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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

辺野古訴訟判決めぐり地方紙社説は批判が圧倒

 米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古の埋め立て承認を巡り、日本政府の主張を丸ごと認め、沖縄県敗訴となった16日の福岡高裁那覇支部判決に対して、沖縄県外(日本本土)の地方紙が社説でどのようにとらえているのか、ネット上で読むのが可能な範囲で調べてみました。これまでも沖縄の基地集中の問題に対しては、地方紙はそれを強いる日本政府の方針に懐疑的な論調が大勢を占めています。今回の高裁支部判決と、判決を受けて日本政府が強硬姿勢を緩めないであろうと予想されることに対しても、やはり批判的な論調が圧倒しています。政府と沖縄県の直接対話を求める内容が目に付きますが、中には「普天間の危険性を早期に除去したいならば、辺野古移設以外の選択肢を模索するしかない」(新潟日報)と辺野古移設の断念を求める強い論調や、「日米安保を享受しながら、沖縄に基地を押しつけている現状に目を向けなければならない」と、基地問題をわがこととして受け止めることを示した社説も目に付きました。
 判決を評価している例としては北國新聞の社説がありますが、「国の専権事項である国防政策も地域住民の理解が欠かせず、一方的に押しつけることがあってはならない」との指摘もしています。
 以下に、目にとまった範囲ですが、各紙の社説の見出しを書きとめておきます。

【9月17日付】
北海道新聞「『辺野古』国勝訴 沖縄の声は変わるまい」
岩手日報辺野古移設訴訟 国は拳を下ろさないか」
▼神奈川新聞「辺野古高裁判決 歩み寄り対話で解決を」
▼山梨日日「[辺野古訴訟 国が勝訴]見えぬ道筋 協議の場に戻れ」
信濃毎日新聞辺野古判決 誠実さ欠く政府の姿勢」
新潟日報辺野古移設判決 対話路線へ転換すべきだ」
福井新聞辺野古訴訟判決 もっと沖縄直視すべきだ」
京都新聞辺野古訴訟判決  司法で決着する問題か」
神戸新聞辺野古判決/沖縄の怒りは増すばかり」
山陽新聞辺野古訴訟判決 対話による解決を目指せ」
中国新聞辺野古訴訟で県敗訴 協議で解決策見いだせ」
山陰中央新報辺野古訴訟/見えない解決の道筋」
愛媛新聞辺野古訴訟で判決 誠実な協議しか真の解決はない」
徳島新聞辺野古訴訟 国勝訴 解決への道筋が見えない」
高知新聞「【辺野古訴訟】対話なしには解決しない」
佐賀新聞辺野古訴訟 これで民意に沿うだろうか」
熊本日日新聞辺野古訴訟判決 強権的姿勢は禍根を残す」
※判決を評価
北國新聞辺野古で国側勝訴 訴訟合戦の再燃避けたい」


【9月18日付】
東奥日報「誠意ある協議が打開策だ/辺野古訴訟 国勝訴」
南日本新聞「[辺野古判決] 解決は遠のくばかりだ」


 以下にいくつか、強く印象に残った社説を一部引用して書きとめておきます。

東奥日報「誠意ある協議が打開策だ/辺野古訴訟 国勝訴」
 http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/20160918017944.asp

 政府内には国側勝訴に、中断中の埋め立て工事の再開を見据え「一歩前進」(外務省筋)との受け止め方がある。ただ、翁長氏が知事に当選した2014年以降の国の対応には問題もあったのではないか。知事選での翁長氏の公約が「辺野古移設反対」であり、同氏のこれまでの行動はすべてこの公約の延長上にあるということを国があえて無視してきたように映る。
 翁長氏に対して国が「辺野古が唯一の解決策」と迫るのは「公約の破棄」を求めるに等しい。民主主義の基盤である選挙そのものを軽視するような行為と言っても過言ではない。外交や防衛が国の所管事項だとしても、首長もまた住民の生命を守る責任を負っているのだ。
 翁長知事は国との協議そのものには前向きな姿勢を示しており、稲田朋美防衛相も判決後、協議継続の考えを述べた。ただし、国がこれまで通りの硬直的な姿勢を取る限り溝が埋まることはない。埋め立て計画をいったん凍結するほどの柔軟さが求められているのではないだろうか。


新潟日報辺野古移設判決 対話路線へ転換すべきだ」
 http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20160917280208.html

