一つ前の記事で、共同通信社と加盟社の日本世論調査会が2月に面接方式で実施した世論調査結果を一部紹介しましたが、その後、読売新聞社が郵送で実施した「憲法」についての世論調査結果を3月17日付の朝刊で報じました。日本世論調査会の調査でも憲法改正についていくつか質問がありました。この機会に、この二つの調査で共通の質問を中心に、結果から憲法をめぐる世論についてどういうことが読み取れるか考えてみました。
▼憲法改正の必要性―少なめに見ても「改憲」志向は半数を占める? 多くても半数ちょっと?
憲法改正について日本世論調査会の調査では、「どちらかといえば」を含めて「改正する必要がある」が54・5%で「改正する必要はない」の40・0%を上回り過半数に達しています。対して読売新聞社の調査では「改正する方がよい」49%に対し「改正しない方がよい」50%と拮抗しています。そもそも質問自体が漠然としていますが、調査によって回答に幅がある、結果に差があるようです。「改憲」意見は少な目に見ても半数を占める、とも言えそうですし、多くても半数ちょっと、とも言えるかもしれません。
▼憲法改正が必要な理由―6割超が「時代の変化」 日本世論調査会の調査では「憲法の条文や内容が時代に合わなくなっているから」が最多、読売新聞社では「時代の変化に憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから」が最多でした。ともに60%を超えています。
▼改正しない方がいい理由―平和憲法が軍事大国化を防いでいる 日本世論調査会の調査では「戦争放棄を掲げ平和が保たれているから」が最多、次いで「改正すれば『軍備拡張』につながる恐れがあるから」で合計で67%に上ります 。読売新聞社は複数回答可で最多は「世界に誇る平和憲法だから」60%、「改正すると軍事大国への道を開くおそれがあるから」45%の順です。憲法改正は必要ないと考えている人たちのうち多数は、平和憲法が軍事大国化を防いでいると考えているとみていいと思います。
▼9条改正―必要と考える人は4割弱だが、第2項に限れば「改正が必要」「必要ない」は拮抗
戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条に対しては、日本世論調査会の調査では「改正する必要があると思う」38・0%に対し、「必要はないと思う」は56・7%に上り、差が付きました。読売新聞社の調査では、解釈や運用を含めた三つの選択肢から選ぶ方式で、「解釈や運用で対応するのは限界なので、第9条を改正する」は35%でした。9条の改正を必要と考える人は4割弱とみていいかと思います。読売新聞社の調査はさらに戦争放棄の第1項と戦力不保持の第2項に分けて尋ねています。第1項は「改正の必要はない」が82%で圧倒。第2項は「必要がある」「ない」が48%で拮抗しています。
▼緊急事態条項―世論は「改憲」が最善と考えているとは必ずしも言えない
安倍晋三首相が憲法改正の最初のテーマとして意欲を見せていると伝えられるのが、災害時や有事の際の政府や首相の権限などを定めた緊急事態条項です。日本世論調査会の調査では「改憲の優先項目」としていることに賛成51・0%、反対37・4%と、半数は好意的でした。読売新聞社の調査では、緊急事態の際のありようをどういう形で決めるのがよいかという質問です。回答は「憲法は改正しないで、政府の責務や権限を明記した新たな法律を作る」が52%を占めました。緊急事態への備えは改憲が最善とは必ずしも考えてはいない、ということが言えるのではないかと思います。
安倍晋三首相が現行の日本国憲法を米国による押し付けとの憲法観を持ち、中でも9条の改正に強い意欲を持っていることはよく知られています。しかし、世論調査の結果からは、民意は憲法改正を強く求めているとまでは言えないように思えます。首相は「憲法を国民の手に取り戻す」と口にしますが、わたしは個人的には、民意は憲法に対しては安倍首相よりもよほど冷静に向き合っているという印象を持っています。
安倍晋三首相はひところ、国会答弁などでも盛んに憲法改正を口にし、3月2日の参院予算委員会では、首相在任期間中に憲法改正を成し遂げたい、とまで口にしました。その後、あまり口にしなくなった観があります。翻って2014年末の衆院選を想い起こすと、衆院解散の大義名分は消費増税の実施先送りであり、安倍首相は選挙戦でも最大争点は経済政策「アベノミクス」としながら、選挙で圧勝した後は、選挙戦で公約の前面に掲げていたとは決して言えず、世論も支持していない安全保障法制をひた押しに押して、国会の議席の数を頼んで通しました。
