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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

在沖縄海兵隊の偏見資料、本土メディア(毎日新聞、東京新聞、共同通信)も報道

 5月26日付の沖縄タイムス琉球新報両紙が、英国人ジャーナリストが情報公開制度で入手した米海兵隊の沖縄の研修資料を報じたことはこのブログでも紹介しました。同じニュースを毎日新聞が29日付朝刊の社会面トップ(東京本社発行紙面)で報じています。同紙サイトにもアップされています。また、共同通信も29日付朝刊用に記事を配信しています。全国の地方紙などに掲載されています。ほかにネットで確認したところでは、東京新聞も大きく報じているようです。
 沖縄の米軍、中でも海兵隊関係者による性暴力が起こるたびに、米軍は綱紀粛正を図ってきたはずです。しかし、その一方で沖縄に対する基本的なことがらをめぐる教育内容が、このように偏見や事実誤認に満ちているようでは、綱紀粛正以前の問題だということになります。日本政府は、日本の安全保障のために沖縄への海兵隊の駐留が必要との見解を示していますが、その海兵隊での教育の実態がこのようなものであることは、沖縄県外(日本本土)でも広く知られてしかるべきです。日本本土の日本国民も無関心でいることは許されないだろうと思います。

毎日新聞「沖縄に偏見、着任兵士用資料に 世論、論理的より感情的/反基地、少数派の声増幅」2015年5月29日
 http://mainichi.jp/articles/20160529/ddm/041/040/114000c

 在沖縄米海兵隊が沖縄に着任した兵士を対象に行う研修用に作成した資料に、基地問題に関する沖縄の世論を「論理的というより感情的」「二重基準」などと指摘する記述があることが分かった。沖縄の政治状況について「基地問題を『てこ』として利用する」とも表現。元海兵隊員の男が女性の遺体を遺棄した容疑で逮捕された事件を受けて米兵の綱紀粛正が求められる中、部分的とはいえ、指導者の認識が問われかねない研修内容が明らかになった形だ。【川上珠実、佐藤敬一】
 (中略)
 沖縄の人々について「一般的に限られた情報源しか持っておらず、情報を得るための努力をしない」と説明。「住民の大半は沈黙しているが、反基地を訴える少数派の声が地元メディアによって増幅されている」と記述し、「多くの人々にとって軍用地料が唯一の収入で、土地の返還を望んでいない」としている。
 米兵による事件や事故については「歴史やその解釈が反基地の物語を生み出し、事件や犯罪、事故など全てを否定的に捉えさせ、必要以上の注目を集める」と指摘。「メディアや地元の政治は半分の事実と不確かな容疑を語って負担を強調しようとする」と批判する一方、米兵に対し繁華街などでの行動について「突然身についた(異性にもてるという)『ガイジンパワー』によって我を忘れ、社会的に許容されない行動をとってしまう」と注意喚起している。

東京新聞「米海兵隊県民蔑視の研修資料/『沖縄、基地を政治利用』『軍用地料唯一の収入』」2016年5月29日朝刊
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201605/CK2016052902000129.html

 在沖縄米海兵隊が沖縄に着任した兵士らを対象に実施した沖縄の歴史や政治状況を説明する研修で、沖縄の政治環境について「沖縄県と基地周辺の地域は沖縄の歴史や基地の過重負担、社会問題を巧妙に利用し、中央政府と駆け引きしている」と記述し、沖縄側が基地問題を最大限に政治利用していると説明していることが分かった。
 米軍に批判的な沖縄の世論については「多くの人は自分で情報を入手しようとせず、地元メディアの恣意(しい)的な報道によって色眼鏡で物事を見ている」と記述するなど、県民を見下すような記述もあった。
 英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏が情報公開請求で入手した。資料には「二〇一六年二月十一日」と日付が記載されており、最近の研修でも使われたとみられる。
 ミッチェル氏は取材に対し「米軍が兵士に対して県民を見下すよう教えている。それが海兵隊員の振る舞いに影響を与えていることが分かる。『沖縄への認識を深める』という海兵隊の約束は失敗している」とコメントした。
 資料は沖縄の状況について「多くの県民にとって軍用地料が唯一の収入源であり、彼らは基地を返還してほしくない」などと、明らかな事実誤認の記述もあった。
 県によると、沖縄県民の総所得に占める基地関連収入の割合は、本土復帰直後の一九七二年には15・5%だったが、二十年以上前からは約5%で推移している。県は「比重は大幅に低下しており、基地返還が進めばさらに低下していくと考える」としている。

◇47news=共同通信「沖縄の反基地民意は『感情的』/米海兵隊研修資料で」2016年5月28日
 http://this.kiji.is/109224849268180468

 在沖縄米海兵隊が新任兵士向けに開く研修の資料に、米軍基地に反発する沖縄の民意を「感情的だ」「独自のレンズで見ている」などと記載していることが28日、分かった。英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏が、海兵隊への情報公開請求で入手した。経済的に基地に依存し、県民の多くが基地撤去を望んでいないとする記述もある。
 米軍は、元海兵隊の軍属が逮捕された女性遺棄事件を受け、再発防止と綱紀粛正を約束したが、海兵隊が実施してきた研修内容が明らかになり、県内からは「偏った見方だ」との批判が強まりそうだ。
 資料は研修に使われる発表用のスライド。


