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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

参院選で示した沖縄の民意に対する安倍政権の答え―「ヘリパッド着工」「辺野古再提訴」と在京紙の報道の記録

 沖縄の基地の過剰負担の問題をめぐって7月22日、大きな動きが二つありました。いずれも主体は日本政府=安倍晋三政権です。一つは、沖縄本島北部の東村、国頭村にまたがる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の新たな建設工事に早朝、着手したことです。二つ目は、米軍普天間飛行場の移設先として日米が合意している名護市辺野古の埋め立てを巡り、国の是正指示に沖縄県の翁長雄志知事が従わないのは違法として、新たな訴訟を福岡高裁那覇支部に起こしました。特に北部訓練場の現場では、抗議の市民と、排除する機動隊が激しくもみ合った様子をマスメディアが伝えています。翁長知事はヘリパッド建設の着工に対し「県民に大きな衝撃と不安を与えるものであり、誠に残念だ」「強行に工事する政府の姿勢は到底容認できない」と抗議し、国の提訴にも「国の強固な態度は異常だ。強行に新基地建設を進めることは、民主主義国家のあるべき姿からはほど遠い」と批判しました。
 以下に、沖縄の地元紙の報道の一部を書きとめておきます。

琉球新報「国が高江工事を強行 機動隊が市民排除 10時間超 県道封鎖」=2016年7月23日
 http://ryukyushimpo.jp/movie/entry-321711.html

 【東・国頭】東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設工事で、沖縄防衛局は22日午前、新たなヘリパッドの建設工事に着手した。予定されている工事現場周辺では資機材が搬入され、一部では重機により進入路などの整備が始まった。多くの市民らが抗議する中、約500人とみられる全国から動員した機動隊員を投入し、工事を強行した。政府の姿勢に県民の反発が強まりそうだ。
 資機材の搬入に伴い、東村高江と国頭村安波の2カ所で県道70号が22日午前6時4分から午後4時47分まで封鎖され、報道陣も含め、10時間以上出入りができなくなった。付近の住民生活にも大きな影響を与えた。
 抗議行動中、機動隊員らともみ合った市民の救急搬送が相次いだ。

琉球新報「国が再び沖縄県提訴 辺野古、違法確認求める」=2016年7月23日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321712.html

 政府は22日、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、埋め立て承認取り消しに対する国の是正指示に翁長雄志知事が応じないのは違法だとして、福岡高裁那覇支部に不作為の違法確認訴訟を起こした。第1回口頭弁論は8月5日に開かれる。国が地方自治体に不作為の違法確認訴訟を提起するのは、2012年の地方自治法改正で制度が設けられて以来初めて。
 新基地建設に関する県と国の対立は代執行訴訟での和解成立から4カ月余りで再び法廷闘争に突入する。協議による解決を求めていた県と国の対立が深まるのは必至だ。
 一方、菅義偉官房長官は会見で「(訴訟と話し合いを並行して進める)和解条項に基づいて手続きが進んでいる証しだ」と、和解条項の範囲内であることを重ねて強調した。

琉球新報「知事『国の強硬姿勢は異常』 高江着工、提訴を強く批判」=2016年7月22日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321244.html

【東京】翁長雄志知事は22日午後、沖縄防衛局が同日早朝に米軍北部訓練場のヘリパッド建設工事を再開したことについて、「県民に大きな衝撃と不安を与えるものであり、誠に残念だ」と述べた。その上で「県民は長年にわたり過重な基地負担に耐えながら日米安保体制に尽くしてきているにもかかわらず、強行に工事に着手する政府の姿勢は到底容認できるものではない」と強く批判した。同日開かれた沖縄振興審議会後、記者団に答えた。

琉球新報辺野古提訴、高江着工、同日に 政府『やると言ったらやる』 参院選後、民意無視で『最短日程』強行」=2016年7月22日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321155.html

 21日の政府・沖縄県協議会で、名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事を22日に提訴すると伝えた政府。代執行訴訟に続き再び法廷闘争に入る。翁長知事は協議会で、国地方係争処理委員会の判断を尊重し、訴訟よりもまず、問題の根本解決を目指した協議を求めたが、菅義偉官房長官は県への提訴で返した。地方自治法で国が提訴できるのは22日からで、国側は一歩も譲らない姿勢で“最短日程”の提訴に踏み切る。併せて22日は東村高江周辺のヘリパッド建設工事にも着手し、さらに近く辺野古陸上部の工事も再開予定で、強硬ぶりをあらわにしている。

沖縄タイムス「<米軍ヘリパッド>『悲しいです。もう限界だ』立ち尽くす市民」=2016年7月23日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=179714

