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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

戦後70年安倍首相談話に消極評価目立つ地方紙・ブロック紙

 時間がたってしまいましたが、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三首相が8月14日に閣議決定を経て発表した戦後70年談話(以下、便宜的に「安倍談話」と表記します)に対して、地方紙・ブロック紙が社説でどのように取り上げたのか、ネット上で読んでみました。新聞社のサイトで社説の内容を読むことができたのは29紙でした。いずれも8月15日付です。うち、安倍談話を全体として明確に肯定的に評価したのは北國新聞(本社・石川県金沢市)と佐賀新聞の2紙でした。
 ほかの27紙は、批判的であったり肯定的には評価できないとのニュアンスを示している地方紙が多数派のように感じました。中には、「侵略」や「植民地支配」、「痛切な反省」や「心からのおわび」などの用語を曲がりなりにも記述したことなどに対して、一定程度の評価をしている新聞もあります。当初は、批判的な新聞と区別してカウントしようと考えたのですが、一定の評価は見せながらも、これで十分だろうかと懸念も示したり、あらためて安倍氏が自らを主語してさらに明言するよう求めたり、あるいは、さらなる行動を求めたりしている新聞が多いので、厳密な区分けは控えることにしました。テーマとして力点は「戦後70年」に置き、その一環として安倍談話に評価を明確にしないで触れた新聞もあります。
 すべての新聞を網羅した調査ではありませんし、あくまでも私の個人的な印象ですが、安倍談話に対する地方紙、ブロック紙の社説の大まかな傾向としては、肯定的な評価よりも消極的な評価が目立つように感じました。


 以下に、北國新聞佐賀新聞の社説の一部を引用します。
 ▼北國新聞「戦後70年談話 『不戦の誓い』が伝わった」

 村山談話などと比べて格段に長く、格調があり、よく練られている。抑制気味ながらも安倍政権が掲げる「積極的平和主義」の理念を押し出し、訴える力もあった。
 先の大戦について「わが国は痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明してきた」と指摘したうえで、「こうした歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と述べたことで、平和国家日本の「不戦の誓い」は国際社会にも十分伝わったはずである。多くの国民の胸にも響いたのではないか。
(中略)
 70年続いた平和を維持し、守っていくために、同盟国との関係を深め、備えを厚くしていく必要がある。国会で論議中の安保関連法案の成立を急ぎ、平和の裏付けとなる抑止力の強化を急ぎたい。


 ▼佐賀新聞「安倍首相の70年談話」

 先の大戦では300万人の国民の命が失われたほか、アジアの多くの人々が犠牲になったことを挙げ、「計り知れない損害と苦痛を与えた」「断腸の念を禁じ得ない」と言葉を尽くした。先の大戦の反省、教訓としては想像以上の言及である。
 さらに歴代内閣が「痛切な反省と心からのおわび」を表明し、アジアの平和と繁栄のために尽力してきたことを挙げて、「こうした歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」と強調した。中国や韓国にとどまらず、世界を視野に置いた言葉だろう。
 戦後は西欧や東南アジアとの和解を成し遂げ、70年にわたり平和を守ったのは疑いようもない事実だ。この成果を未来に引き継ぎ、積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献する決意を表明した。
 (中略)
 談話は歴史、外交研究者などの有識者による半年にわたる議論を踏まえている。それだけに総体としては国内外の評価に耐えるものだろう。歴史観は国民一人一人が持つもので多数決でも国が決めるものでもないが、国民的に共有できる部分も多いと思われる。
 また、英語に翻訳して世界に発信された。国際的な理解を得る努力として評価したい。私たちは戦後の日本の歩みに誇りと自信を持ち、国際的な評価を得ていることを確信している。それが中韓との関係を未来志向に切り替える力となるべきだ。


