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「私たちは怒っている」―高市総務相「停波発言」への抗議声明(備忘)

 高市早苗総務相が、放送番組が政治的に公平であることを定めた放送法4条の規定に違反していると認めれば、電波法に基づき、その放送局に電波の停止を命じることがありうると、国会で繰り返し表明したことに対し、テレビでも活躍するジャーナリストが29日、記者会見し、抗議の意思を表明しました。

※47news=共同通信「田原さんらが総務相発言に抗議 『憲法放送法の精神反する』」2016年2月29日
 http://this.kiji.is/76975326253991420?c=39546741839462401

 田原総一朗さんや鳥越俊太郎さん、岸井成格さんらジャーナリストが29日、東京都内で記者会見し、高市早苗総務相が政治的に公平でない放送を繰り返す放送局に電波停止を命ずる可能性に言及したことについて「表現の自由を保障した憲法および放送法の精神に反している」と強く抗議した。

 この場で発表された声明が、問題点を簡潔に批判していると思いますので、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 全文は朝日新聞のサイトにアップされています。

朝日新聞デジタル「『私たちは怒っている』 高市氏発言への抗議声明全文」
 http://www.asahi.com/articles/ASJ2Y6JHGJ2YUCVL038.html

声明

私たちは怒っている――高市総務大臣の「電波停止」発言は憲法及び放送法の精神に反している

 今年の2月8日と9日、高市早苗総務大臣が、国会の衆議院予算委員会において、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。誰が判断するのかについては、同月23日の答弁で「総務大臣が最終的に判断をするということになると存じます」と明言している。

 私たちはこの一連の発言に驚き、そして怒っている。そもそも公共放送にあずかる放送局の電波は、国民のものであって、所管する省庁のものではない。所管大臣の「判断」で電波停止などという行政処分が可能であるなどいう認識は、「放送による表現の自由を確保すること」「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」をうたった放送法(第一条)の精神に著しく反するものである。さらには、放送法にうたわれている「放送による表現の自由」は、憲法21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」の条文によって支えられているものだ。

 高市大臣が、処分のよりどころとする放送法第4条の規定は、多くのメディア法学者のあいだでは、放送事業者が自らを律する「倫理規定」とするのが通説である。また、放送法成立当時の経緯を少しでも研究すると、この法律が、戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由独立の確保が強く企図されていたことがわかる。

 私たちは、テレビというメディアを通じて、日々のニュースや情報を市民に伝達し、その背景や意味について解説し、自由な議論を展開することによって、国民の「知る権利」に資することをめざしてきた。テレビ放送が開始されてから今年で64年になる。これまでも政治権力とメディアのあいだでは、さまざまな葛藤や介入・干渉があったことを肌身をもって経験してきた。

 現在のテレビ報道を取り巻く環境が著しく「息苦しさ」を増していないか。私たち自身もそれがなぜなのかを自らに問い続けている。「外から」の放送への介入・干渉によってもたらされた「息苦しさ」ならば跳ね返すこともできよう。だが、自主規制、忖度、萎縮が放送現場の「内部から」拡がることになっては、危機は一層深刻である。私たちが、今日ここに集い、意思表示をする理由の強い一端もそこにある。


〈呼びかけ人〉(五十音順 2月29日現在)

青木理大谷昭宏金平茂紀岸井成格田勢康弘田原総一朗鳥越俊太郎