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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

立地地元ではない滋賀の住民の問い掛けに正面から向き合った司法判断〜大津地裁の高浜原発差し止め、在京紙の報道の記録

 福井県高浜町関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを、隣県の滋賀県の住民が申し立てた仮処分申請で、大津地裁の山本善彦裁判長は9日、運転を差し止める仮処分決定を出しました。仮処分は裁判の判決と違ってただちに効力を持つため、運転中だった3号機は10日夜、停止しました。現に稼働中の原発が司法判断によって停止させられたのは初めてです。2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故後に、裁判所が再稼働や運転を差し止めた司法判断としては3例目ですが、事故後に策定された原子力規制委員会の新規制基準に合格し、稼働していた原発に対する判断としては初めて。画期的な判断として、既にマスメディアで大きく報じられている通りです。
 「3・11」後の原発再稼働問題に対しては、大阪に住んでいた当時の2012年6月に、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働が決まっていく過程を当の電力消費地に身を置いて見ながら、民主主義社会において、社会の意思はだれがどのように代表すればいいのかが問われているような気がしていました。
 立地元の福井県知事は、国策として原発を再稼働するという名分にこだわり、一方で電力消費地の中では滋賀県京都府の知事は共同歩調を取って、再稼働に慎重でした。関西電力はと言えば、もともと発電能力の中で原子力の割合が過半数に達しており、一刻も早く再稼働したい立場。結局は政府(当時は民主党政権)が主導する形で再稼働に進みました。ひとたび重大事故が起これば、放射能放射性物質の飛散に対して県境はまったく意味を持ちません。なのに、再稼働は立地地元の福井県知事の意向が最優先され、滋賀県京都府の知事の意向が顧みられることはなかったように感じていました。福井県知事も選挙を経ています。滋賀県知事も京都府知事もそうです。民意を背に負っているという意味では、みな等しく扱われてしかるべきだと思っていましたが、現実には差があったことをどう考えればいいのか。社会のどの部分の意思を、だれがどうやって代表するのか、民主主義の手続きが根本的に問われているような気がしました。
 そういうことばかり考えていましたので、今回、大津地裁が立地地元ではない滋賀県の住民の問いかけに正面から向き合い、住民の不安を汲んだとも思える判断を示したことに、とてもすっきりした気分でした。
※参考過去記事
・「橋下市長と『脱原発』の一つの仮説〜勉強会『原発再稼働の波紋』で報告」=2012年5月28日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120528/1338162680
・「大飯再稼働『決断』へ〜関西の意思、広域連合に負わせ」=2012年6月3日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120603/1338659273
・「大飯再稼働を超える首相会見の意味〜社会の意思はどう代表されればいいのか」=2012年6月10日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120610/1339289716
・「続・大飯再稼働と首相会見 ※追記あり」=2012年6月12日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20120612/1339433558


 大津地裁の判断は、東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)も10日付朝刊ではそろって1面トップです。以下は、各紙の本記と社説の見出しです。もともと新聞社によって社論が比較的はっきり分かれているテーマです。特に社説はそれぞれの新聞社のスタンスをよく示しているように思います。
朝日新聞
本記「高浜原発 差し止め」「稼働中初 きょう停止」「3、4号機 安全の証明不十分」「大津地裁 仮処分」
社説「原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活」新基準にも疑問/問われる避難計画/国民の重大な関心事

毎日新聞
本記「高浜 運転差し止め」「稼働中 初の停止へ」「『関電 説明尽くさず』」「大津地裁仮処分」
社説「高浜差し止め 政府も重く受け止めよ」

▼読売新聞
本記「高浜3、4号機 停止命令」「『関電は安全説明不足』」「3号機きょう停止 原発 稼働中で初」「大津地裁 仮処分決定」
社説「高浜差し止め 判例を逸脱した不合理な決定」

日経新聞
本記「高浜原発 運転差し止め」「『関電の安全立証不足』」「稼働中で初 3号機きょう停止」「大津地裁が仮処分」

産経新聞
本記「高浜 運転差し止め」「稼働原発 初の仮処分」「大津地裁 3号機きょう停止」「関電、異議申し立てへ」/「菅長官『方針維持』」
社説(「主張」)「高浜原発差し止め 常軌を逸した地裁判断だ」