 忘れてならないのは、第三者機関の国地方係争処理委員会が6月、「国と県が真摯(しんし)に協議し、納得できる結果を導く」よう求めたことである。
 県が話し合いを要請したにもかかわらず、国は提訴に踏み切った。国は係争委の提言を改めて重く受け止めるべきだ。
 日米両政府が1996年4月に普天間返還に合意してから20年が経過した。
 今なお返還が実現しない理由は、両政府が沖縄県の民意を無視して辺野古移設にこだわっているからにほかならない。
 県民の多くが辺野古移設に反対しているのは、知事選や衆参両院の選挙、県議選で反対派が勝利したことから明らかである。
 普天間の危険性を早期に除去したいならば、辺野古移設以外の選択肢を模索するしかない。


京都新聞辺野古訴訟判決  司法で決着する問題か」
 http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20160917_4.html

 国は司法のお墨付きを得たら、移設を加速させるだろうが、そもそも裁判で決着をつける問題ではあるまい。
 法廷で問われた翁長知事は「確定判決に従う」と述べたが、徹底抗戦の構えは変えていない。選挙で示された民意を背景に「あらゆる方策」を検討しているという。
 安倍政権は県北部の米軍訓練場ヘリコプター離着陸帯の建設工事を強行、さらに沖縄県振興予算を辺野古移設に結びつけ露骨に揺さぶりをかけている。
 沖縄以外では関心が高まらないことが、安倍政権を強気にさせているのかもしれない。
 翁長知事は意見陳述で、国の主張は地方自治をないがしろにしており、「沖縄県だけにとどまらない問題」と訴えた。日米安保を享受しながら、沖縄に基地を押しつけている現状に目を向けなければならない。


愛媛新聞辺野古訴訟で判決 誠実な協議しか真の解決はない」
 http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201609177439.html

 まずは国が、頑迷な姿勢を改め、普天間辺野古を切り離して打開策を考えるべきだ。返還の合意から20年放置されてきた「普天間の危険除去」は喫緊の課題だが、「県内から県内」では沖縄の負担軽減には全くならない。撤去や縮小、県外・国外移設など、あらゆる可能性を探るそぶりさえ見せず、自国民たる沖縄県民の意思と人権を無視して抑え込む。そんな暴挙は、およそ政治や民主主義、地方分権の名には値しない。
 国が県を訴え、強硬な本音を隠そうともせず「攻撃」する。そんな信じられない事態が、参院選を境に露骨に進む。米軍専用施設「北部訓練場」の工事強行。沖縄振興予算を基地返還と関連付ける「リンク」論の公言と減額。そして辺野古訴訟…。
 7月の全国知事会で、翁長氏は基地問題を「わがこととして真剣に考えてほしい」と呼び掛けたが、積極的に呼応する意見表明は埼玉や滋賀など少数にとどまった。しかし、全国の地方や国民にとって、決して人ごとではない。安全保障は誰のためにあるのか。日本が初めて、自ら沖縄に恒久的基地を建設することを黙認していいのか。判決を機に、一人一人が考えねばならない。わがこととして。


佐賀新聞辺野古訴訟 これで民意に沿うだろうか」
 http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/356731

 一方で、国が主張するように日米同盟は日本の安全保障の要であり、その重要性は増すばかりである。海洋進出を目指す中国の台頭や、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威など、さらに緊迫しているのは間違いない。
 だが、日米もまた、対等なパートナーのはずだ。腫れ物に触るように「対米追従」に終始するのではなく、沖縄の民意を踏まえて、辺野古移転に代わる策を米側と協議すべきではないか。
 米軍関係者による犯罪が一向になくならない背景として、米軍関係者を優遇する「日米地位協定」の問題が指摘されているが、女性暴行殺害事件が起きても、日本政府は運用の改善にとどめ、米側に改定を求めさえしなかった。
 東アジア情勢をにらんで抑止力を維持しつつ、沖縄の負担も軽減していく。国防か、民意かの二者択一ではなく、双方が成り立つ新たな道を探るべきではないか。


 自宅で購読している琉球新報の17日付紙面が届きました。
 写真は1面、総合面、社会面です。



※追記 2016年9月21日8時30分
 「辺野古訴訟判決に地方紙社説は批判が圧倒」から改題しました。
 また本文中の「今回の高裁支部判決に対しても、やはり批判的な論調が圧倒しています」の部分に加筆し、「今回の高裁支部判決と、判決を受けて日本政府が強硬姿勢を緩めないであろうと予想されることに対しても、やはり批判的な論調が圧倒しています」に改めました。
 地方紙各紙の社説が批判しているのは、判決だけではなく、判決を受けて強硬姿勢を緩めるどころか、強めかねない日本政府に主として向けられていることを明確にするためです。