現在、7月に参院選が実施されるのが確定的な状況で、衆院選との同日選挙の可能性が浮上していると報じられています。大義名分はまたもや消費増税の先送りかもしれません。安倍首相は憲法についても、ひところの饒舌を納めたままで選挙に臨むかもしれません。しかし、安全保障法制の先例からみても、また首相在任期間中にと一度は明言したことからみても、同日選挙であろうとなかろうと、仮に衆参両院で改憲勢力の議席数が、憲法改正を発議できる「3分の2」を確保することになれば、以後は安倍首相は憲法改正にひた走ることが十分に予想されます。ですから、どのような展開であれ、次の選挙の最大の争点は「憲法」です。その意味で、憲法やその改正の是非に対して、民意はどのように考えているのかは社会にとって重要な情報だと思います。各マスメディアの世論調査結果などを丁寧に見ていこうと思います。
以下に、日本世論調査会と読売新聞社の今回の調査のうち憲法に関するものを備忘を兼ねて書きとめておきます。
▼日本世論調査会(共同通信社と加盟社)
2月27、28日実施。3000人を対象に面接で実施し1744人から回答。報道は3月13日付朝刊
▼読売新聞社
3000人を対象に1月20日に調査票を郵送し2月29日までに1939返送。有効回答は1893。報道は3月17日付朝刊
【憲法改正の必要性】
▼日本世論調査会
・「あなたは憲法を改正する必要があると思いますか、改正する必要はないと思いますか」
改正する必要がある 19・7 どちらかといえば改正する必要がある 34・7
どちらかといえば改正する必要はない 23・7 改正する必要はない 16・3
※改正する必要がある 計54・4 改正する必要はない 計40・0
・「(「改正する必要がある」「どちらかといえば改正する必要がある」と答えた人に聞く)あなたが、そう思う最も大きな理由は何ですか。(回答者949人)」
憲法の条文や内容が時代に合わなくなっているから 60・5
新たな権利や義務などを盛り込む必要があるから 28・6
米国に押し付けられた憲法だと思うから 5・8
制定以来、一度も改正されていないから 4・2
その他 0・6 分からない・無回答 0・3
・「(「改正する必要がある」「どちらかといえば改正する必要がある」と答えた人に聞く)あなたは何を対象に憲法改正を議論すべきだと思いますか。二つまでお答えください。(回答者949人)」
憲法の前文 7・2
天皇制 5・5
憲法9条と自衛隊 52・4
国際貢献 9・6
基本的人権 15・5
環境権 5・6
知る権利・プライバシー保護 23・3
内閣・議会制度 12・0
地方分権・地方自治 11・4
憲法改正の発議要件を定めた96条 5・5
緊急事態条項の新設 15・9
財政規律条項の新設 4・1
その他 0・7 分からない・無回答 6・5
・「(「改正する必要はない」「どちらかといえば改正する必要はない」と答えた人に聞く)あなたが、そう思う最も大きな理由は何ですか。(回答者698人)」
戦争放棄を掲げ平和が保たれているから 40・3
改正すれば「軍備拡張」につながる恐れがあるから 27・5
改正すれば基本的人権が制約される恐れがあるから 11・2
現憲法で不都合なことがないから 19・5
その他 0・1 分からない・無回答 1・4
▼読売新聞社
・「今の憲法を、改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか」
改正する方がよい49 改正しない方がよい50
・「【「改正する方がよい」と答えた人だけ】改正する方がよいと思う理由は何ですか。いくつでも選んでください」
アメリカに押しつけられた憲法だから 18
国の自衛権を明記し、自衛隊の存在を明文化するため 36
権利の主張が多すぎ、国民の義務がおろそかにされているから 18
時代の変化に憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから 63
国際貢献など今の憲法では対応できない新たな問題が生じているから 43
その他 2 答えない 1
・「【「改正しない方がよい」と答えた人だけ】改正しない方がよいと思う理由は何ですか。いくつでも選んでください」
すでに国民の中に定着しているから 34
世界に誇る平和憲法だから 60
基本的人権、民主主義が保障されているから 31
時代の変化に応じて、解釈、運用に幅を持たせればよいから 32
改正すると軍事大国への道を開くおそれがあるから 45
その他 2 答えない 1
【憲法9条】
▼日本世論調査会
・「憲法9条では、戦争を放棄し戦力を持たないことを定めています。あなたは憲法9条を改正する必要があると思いますか、改正する必要はないと思いますか」
改正する必要があると思う 38・0
改正する必要はないと思う 56・7
分からない・無回答 5・3
・「(「改正する必要があると思う」と答えた人に聞く)9条を改正する場合、あなたが最も重視すべきだと思うことは何ですか。(回答者663人)」
現在の自衛隊の存在を明記すべきだ 41・7