東京新聞
本記「高浜原発 停止命令」「『新基準で安全といえず』」「大津地裁 仮処分、稼働中で初」「隣県民申し立て 認める」
社説「高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな」よみがえった人格権/過酷事故が具体論へと/規制委は変われるか


 以下に備忘を兼ねて、各紙の主な記事と見出しを書きとめておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。

朝日新聞
1面トップ本記「高浜原発 差し止め」「稼働中初 きょう停止」「3、4号機 安全の証明不十分」「大津地裁 仮処分」
1面・解説「新規制基準の妥当性に疑義」/決定理由の骨子/高浜原発3、4号機(用語説明)
2面・時時刻刻「高浜再稼働 再び『ノー』」「福島の事故究明『道半ば』」/「規制委『基準に瑕疵ない』」
2面「関電、自由化控え衝撃」「料金値下げ計画に影響」
3面「原発に厳しい安全性求める」九州大の吉岡斉教授(科学技術史)/「決定理由の記述 乏しく乱暴」元東京高裁判事の升田純・中央大法科大学院教授(民事法)/「小泉元首相『決定は当然』」
17面オピニオン・原発と議論(東日本大震災5年 私たちは変わったのか3)「『思考停止』に転換の兆し」認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長飯田哲也さん/「立地の経緯踏まえ道筋を」評論家・恵泉女学園大学教授武田徹さん/「『便利』の意味まず考えよ」脚本家倉本聡さん
27面・1ページ特集(東日本大震災5年 全国の原発)「原発回帰 課題残したまま」「再稼働すでに4基 審査中は22基」「問われる安全 司法の場でも」
社会面トップ「隣県の原発 止めた」「滋賀の県民ら『画期的だ』」/「『もてあそばれている』」「福井・高浜 不満と戸惑い」/「大津・いじめ訴訟で和解案 山本善彦裁判長」
第2社会面「再稼働の流れに警鐘」/「『琵琶湖守る』声届いた」/「福島避難者『反原発 盛り上げる』」
第3社会面・仮処分決定の要旨
社説「原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活」新基準にも疑問/問われる避難計画/国民の重大な関心事

毎日新聞
1面トップ本記「高浜 運転差し止め」「稼働中 初の停止へ」「『関電 説明尽くさず』」「大津地裁仮処分」/仮処分決定骨子/「方針変わらず 菅官房長官」/「不服申し立てへ」
1面・解説「再稼働 国の姿勢を批判」
3面・クローズアップ2016「新基準への不安指摘」/「『福島調査 道半ば』」/「電力 訴訟拡大を警戒」
3面「原発新規制基準、なぜできた?」「福島事故が契機 地震や浸水対策強化」質問なるほドリ
5面「野党歓迎『画期的だ』」「高浜差し止め 与党『新基準は妥当』」
6面「原発推進リスク考えよ」吉岡斉 九州大教授/「決定、安全性の議論無視」奈良林直北海道大教授/大津地裁決定 要旨/「関電は体制改善必要」大島堅一・立命館大教授(環境経済学)/「原子力政策に影響大」伴英幸・原子力資料情報室共同代表/「規制委も十分に説明を」小沢守・関西大教授(熱工学)
7面(経済面)「関電 経営環境厳しく」「電力自由化の戦略 白紙に」
社会面トップ「『勇気ある司法判断』」「原発への疑念示す」「住民『一番うれしい日』」/「『福島の教訓生きた』」「あす大震災5年 避難者ら歓迎」/「関電幹部は絶句」/「繰り返しの停止 地域の不信危惧 福井知事が不満」
社会面「再稼働前の仮処分却下 山本善彦裁判長」
社説「高浜差し止め 政府も重く受け止めよ」

▼読売新聞
1面トップ本記「高浜3、4号機 停止命令」「『関電は安全説明不足』」「3号機きょう停止 原発 稼働中で初」「大津地裁 仮処分決定」/仮処分決定のポイント/「『承伏できない』関電コメント」/「再稼働方針は維持 菅官房長官
3面・スキャナー「新基準に疑問呈す」「より厳しい水準要求」「規制委・関電は困惑」認識変えない・国の責任も・決定は「追い風」に/「原発政策 遅れ懸念」/「今夜、完全停止」
9面(経済面)「関電戦略見直し必至」「5月の値下がり先送りへ」
13面・緊急論点スペシャル「規制委審査 正当性揺るがず」慶応大特任教授 遠藤典子氏/「想定超えたリスク語れ」工学博士・弁護士 近藤恵嗣氏/「結論ありきの決定 疑問」中央大法科大学院教授 升田純氏
第3社会面「振り回される地元」「福井知事『誠に遺憾』」/「14年の決定では差し止め申請却下 山本裁判長」
社説「高浜差し止め 判例を逸脱した不合理な決定」