 以下はほかの27紙の社説の見出しです。
北海道新聞終戦から70年 不戦の誓い、未来に継承を」/和解の意図伝わらぬ/個人より国家なのか/被爆者の声聞かねば
河北新報「戦後70年談話/戦略的意図を読み取れぬ」
東奥日報「間接的でない明言必要だ/戦後70年談話」
▼デーリー東北「戦後70年談話 妥協により中途半端に」
岩手日報「70年談話 言葉は尽くしたけれど」
秋田魁新報「[戦後70年]安倍首相談話 分かりやすさに欠ける」
福島民報「【戦後70年首相談話】民意重んじ誓いを形に」
福島民友「首相70年談話/未来へ向かい確かな針路を」
信濃毎日「戦後70年に 安倍首相談話 言葉の裏を見極めたい」/キーワードを巧妙に/改憲への地ならし/戦後の価値が空洞化
新潟日報終戦の日 不戦の誓い忘れてならぬ」/「対話」を進めてこそ/憲法の理念が揺らぐ/平和の尊さ再確認を
中日新聞東京新聞「戦後70年首相談話 真の和解とするために」/村山、小泉談話は継承/侵略主体、明確でなく/負の歴史に向き合う
福井新聞「安倍談話と終戦の日 平和国家の道 確かなのか」
京都新聞終戦から70年  日常に根付く不戦の心こそ」/曖昧だった首相談話/「愚俗の信」の平和論/新たな民主主義の芽
神戸新聞終戦の日/『平和主義の最先進国』に」/埋まらぬ溝/歴史の逆説/この国はどこへ向かうのか。
山陽新聞終戦記念日 あの戦争をもっと知ろう」
中国新聞「安倍談話 肝心な部分曖昧すぎる」
山陰中央新報「戦後70年談話/『歴史認識』は丁寧な説明を」
愛媛新聞「戦後70年首相談話 周辺諸国の不安は取り除けない」
徳島新聞「首相70年談話 『おわび』の心伝わるか」
高知新聞「【戦後70年談話】歴史を直視しているか」/態度と行動で示せ
西日本新聞「戦後70年談話 真の和解へ首相は行動を」/「負の歴史」認める/「内向き」採用せず/被害者に届くよう
大分合同新聞「戦後70年談話 さらなる明言が必要だ」
熊本日日新聞「戦後70年と安倍談話 『力』より『協調』の未来へ」
宮崎日日新聞「戦後70年談話 行動こそが平和を構築する」/慎重表現や言い回し/子や孫のため友好を
南日本新聞「[安倍首相談話] 戦後70年・さらなる明言が必要だ」
沖縄タイムス「[戦後70年談話]主語漂流 真意はどこに」
琉球新報「戦後70年終戦記念日 不戦の誓いを新たに 評価できない首相談話」/直接の謝罪避ける/軍隊は住民を守らない


 批判的ないしは厳しい評価の例として、河北新報信濃毎日新聞高知新聞琉球新報の社説の一部をそれぞれ引用し、紹介します。
河北新報「戦後70年談話/戦略的意図を読み取れぬ」

 似て非なる物。そんな印象を拭えず、多くの国民はもとより国際社会、わけても先の戦争で大きな被害を与えたアジア諸国の十分な理解と共感を得られるかどうか危ういと言わざるを得ない。
 安倍晋三首相がきのう、発表した「戦後70年談話(安倍談話)」である。
 (中略)
 避けてきた「侵略」「おわび」に触れ、先の談話のキーワードを全て盛ったものの、国際的原則や過去の談話に沿わせるなど、自らの真意を覆い隠すかのようだ。
 侵略やおわびの主体の不透明さも否めず、姑息(こそく)と受け取られかねない。説明は回りくどく、自身の認識を回避した格好で、歴史修正主義者との疑念を払拭(ふっしょく)できまい。
 (中略)
 女性の名誉、尊厳に言及、慰安婦問題を抱える韓国への配慮をにじませるが、談話は直接的な表現による反省と謝罪の明示を基本に据えるべきだった。そうした歴史観と慎み深い戦後評価で、和解の道筋をたぐり寄せ平和の基盤を強固にしてこそ、心に響く確かな未来を語れたろう。
 分量が多い割に内容は薄く、安倍談話は「個人の見解」を完全には超えられず、戦略性の乏しい内容にとどまった。よりよい形で「上書き」されるには至らず、あえて発表した意義が問われよう。