 沖縄2紙の29日付の社説です。一部を引用します。琉球新報はこの海兵隊の研修資料を取り上げています。
【5月29日】
沖縄タイムス「[四軍調整官会見]問題続出 もはや限界だ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=170466

 女性の遺体を遺棄した疑いで元海兵隊員の軍属が逮捕されたことを受け、在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官は、キャンプ瑞慶覧で記者会見した。
 犠牲者への哀悼の意とともに、明らかにされたのは綱紀粛正策である。
 27日から6月24日まで約1カ月、県内に住む軍人に対し、基地の外や自宅の外での飲酒を禁じ、午前0時までの帰宅を義務づけた。軍属に対しても同様の綱紀粛正を求めている。
 「異例の対応」には違いないが、これ以外の再発防止策や、より踏み込んだ綱紀粛正策には、触れていない。「喪に服するため」の当面の措置という位置づけだ。この程度の再発防止策を示して県民の怒りが収まるなどということは、あり得ない。
 復帰後も、いやというほど事件が繰り返されてきたのはなぜなのか。この事実は、軍内部の性犯罪防止策では再発防止が不可能なことを示している。ニコルソン調整官は会見で、県などから改善策の提案があれば再発防止策の見直しも検討するとの考えを示したが、対策が手詰まり状態にあることを認めたようなものである。
 過去に起きた米軍関係者の事件と再発防止策を丁寧に検証し、再発を防げなかった理由も含め検証結果を報告書の形で沖縄県と国会に提出すること。四軍調整官を参考人として県議会に招き、海兵隊の入隊から訓練形態、日常生活に至るまで、を聞くこと−そのような大胆な対応策を検討する時期が来た。

琉球新報「県民蔑視研修文書 根深過ぎる占領者意識だ」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-287895.html

 組織に入る新人たちに、配属地の歴史や文化を学び、顧客やその地で暮らす住民に敬意を抱き、社会人らしく振る舞うよう促す。それは、新人教育の基本だろう。
 ところが、事件・事故を起こし続け、県民生活を脅かしている在沖米海兵隊は全く逆だった。
 県民への敬意どころか、沖縄社会を見下し、差別と蔑視が網羅された文書に基づき、新人を研修していた。反省なきままに、事件が拡大再生産される温床にはこの県民蔑視がある。研修の検証を求めている県は、海兵隊の居直りを許してはならない。
 具体的な記述はこうだ。
 戦後71年に及ぶ過重負担について、県民が「犠牲・差別」「基地は経済発展の阻害要因」と主張するのを物語呼ばわりしている。
 「外人パワーを発揮し、許容範囲を超えた行動をしてしまう」。外国人は異性にもてはやされ、兵士たちに女性が寄ってくるという偏った意識を植え付ける表現だ。海兵隊員らが牙をむく性被害が後を絶たない要因にもなっていよう。
 琉球新報など県内2紙に対し、「内向きで狭い視野を持ち、反軍事を売り込む」と記す。報道が誘導して反基地の世論が形成されていると決め付ける短絡的思考には、民度が高い県民の思いの深層をくむ感性はみじんもない。
 「海兵隊員の血であがなって獲得した沖縄の支配者は米国」という占領者意識が今なお息づき、ゆがみ切った対沖縄観が根深い。

 琉球新報の28日付の社説も記録にとどめておきます。
【5月28日】
琉球新報「首相『辺野古唯一』 被害者の命をも軽んじた」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-287382.html

 安倍晋三首相が日米首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設問題は名護市辺野古への移設が「唯一の解決策との立場は変わらない」との考えを、オバマ大統領にあらためて伝えていた。
 米軍属の男が20歳の女性の遺体を遺棄する痛ましい事件が起きたばかりである。事件は米軍基地あるが故に起きたことに、安倍首相はまだ気付かないのだろうか。
 安倍首相の発言は、女性の死を悼む多くの県民に冷や水を浴びせただけではない。無念の死を遂げた女性の命をも軽んずるものであり、断じて許されるものではない。
 国民の命を守れなかった自らの責任を、安倍首相が重く受け止めているならば、辺野古新基地建設の推進を首脳会談で持ち出すはずはなかろう。事件直後のこの時期に「辺野古が唯一の解決策」と発言したことで、安倍首相の沖縄に対する冷淡な姿勢がさらに鮮明になった。
 安倍首相は「身勝手で卑劣極まりない犯行に、非常に強い憤りを覚える」とオバマ氏に抗議した。憤りがあるのなら、オバマ氏に明確に謝罪するよう求めるべきではなかったか。
 オバマ氏に対し「日本国民の感情をしっかりと受け止めてもらいたい」とも要請したが、安倍首相自身も県民感情を受け止める必要があることを自覚すべきだ。