日経新聞
1面トップ本記「高浜原発 運転差し止め」「『関電の安全立証不足』」「稼働中で初 3号機きょう停止」「大津地裁が仮処分」/仮処分決定の骨子
3面「原発再稼働 司法の壁」「規制委の判断否定」「エネルギー政策 政府、説明責任重く」/「関電 稼働原発ゼロに」「値下げ白紙、戦略見直し」
3面・専門家の見方「厳しい安全審査を軽視」伊藤哲夫近畿大学原子力研究所長(原子力安全工学)/「安全性への疑問は的確」吉岡斉・九州大学教授(科学技術史)
社会面トップ「『広範被害踏まえた判断』」「滋賀の住民歓喜『歴史的だ』」/「地元福井は困惑『司法に翻弄』」
社会面・知事の反応「滋賀『再稼働容認できない』」「福井『立地地域に不信招く』」/「運転の差し止め14年は却下判断 大津地裁の山本裁判長」/「避難の福島県民 差し止めを評価『帰れない現実知って』」
第2社会面「再稼働可否 揺れる司法」「福島事故後、原発に逆風」/大津地裁決定要旨「過酷事故踏まえ規制基準を」「津波対策や避難計画に疑問」

産経新聞
1面トップ本記「高浜 運転差し止め」「稼働原発 初の仮処分」「大津地裁 3号機きょう停止」「関電、異議申し立てへ」/「菅長官『方針維持』」/決定骨子
1面「『ゼロリスク』押し付け 最高裁判例を逸脱」
3面「地裁 乏しい科学的根拠」「関電説明は『不十分』」「規制委新基準も批判」/「仮処分 直ちに効力発揮」
3面「関電 値下げ・域外販売先送りも」「遠のく自由化メリット」
28面(第3社会面)決定要旨
社会面トップ「原発と共生 また遮る」「関電『受け入れられない』地元も困惑」/「原告側『画期的』『天にも昇る気持ち』」
社会面「司法判断 エネルギー政策揺るがず」/「前回は差し止め申請却下 山本善彦裁判長」
社会面「結論決まっていた印象」元東京高裁判事の升田純中央大法科大学院教授(民事法)/「司法への信頼を損ねる」宮崎慶次大阪大名誉教授(原子力工学)/「公平比較し理詰め判断」吉岡斉九州大教授(科学史
社説(「主張」)「高浜原発差し止め 常軌を逸した地裁判断だ」

東京新聞
1面トップ本記「高浜原発 停止命令」「『新基準で安全といえず』」「大津地裁 仮処分、稼働中で初」「隣県民申し立て 認める」/仮処分決定のポイント「発電の効率性、甚大な災禍と引き換えにできない」
2面・核心「甘い新基準を批判」「『福島事故』想定より後退」「避難計画 自治体任せ」/3号機きょう停止
3面「原発政策 司法が警鐘」/解説「立地県以外 影響認める」/「3・11後 割れる判断」/「再稼働方針 政府は堅持」/「関電『理解得られず遺憾』」
3面・関係自治体の反応「『安全確保に重き』滋賀知事」「『住民の不安払拭を』京都知事」「司法に左右『遺憾』福井知事」/「電源依存目標実現に影響も」
6面・仮処分決定詳報「福島の原因究明 道半ば」「事故起きれば国境越え被害の可能性」「安全の根拠 関電の説明では不十分」
6面「前回は差し止め申請却下 大津地裁 山本裁判長」/「公平で理詰め判断」吉岡斉九州大教授(科学史)/「司法の信頼損ねる」宮崎慶次大阪大名誉教授(原子力工学
社会面トップ「『福島から学んだ判断』」「住民ら喝采『画期的な決定』」/「『滋賀を第二の福島にしたくなかった』」「南相馬から避難住民 感涙」
第2社会面「『再稼働の歯止めに』」「歓喜と懸念交錯」福島避難者/脱原発団体/地元・福井
社説「高浜原発に停止命令 フクシマを繰り返すな」よみがえった人格権/過酷事故が具体論へと/規制委は変われるか