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「水爆」を主見出しに入れる新聞、入れない新聞~北朝鮮核実験の報道

 北朝鮮が9月3日、核実験を実施しました。昨年9月9日以来6回目。朝鮮中央テレビは3日午後の「重大放送」で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載する水爆の実験に完全に成功したと発表しました。このニュースを東京発行の新聞各紙は4日付の朝刊でそろって1面トップで扱いました。事実関係を伝える中心的な記事(本記)の見出しは次の通りです。

▼朝日新聞
「北朝鮮が核実験/水爆と主張 威力最大/『ICBM用 成功』/6回目」

▼毎日新聞
「北朝鮮6回目核実験/爆発規模過去最大/『ICBM用水爆成功』」

▼読売新聞
「北朝鮮 核実験/6回目 最大規模か/『ICBM用 水爆』主張/トランプ政権発足後初」

▼日経新聞
「北朝鮮 最大の核実験/ICBM用水爆と発表/制止無視、6回目強行/安保理、緊急会合へ」

▼産経新聞
「北『水爆成功』発表/爆発70キロトン 広島の4倍超/核実験6回目 ICBM搭載用/首相『警告無視し強行』」

▼東京新聞
「北朝鮮 最大核実験/『水爆 ICBM用』/成功声明 2年連続6回目」

 

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 各紙を比較して目に付くのは、主見出しに「水爆」を取ったのは産経新聞だけという点です。ただ、この日の朝刊用に共同通信が配信した記事も見出しは「北朝鮮、水爆成功と発表/核実験6回目、過去最大/70キロトン、『ICBM用』」と、主見出しに「水爆」を入れています。共同通信の配信記事を掲載した地方紙の中には、「水爆成功と発表」を主見出しにした紙面もあるようです。

 北朝鮮は昨年1月の核実験の際にも「水爆試験に成功した」と主張しましたが、疑問視する指摘もありました。主見出しに「水爆」を入れなかった新聞各紙の判断としては、そうした経緯も踏まえて、水爆であるか否かはなお解析が必要なこと、「水爆」との北朝鮮の主張をそのまま前面に出せば、危機をあおる北朝鮮の「瀬戸際外交」を結果的に利する恐れがあることなどを判断してのことなのだと思います。

 一方で、今回の核実験に対しては、観測された爆発の規模が過去最大だったことが指摘されており、菅義偉官房長官は会見で「水爆実験だった可能性も否定できない」と述べています。日本政府の公式見解としても、水爆実験だったことを否定していないわけです。「水爆」を主見出しに取る判断は、6回目の今回の実験の最大の特徴はその点にあるとみてのことなのだと思います。ただし、本当に水爆かどうかはなお解析が必要なのは変わりがなく、産経新聞も共同通信も、水爆と客観的に明らかにされているのではなく北朝鮮の主張であることが分かる形にしてあります。

 現在の状況でマスメディアに必要なのは、危機をあおることではなく、何が起きているかを事実として伝え、あわせてどうすればいいのか考え、議論するための材料を提供することです。一つのメディアが多様な考えやものの見方を伝えるのと同時に、複数のマスメディアによって、多様性が確保されていることも重要です。