自衛隊を軍として明記すべきだ 14・0
国際貢献を行う規定を設けるべきだ 20・4
自衛隊が国際活動をするにあたり、歯止め規定を設けるべきだ 21・9
その他 0・3 分からない・無回答 1・7
▼読売新聞社
・「戦争を放棄し、戦力を持たないとした憲法第9条をめぐる問題について、政府はこれまで、その解釈や運用によって対応してきました。あなたは、憲法第9条について、今後、どうすればどうすればよいと思いますか。1つだけ選んでください」
これまで通り、解釈や運用で対応する 38
解釈や運用で対応するのは限界なので、第9条を改正する 35
第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない 23
その他 0 答えない 4
・「憲法9条の条文には第1項と第2項があります。それぞれについて、改正する必要があると思うかどうかをお答えください」
「戦争を放棄すること」を定めた第1項については、改正する必要があると思いますか、ないと思いますか
ある 16 ない 82 答えない 2
「戦力を持たないこと」などを定めた第2項についてはどうですか
ある 48 ない 48 答えない 4
【安全保障関連法】
▼日本世論調査会
・「安倍政権は集団的自衛権を行使できないとしてきた従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法を成立させました。あなたは集団的自衛権と憲法の関係について、今後どうすべきだと思いますか」
集団的自衛権の行使容認を憲法解釈変更で対応する現状でよい 30・1
集団的自衛権は行使できないとする以前の憲法解釈に戻す 32・3
憲法を改正し、集団的自衛権の行使容認を明文化する 27・8
その他 0・6 分からない・無回答 9・2
▼読売新聞社
・「あなたは、安全保障関連法の成立で集団的自衛権を限定的に行使できるようになったことを、評価しますか、評価しませんか」
評価する 49
評価しない 49
答えない 2
・「(【評価する】と答えた人だけ)評価する最大の理由は何ですか。1つだけ選んでください」
日本だけでは平和は守れないから 55
集団的自衛権を使えるようになったから 10
日米同盟を強化し、抑止力を高めるから 15
自衛隊がより国際貢献できるようになるから 11
国会の事前承認など一定の歯止めがあるから 5
その他 1 答えない 4
・「(【評価しない】と答えた人だけ)評価しない最大の理由は何ですか。1つだけ選んでください」
日本の存立が脅かされる事態は起こらないと思うから 3
憲法は、集団的自衛権を使うことを認めていないと思うから 12
米国の戦争に巻き込まれるから 16
将来的に歯止めがきかなくなる恐れがあるから 52
自衛隊員の危険が高まるから 9
その他 2 答えない 6
【緊急事態条項】
▼日本世論調査会
・「自民党は大規模な自然災害や外部からの武力攻撃に際し、国会議員任期の延長や首相の権限強化、基本的人権の制約などを規定する『緊急事態条項』を改憲の優先項目とする方針です。あなたは自民党が『緊急事態条項』新設を改憲の優先項目としていることに賛成ですか、反対ですか」
賛成 51・0
反対 37・4
分からない・無回答 11・6
▼読売新聞社
・「大災害などの緊急事態における政府の責務や権限は、今の憲法には規定がなく、個別の法律で定められています。これについて、あなたの考えに近いものを、1つだけ選んで下さい」
憲法を改正して、政府の責務や権限を条文で明記する 29
憲法は改正しないで、政府の責務や権限を明記した新たな法律を作る 52
今のままでよい 16
その他 0 答えない 3
【その他】
▼読売新聞社
・「憲法について、今の条文を改めたり、新たな条文を加えたりする方がよいと思うものがあれば、いくつでも選んで下さい」
天皇の地位やありかた 11
自衛のための軍隊保持 36
積極的な国際協力 22
行政機関の情報を知る権利 24
個人情報やプライバシーの保護 31
家族の尊重 13
良好な環境で生活する権利 32
緊急事態における首相の権限強化 20
健全な財政の維持 43
衆議院と参議院の役割 18
国と地方の役割 25
憲法裁判所の設置 5
その他 1 とくにない 12 答えない 2
・「衆議院と参議院には、憲法改正の原案を提出できる憲法審査会が置かれています。憲法に関する次の項目の中で、あなたが、憲法審査会がとくに優先して議論すべきだと思うものを、3つまで選んで下さい」
戦争放棄、自衛隊の問題 63
環境権やプライバシー権など新しい権利 23
二院制など国会のあり方 21
道州制など地方自治のあり方 15
大災害など緊急事態における政府の建言 51
憲法改正に関する手続き 18
健全な財政のあり方 48
その他 0 とくにない 5 答えない 2