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「この怒りは持って行き場がない」(翁長知事)「植民地主義は限界だ」(琉球新報社説)―胸が苦しくなる事件が沖縄でまたも

 沖縄県うるま市で4月から行方不明になっていた20歳の女性が5月19日、遺体で見つかりました。沖縄県警は米国人で元海兵隊員の米軍属の32歳の男を、死体遺棄容疑で逮捕しました。20日までの取り調べで、容疑者は性的暴行が目的だったと供述していると報じられています。考えるだけで胸が苦しくなるような事件がまたも沖縄で起きました。
沖縄タイムス「「暴行し刺した」容疑者供述 女性遺体遺棄事件」=2016年5月21日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=169200

 うるま市の会社員女性(20)の遺体が恩納村内の山中で見つかった遺体遺棄事件で、沖縄県警が死体遺棄容疑で逮捕した米軍属の容疑者(32)が「女性を暴行し、刃物で刺した」と供述していることが20日、分かった。女性の胴体部分の骨には刃物による複数の傷があり、県警は殺人容疑でも調べを進めている。県警は同日、死体遺棄容疑で那覇地検に送致した。
 捜査関係者によると、容疑者は「わいせつ目的で女性を狙った」などと供述している。県警は同日、女性の遺体を司法解剖したが、遺体は白骨化しており、死因は不明とした。

琉球新報「米軍属、乱暴目的と供述 『刃物で刺した』 女性遺棄事件」=2016年5月21日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-283060.html

 米軍属女性死体遺棄事件で、死体遺棄容疑で逮捕された元米海兵隊員のシンザト・ケネス・フランクリン容疑者(32)が「乱暴しようと思った。首を絞め刃物で刺した」などと供述していることが20日、捜査関係者への取材で分かった。捜査関係者によると、遺体発見時に身に着けていた衣服に刃物で刺したような穴が空いていたという。県警はシンザト容疑者が女性暴行目的で女性に接触したとみて、強姦致死容疑や殺人容疑での立件も視野に捜査を進めている。

 沖縄県の翁長雄志知事は19日、訪問先の米国から帰国したところでした。翁長知事が事件について発した言葉に、胸を突かれる思いがしました。
琉球新報「『怒り 持って行き場ない』 知事、政府を痛烈批判 うるま女性不明」=2016年5月20日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-282408.html

【東京】米軍属女性死体遺棄事件を受け、翁長雄志知事は19日夜、成田空港で報道陣に対し「この怒りは持って行き場がない。痛恨の極み。沖縄の知事として大変残念だ」などと沈痛な表情で述べた。翁長知事は事件について「基地あるがゆえに事件が起きてしまった」と強調し、米軍普天間飛行場の移設問題を含めた基地問題に「不退転の決意で取り組みたい」と話した。
 翁長知事は「今年の初めごろに那覇市内で婦女暴行事件があり、四軍調整官が県庁におわびに来ていたが、何ら改善されていない」と指摘。その上で事件が起こった際の日本政府の対応について「当事者能力がなく、ただただ米軍に伝えますということだけで今日まできている」と痛烈に批判し「今のままではいかないということにつなげていかなければならない」と述べ、政府の姿勢をこれまでよりも段階を上げて厳しく追及していく考えを示した。

 沖縄の地元紙である沖縄タイムス琉球新報も20日付、21日付の紙面で激しい怒りに満ちた社説を掲載しました。本土の日本国民にこそ読んでほしいと感じます。一部を引用して紹介します。

▼5月20日付
沖縄タイムス・社説「[不明女性遺体で発見]米軍がらみ 最悪の結末」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=169007

 1972年の復帰から2015年までの43年間の米軍関係者による犯罪検挙件数は5896件。うち殺人、強盗、強姦、放火などの凶悪犯は574件と10%近くを占めている。米兵に民間人が殺害される事件も12件発生した。
 「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が掘り起こしてきた戦後の米兵による性犯罪の記録には、「検挙」にいたっていない被害も数多く並ぶ。
 こんな地域がほかにあるだろうか。米軍占領下も復帰後も米兵による性暴力や米軍関係者の事件事故におびやかされる地域がほかにあるだろうか。怒りがこみあげてくるのを禁じ得ない。 
 (中略)
 事件事故のたびに日米両政府に抗議し、大会を開き、綱紀粛正と再発防止を求めてきたが、これまでのようなやり方ではもうだめだ。もはや再発防止要請ですますレベルではない。

琉球新報・社説「米軍属女性死体遺棄 日米両政府に責任 防止策は基地撤去しかない」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-282393.html

