛成」31%に対し「反対」55%です。
 前回と前々回の設問は以下の通りでした。

 現在、国会で審議されている、集団的自衛権の限定的な行使を含む、安全保障関連法案についてお聞きします。
◇安全保障法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか。

※参考過去記事
「読売、日経も安倍内閣『不支持』が『支持』上回る〜誘導質問にも『安保法案反対』過半数」=2015年7月27日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20150727/1437953822


【追記】2015年8月20日22時35分
 産経新聞・FNNの前回7月の世論調査の設問を当たってみました。7月20日付の新聞紙面に載っていたのを見落としていました。それによると、安全保障関連法案への賛否を尋ねる設問は「日本の安全と平和を維持するために、安保関連法案の成立は必要だと思うか」で、前々回、および今回調査と同一でした。私が今回の記事本文で「設問を変えたら『必要』との回答が減り、元に戻したら増えた、ということなのでしょうか」と書いたのは考え過ぎだったようで、反省材料としたいと思います。
 ただ、産経新聞・FNNの今回と前回との調査結果を見比べていて、あらためて興味深く感じたこともあります。安保法案の理解度です。
 前回7月調査では「よく理解している」6・0%、「ある程度理解している」48・8%で「理解している」は計54・8%です。「あまり理解していない」は31・6%、「ほとんど理解していない」13・3%で「理解していない」は計44・9%になります。
 今回調査では「よく理解している」6・1%、「ある程度理解している」42・2%で「理解している」は計48・3%。。「あまり理解していない」38・3%、「ほとんど理解していない」は変わらず13・3%で「理解していない」は計51・6%になります。
 ちなみに前々回調査では「理解している」は計56・3%、「理解していない」は計43・0%でした。
 整理すると、「理解している」は56・3→54・8→48・3と下がり続けて今回は50%を切っています。これに対して「理解していない」は43・0→44・9→51・6と増え続けています。つまり、理解度は下がり続けているのに、法案への賛否の面では「必要」が急増しています。法案を理解しているかどうかと、法案の成立が必要と考えるかどうかに相関性はない、ということを示す実例なのでしょうか。興味深く感じます。


【追記2】2015年8月21日0時15分
 上記の【追記】に追加です。
 産経新聞・FNNの世論調査の中で、安保法案の理解度と賛否の変遷について再度整理し、法案の成立を「必要」とする回答の推移もあわせて書きとめておきます。
 「理解している」 56・3→54・8→48・3
 「理解していない」43・0→44・9→51・6
 法案の成立「必要」49・0→42・1→58・0