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人気投票に終わった観の東京都知事選―「勝てる候補」提示できなかった野党4党

 東京都知事選は7月31日に投開票の結果、いったんは自民党東京都連へ推薦願を出しながら、その後取り下げ、政党の支援なしで立候補した元衆院議員、元防衛相、元環境相小池百合子氏が当選しました。NHKや朝日新聞毎日新聞などのマスメディアの速報は、午後8時の投票締め切りと同時に「当選確実」を打つ、いわゆる「ゼロ当確」。開票結果も小池氏291万2628票、自民党推薦の元総務相、元岩手県知事の増田寛也氏179万3453票、ジャーナリストで民進、共産、社民、生活の4党統一候補の鳥越俊太郎氏134万6103票と大差が付きました。投票率は59・73%で、前回(2014年2月9日)の46・14%を13・59ポイント上回りました。
 東京発行新聞各紙は8月1日付朝刊の1面トップで大きく報じています。

 各紙の1面の見出しでは、小池氏の勝ちっぷりについて、毎日「大差」▼読売「圧勝」▼日経「大差」▼東京「大勝」と4紙が見出しで表現しているのが目を引きました。選挙結果の特徴を簡潔に言えば、自民分裂、対抗する野党は4党統一候補を立てた中での小池氏の勝ちっぷりだと思います。こうした形容はそれを一言で言い表したものでしょう。


 思い起こせば今回の都知事選挙は、前知事の舛添要一氏が政治資金の公私混同ぶりに厳しい批判を受けて辞任したことによるものでした。その舛添氏も、前任の猪瀬直樹氏がやはり知事選直前の資金提供問題で辞職した後を受け、「勝てる候補」として自民、公明が支持を決めた経緯がありました。東京都知事は2代続けて、「政治とカネ」の問題で、あえて言えば政策とは関係がない個人的な資質の問題を問われて任期を全うできない異常事態でした。
 そのことを教訓とすれば、わたしは今回の都知事選はまず第一に、人気投票に陥らないようにすることが必要なはずだと考えていました。金を含めた身ぎれいさの上に、人格と識見を備えた候補の間で、政策論争が活発に行われるべきでした。
 しかし、実際のところは人気投票に終始したように思います。小池氏は出馬表明していきなり都議会の解散をぶち上げてみたり、自民党へ出していた推薦願いをわざわざ参院選の投開票日に取り下げてみたりと、話題になる言動が目立ちました。自民党を離党したわけでもないのに、自民党と対決姿勢を示しているように見えて、一定程度、改革者のイメージを打ち出すことができたように思います。そこが自民党支持層の票を奪い、浮動票を取り込んだ要因でしょうか。共産党支持層の少なくない部分も支持したことは、「クリーン」のイメージづくりにも成功したと言えるのではないかと思います。かつては小池氏も「刺客」を務めた小泉純一郎氏の手法をしっかり学んだのだろうと感じました。自民党が組織で支援した増田氏は大差をつけられました。
鳥越俊太郎氏については、公示直前になって出馬を表明。「政策はこれから考える」という状況でした。支援する4党が政策協定を結ぶなりすれば、候補としての政策面の弱さをカバーすることができたかもしれません。
 公示後に週刊文春週刊新潮が、相次いで鳥越氏の女性問題疑惑を報じたことが、マイナスに作用したのは当然だろうと思います。事の真偽の問題は別としても、事後の対応で「事実無根」のひと言で済まそうとしたことは、分かりにくさと戸惑いを呼ぶだろうと思いました。「事実」には幅があります。その女性との面識すら心当たりがまったくないのか、報じられているような行動を女性に対して取ったが、それは合意の上だったのか。週刊誌報道を「選挙妨害」と呼ぶことにも違和感を覚えました。
 いずれにせよ、知名度をたのんで「勝てる候補」として4党が鳥越氏に相乗りしたのでしょうが、その擁立の経緯自体が、最初から人気投票の思考だったのではないかと残念に思います。自民党が分裂していながら、増田氏にも大きく及ばない惨敗です。人格と識見、身ぎれいさに政策を兼ね備えた、そういう意味での「勝てる候補」を選挙民に提示できなかった4党の責任は極めて大きいと思います。
 都知事選が人気投票に終わったことの証左の一つとも思いますので、備忘として政党支持別の有権者投票行動のデータを書きとめておきます。毎日新聞産経新聞東京新聞、TBS、フジテレビ、テレビ東京テレビ朝日東京メトロポリタンテレビ、共同通信の9者が共同で実施した出口調査の結果です。

自民支持 小池氏52% 増田氏40% 鳥越氏4%
公明支持 小池氏23% 増田氏71% 鳥越氏5%
民進支持 小池氏39% 増田氏8% 鳥越氏49%
共産支持 小池氏17% 増田氏6% 鳥越氏69%
支持なし 小池氏51% 増田19% 鳥越氏20%

 もともと浮動票とも呼ぶ無党派層が多い東京の選挙は、人気投票にならざるを得ないのかもしれません。だとしても、せめて猪瀬氏、舛添氏の2代の教訓を生かすなら、都議会は臆することなく新知事の「金」のチェックもしっかりやらなければならないと思います。


 女性初の東京都知事になる小池氏ですが、過去にはこんな発言がありました。2013年3月26日の自民党の国防部会でのことです。沖縄の米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設に関連して、「(反対する)沖縄メディアの言っていることが、本当に県民をすべて代表していると思わない」「(同党の沖縄選出の議員が)戦っているのは沖縄メディア。それと戦って今回も当選した。堂々と役割を果たすのを後押ししたい」と述べています(出典は共同通信の配信記事)。ウイキペディア「小池百合子」には、朝日新聞記事の引用として「沖縄の先生(=自民党議員)方が何と戦っているかというと、沖縄のメディアなんですよ。今日はこちらに地元メディアもいると思うが、しかしながら、あれと戦って今回のご当選をされてきたということは、むしろ沖縄のメディアの言っていることが本当に県民をすべて代表しているとは、私ははっきり言って思いません。これからも堂々と地元と国会議員としての役割を果たして頂けるように後押しをさせていただきたい」との発言が紹介されています。政治とマスメディアの観点から、書きとめておきます。
 現在、沖縄の選挙区には衆参を通じて自民党国会議員はいません。小池氏の沖縄の世論、沖縄のメディアに対しての認識は変わっているのでしょうか。