 県民の尊い命がまたも奪われた。米軍属の男が関与をほのめかしている。元をたどれば、過重な米軍基地を県民に押し付ける日米両政府に行き着く。在沖米軍基地の整理縮小に消極的な両政府の責任は極めて重大だ。強く抗議する。
 米軍は米兵らが凶悪事件を起こすたびに再発防止に努めるとする。だが、守られたためしがないことは今回の事件が証明する。
 基地ある限り、犠牲者が今後も出る恐れは否定できない。基地撤去こそが最も有効な再発防止策である。日米両政府はそのことを深く認識し、行動に移すべきだ。
 (中略)
 日米両政府は今回の事件を「極めて遺憾」などの言葉で済ませてはならない。県民の我慢も限界に達している。「綱紀粛正と再発防止に努める」だけでは不十分だ。
 ことし3月には那覇市内のホテルで、キャンプ・シュワブ所属の1等水兵が観光客への女性暴行事件を起こし、逮捕されている。県はその際、米軍に対し綱紀粛正と人権教育の徹底を含めた再発防止を強く求めた。
 容疑者は軍人ではないが、嘉手納基地で働く元海兵隊員の軍属である。米軍には軍属も教育する責任が当然ある。だが事件がなくならないことからして、米軍の教育には限界があることが分かる。ならば、選択肢は一つしかない。沖縄から去ることだ。

▼5月21日付
沖縄タイムス「[女性遺棄事件]声上げ立ち上がる時だ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=169189

 政府によって「命の重さの平等」が保障されないとすれば、私たちは、私たち自身の命と暮らし、人権、地方自治と民主主義を守るため、立ち上がるしかない。
 名護市辺野古の新基地建設に反対するだけでなく、基地撤去を含めた新たな取り組みに全県規模で踏み出すときがきた、ことを痛感する。
 日米両政府の「迅速な対応」がどこか芝居じみて見えるのは、「最悪のタイミング」という言葉に象徴されるように、サミット開催やオバマ米大統領の広島訪問、県議選や参院選への影響を気にするだけで、沖縄の人々に寄り添う姿勢が感じられないからだ。
 基地維持と基地の円滑な運用が優先され、のど元過ぎれば熱さ忘れるのたとえ通り、またかまたか、と事件が繰り返されるからだ。
 沖縄の戦後史は米軍関係者の事件事故の繰り返しの歴史である。事態の沈静化を図るという従来の流儀はもはや通用しない。

琉球新報「『殺害』示唆 植民地扱いは限界だ 許されない問題の矮小化」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-283046.html

 政府は火消しに躍起とされる。沖縄は単なる「火」の扱いだ。このまま米軍基地を押し付けておくために当面、県民の反発をかわそうというだけなのだろう。沖縄の人も国民だと思うのなら、本来、その意を体して沖縄から基地をなくすよう交渉するのが筋ではないか。
 だが辺野古新基地建設を強行しようという政府の方針には何の変化もないという。この国の政府は明らかに沖縄の側でなく、何か別の側に立っている。
 (中略)
 綱紀粛正で済むなら事件は起きていない。地元の意に反し、他国の兵士と基地を1県に集中させ、それを今後も続けようとする姿勢が問われているのである。
 問題のすり替え、矮小(わいしょう)化は米側にも見られる。ケネディ米大使は「深い悲しみを表明する」と述べたが、謝罪はなかった。ドーラン在日米軍司令官も「痛ましく、大変寂しく思う」と述べたにすぎない。70年以上も沖縄を「占領」し、事実上の軍事植民地とした自国の責任はどこかに消えている。
 (中略)
 確かに、容疑者は海兵隊をやめ、今は嘉手納基地で働く軍属だ。だからこそ辺野古新基地をやめれば済む問題でもない。
 日ごろ戦闘の訓練を受けている他国の軍隊がこれほど大量かつ長期に、小さな島に駐留し続けることが問題の淵源(えんげん)だ。沖縄を軍事植民地として扱い続ける日米両政府の姿勢が間違いなのである。ここで現状を抜本的に変えなければ、われわれは同輩を、子や孫を、次の世代を守れない。

 まだ容疑者が逮捕されたばかりで事件の詳細は分かっておらず、予断は避けなければいけません。それでも翁長知事が言うように「基地あるがゆえに事件が起きてしまった」のは間違いがないことだと思います。そして翁長知事の「この怒りは持って行き場がない」との言葉に込められた沖縄の激しい怒りは、直接は米軍当局、なしは当事者能力がない日本政府へ向けられるものだとしても、その日本政府の当事者能力のなさを、民主主義の手続きを踏んで維持させているのは日本本土に暮らす圧倒多数の人たちを含めた日本国民全体だと受け止めています。琉球新報が「問題の淵源」と説く「日ごろ戦闘の訓練を受けている他国の軍隊がこれほど大量かつ長期に、小さな島に駐留し続けること」を維持させているのも、日本国民全体の民主的な選択の結果です。沖縄タイムス琉球新報両紙の社説を読み、日本本土のマスメディアが本土の日本人に向けてこの事件を報じる際に必要なのはその視点だと、あらためて感じます。


 東京発行の新聞各紙も20日付朝刊で事件を報じましたが、扱いは分かれました。朝日新聞毎日新聞東京新聞が1面トップと、最重要ニュースの位置付けです。読売新聞、日経新聞はトップではありませんが1面掲載。産経新聞は社会面準トップでした。そのことを各紙の第1面を並べた写真とともに20日朝、ツイッターでツイートしました。21日になってもリツイートが続いています。