 沖縄県東村高江周辺のヘリパッド建設の再開に着手した政府は22日、反対の市民を圧倒する約500人の機動隊員らを投入し、専門家から「法の乱用」と指摘される県道封鎖まで実行した。なりふりかまわずに市民を退けた場面は、戦前の「戒厳令」をほうふつさせた。
 「落ちる!」「危ない!」。N1表ゲート前の車上でもみ合う屈強な機動隊員らの帽子は落ち、抵抗する市民の足はがくがく震えていた。「排除!」。炎天下に号令が響いた22日午前8時55分。機動隊員らが一斉にN1表ゲート前の街宣車2台によじ登り、車上に座り込む市民を引きずり降ろしにかかった。
 車上の激しいもみ合い。小さな街宣車の不安定な足場に機動隊員らが次々押し寄せ、あわや「死者が出かねない」(車上にいた市民)事態に。街宣車周辺には市民の怒号や悲鳴、おえつがごちゃまぜになって響いた。引きずり降ろされたり、余りの激しい「排除」にショックを受けて気を失い、救急搬送されたりする女性も。9時10分、警察側から「ストップ!」の号令がかかり、市民も車上から降りた。

沖縄タイムス:社説「[辺野古提訴・高江強行]蛮行に強く抗議する 県は対抗手段練り直せ」=2016年7月23日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=179706

琉球新報:社説「ヘリパッド工事再開 許されぬ建設強行 政府は計画見直し話し合え」=2016年7月23日
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-321704.html


 7月10日投開票の参院選で沖縄選挙区では、現職閣僚だった島尻安伊子氏が、無所属で元宜野湾市長の伊波洋一氏に10万票以上もの差で大敗しました。衆参両院で、沖縄の選挙区には自民党議員がゼロになりました。特に参院選では、米軍属の元海兵隊員の男が20歳の女性を暴行目的で殺害したなどとして起訴された事件が直前にあり、基地の過剰負担の問題はまぎれもなく主要争点でした。基地問題に対する民意はこれ以上はないというくらいに明白と言ってよいと思います。しかし、その民意が示されたことに対する安倍政権の答えは、ヘリパッド工事の着工と新たな提訴でした。北部訓練場周辺には、警視庁や北海道警、大阪府警や福岡県警など、本土から機動隊員が数百人規模で投入されているとも報じられています。政府の主張は、外交と安全保障は中央政府の専権事項ということなのかもしれませんが、それにしてもこれほどまでの民意の無視、地域の自己決定権の否定、抗議に対する直接の抑圧が、沖縄以外で起こり得るだろうか、ということをあらためて考えさせられます。ほかの地域では起こりえないのであれば、それは「差別」と呼ぶほかありません。
 沖縄に対してこうした政策を取る現政権は、民主主義の手続きに基づいて成り立っています。ですから現政権の施策は、現政権を支持する、支持しないにかかわらず、また個々人の政治的意見の差異にかかわらず、日本国の主権者たる国民の総意と言うべきです。ここに、沖縄で何が起きているかが広く知られなければならない意味があると思います。とりわけ沖縄県外、日本本土のマスメディアが、本土に住む日本国の主権者に向けて何を伝えるかは大きな意味を持ちます。
 そうした問題意識の下で、東京発行の新聞各紙が22日から23日にかけて、この沖縄をめぐる動きをどのように伝えたのか、各紙の記事の扱いや見出しを記録しておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。


【22日付夕刊】

朝日新聞
・本記1面準トップ「米軍ヘリ着陸帯 移設再開」「沖縄・北部訓練場一部返還の条件」地図
・社会面「反対派排除に怒号」「米軍ヘリ着陸帯工事再開」写真
 ※1面トップは「ポケモンGO 国内でも開始」

毎日新聞
・本記1面準トップ「政府、沖縄県を提訴」「辺野古巡り再び法廷闘争」/「ヘリパッドの移設工事再開」
・社会面トップ「『民意 踏みにじるな』」「工事再開 飛び交う怒号」写真
 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一主義』」

▼読売新聞
・本記1面中「辺野古 国が県提訴」「移設工事 再開目指す」経過表/「ヘリ着陸帯 工事再開」
 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一』」

日経新聞
・本記3面「辺野古 政府が再び県提訴」「北部訓練場 ヘリ離着陸帯着工」
・社会面「沖縄 市民が怒りの声」「政府、県を提訴 基地前で座り込み」写真
 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一』」

東京新聞
・本記1面トップ「辺野古 沖縄県を再提訴」「政府、参院選終え強硬姿勢」/「北部ヘリパッド着工」写真・地図/解説「翁長知事『民主主義国家から程遠い』」
・2面「政府と沖縄 溝埋まらず」Q&A/翁長知事の発言要旨
・社会面準トップ「『沖縄の声踏みにじるのか』」「再提訴・工事着手に憤り」


【23日付朝刊】


朝日新聞
・本記3面(総合面)「反対派排除し工事再開」「国、沖縄のヘリパッド移設急ぐ」写真・地図/「辺野古移設では県を提訴」
 ※1面トップは「ポケモンGO 興奮上陸」

毎日新聞
・本記2面(総合面)「沖縄県、反発強める」「政府、ヘリパッド工事再開」「辺野古提訴も刺激」地図・経過表
・第2社会面「『基地押し付けるな』」「工事再開反対派 機動隊ともみ合い 沖縄ヘリパッド」写真
 ※1面トップは「『隠れ待機児童』5万人」