信濃毎日「戦後70年に 安倍首相談話 言葉の裏を見極めたい」/キーワードを巧妙に/改憲への地ならし/戦後の価値が空洞化

 安倍晋三首相がこだわり続ける「戦後レジーム(体制)からの脱却」への布石と考えるべきだろう。
 政府がきのう閣議決定した戦後70年の首相談話である。
 (中略)
 言葉の使い方は巧妙だ。「進むべき針路を誤り」との言い方で、かつての日本の行為を否定的に捉える一方で、侵略戦争や植民地支配が続いてきた世界の歴史に言及している。言い訳と受け取られかねない表現だ。
 反省や謝罪も過去の取り組みとして紹介する形で、安倍首相自身の言葉にはなっていない。歴代内閣の立場を継承すると言いながら、ぼやかした感が否めない。
 本音ものぞく。将来の世代に「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」とし、区切りとしたい思いをにじませた。
 首相自身の歴史認識が中国や韓国から問題視され、関係改善が進んでいないのに、おざなりな印象が拭えない。
 このような形にしたのは過去の談話の継承を求める公明党への配慮や、批判が強まる安全保障関連法案に影響が及ぶことを回避する狙いが透ける。
 (中略)
 安倍首相は談話で自由と民主主義、人権といった価値を堅持すると訴えたけれど、足元の日本はどうなのか。国家の利益やメンツを重視し、国民をおろそかにしているのではないか。疑問が残る。
 戦後70年の節目を迎え、首相は民意を顧みずに国の針路を変えようとしている。日本が曲がりなりにも「平和国家」と名乗れたのは私たち国民が強く望んできたからだ。首相が描く将来像は、その大切な取り組みを崩す。


高知新聞「【戦後70年談話】歴史を直視しているか」/態度と行動で示せ

 さらに国会で審議中の安全保障関連法案の問題も絡む。自衛隊の海外での武力行使に道を開く法案が、談話の「いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」との文言とどう整合性が取れるのか。
 首相の「抑止力が高まることで紛争を未然に防げる」という説明は、国民の理解を得るには至っていない。談話を出したことによって、さらなる説明を重ねる必要がある。強引に成立を図るのは言語道断だ。
 首相はもともと、歴代内閣の「おわび」などの表現を引き継ぐ必要はないというのが持論だった。それが曲折を経て、体裁だけは整えた感が否めない。談話にどう魂を入れていくか、首相が問われるのはこれからだ。


琉球新報「戦後70年終戦記念日 不戦の誓いを新たに 評価できない首相談話」/直接の謝罪避ける/軍隊は住民を守らない

 一方で「戦争に関わりのない世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と述べた。これは「歴史に真正面から向き合う」姿勢と矛盾しないのか。それとも謝罪はもう十分ということなのか。
 首相は過去の国会答弁で「侵略という定義は学問的も国際的にも定まっていない」と述べて物議を醸した。14日の会見でも「どのような行為が侵略に当たるかは歴史家の議論に委ねるべきだ」などと述べている。
 公明党中韓両国など国際世論への配慮から渋々「おわび」したのではないか。そうした疑念はかえって深まった。率直に加害の過去を反省し、アジアにわびる言葉がなかった点など評価できない。


 一定の評価を示している例として、西日本新聞の社説を一部引用します。受け止めようによっては「肯定的な評価」としてもいいかもしれません。「もし本意が『解決への決意』であるとするならば、安倍首相には中韓との間に残る大きなしこりを解消するために、具体的な行動を取るよう求めたい」と注文も付けているので、そういう分類にはしませんでした。

西日本新聞「戦後70年談話 真の和解へ首相は行動を」/「負の歴史」認める/「内向き」採用せず/被害者に届くよう

 国内外の注目を集めたこの談話で、安倍首相は過去の首相談話の継承を明言するとともに、自らの言葉でも先の戦争をめぐる日本の誤りを認め、深い悔悟の念を表明した。
 「安倍談話」は、国内でも国際社会でも、一定の評価をもって受け止められそうだ。安倍首相に次に求められるのは、近隣諸国との和解のための行動である。
 (中略)
 安倍首相がもし今回、村山談話の基調から大きく離れ、「日本は悪くなかった」とか「悪いのは日本だけではなかった」といった歴史観を披歴していたら、村山談話を土台に築いてきた外交の安定を大きく損なうのは必至だった。米国などが抱いている「安倍首相は歴史修正主義者ではないか」との疑念も強まったに違いない。
 細かい文言では批判も可能だろうが、安倍首相が国内の保守層に根強い「内向きの歴史観」を離れ、国際社会に受け入れられる歴史認識を示したことは評価したい。有識者の議論や国内世論の主流を踏まえた歴史観だと言える。
 評価が分かれそうなのは「あの戦争には何の関わりもない私たちの子や孫、そしてその先の世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と述べた点だ。歴史認識問題をめぐって、日本が中国、韓国から批判を受け続けていることを踏まえている。
 「もう謝る必要はない」とする一部保守層の主張を代弁したようでもあるし、「歴史問題は自分たちの世代で解決しよう」という決意を示したとも受け取れる。
 もし本意が「解決への決意」であるとするならば、安倍首相には中韓との間に残る大きなしこりを解消するために、具体的な行動を取るよう求めたい。村山談話が評価されたのも、同時に政権として、さまざまな戦後処理の懸案に取り組んでいたからだ。