▼読売新聞
・本記1面中「辺野古 国、移設再開へ県提訴」
・2面(総合面)「移設へ 訴訟と対話」「国 和解シナリオ見直し」「知事 徹底抗戦の構え」/「ヘリ着陸帯 工事再開 米軍北部訓練場」写真・経過表・地図
・社説「辺野古再提訴 移設の停滞は看過できない」
 ※1面トップは「経済対策 赤字国債見送り」

日経新聞
・本記4面(政治面)「辺野古移設 対立再び」「政府が県提訴『工事続行は当然』」
・社説「沖縄との対話もっと丁寧に」
 ※1面トップは「トランプ氏、反TPP明言」

産経新聞
・本記2面(総合面)「県の違法性確認求める」「政府再提訴 来月5日に口頭弁論」「辺野古埋め立て」/「対米公約 北部ヘリパッド移設公開」地図
 ※1面トップは「『米国第一』共和変質」

東京新聞
・本記1面トップ「翁長氏『強硬政府に抗議』」「辺野古再提訴 ヘリパッド着工」地図/「400メートル先にオスプレイ」「集落囲むヘリパッド 広がる不安」
・2面「対米優先 埋め立て急ぐ」「辺野古 国が沖縄知事を再提訴」Q&A
・社会面準トップ「反対市民を強制排除」「沖縄ヘリパッド工事 騒然『森汚すな』」
・社説「沖縄の米軍基地 対話でしか打開できぬ」

 東京新聞は22日付夕刊、23日付朝刊ともに1面トップで扱いましたが、ほかに1面トップの例はありません。それでも22日付夕刊では朝日新聞毎日新聞、読売新聞も1面に入れてはいたのですが、23日付朝刊では、朝日、毎日は1面からは落ちて総合面になりました。朝日は社会面にも記事が見当たりません。相対的に読売の記事のボリュームの大きさが目立ちます。
 22日は米大統領選で共和党の候補指名を受けた注目のトランプ氏の演説という大きなニュースがありました。将来的に在日米軍や日本の安全保障、ひいては沖縄の基地集中の問題にもかかわってくる可能性があります。マスメディアで大きな扱いになるのは当然でしょう。もう一つ話題になったのは、米国などで大ヒットしたスマホゲーム「ポケモンGO」の日本リリースです。確かに社会現象になっているニュースですが、朝日が22日付夕刊、23日付朝刊とも「ポケモンGO」を1面トップで扱ったのには違和感を覚えました。
 一方、全国紙でも発行本社によって、あるいは制作の時間帯によって紙面内容が異なることがあります。沖縄に近い九州・山口をエリアとする西部本社では、毎日新聞は23日付朝刊12版(締め切り時間が比較的早い版です)は沖縄が1面トップだったようです。ツイッターで知らせていただきました。
 https://twitter.com/otohara1/status/756762177411833856

 北部訓練場のヘリパッド建設着工で、機動隊が抗議の住民らを排除する様子は、動画がネット上にいくつもアップされています。ここではyoutube共同通信の動画を貼りつけておきます。
 https://www.youtube.com/watch?v=_k0kMUI6lqU&feature=youtu.be&t=9

 琉球朝日放送が22日夕方に放映したニュースが、同局のサイトにアップされています。
 「高江で強制排除始まる」=2016年7月22日
 http://www.qab.co.jp/news/2016072281990.html
 以下は現場で取材した記者の報告です。

 ここからはきょう高江で取材した島袋記者に聞きます。現場はどんな所でしたか?
 現場は県道70号、米軍北部訓練場に囲まれた深い森です。これまでも辺野古普天間基地のゲート前で警察と抗議する人々の衝突を見てきましたが、今回はこれまでとは全くレベルが違う政府の強権的な姿勢を見た印象です。
 ざっと見た感じ、市民は200人くらいいたんですが、機動隊はその倍以上いたように見えました。1人に5人、10人でかかっていく様子、県外からの応援組が多かったこともあってか全く感情を入れず、マスコミの目も気にせず機械的に人々を排除している印象でした。
 また約8キロにわたって県道を規制し、トイレや飲み物の補給も、自由にさせないというやり方をとりました。そして、これまで何年も続いてきた抗議行動を圧倒的な数と力で押さえ込むと数時間後には、その拠点となっていたテントを撤去し新しいゲートを造ろうとしました。
 その姿からは県民に理解を求めたいという姿勢は全く感じられませんでしたし、辺野古、高江と反対する沖縄県民に対して反対しても無駄だという圧力をかけているようにさえ見えました。

 このページの一番最後に動画があるのですが、車上の反対派を排除しようと車によじ登る機動隊員が、反対派を殴りつけているように見えるシーンがあります。2分10秒ごろです。


【追記】2016年7月24日7時25分
 フリージャーナリスト志葉玲さんの7月22日のリポートです。
 「安倍政権の『沖縄潰し』本土マスコミが伝えない機動隊の暴力―高江ヘリパッド建設問題」=2016年7月23日
  http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20160723-00060291/