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あからさまに武器購入増を求めたトランプ大統領~日米首脳会談のニュースバリュー

 米国のトランプ大統領が11月5~7日、日本を訪問しました。5日は東京の米軍横田基地に大統領専用機で乗り付け、安倍晋三首相とゴルフ。6日は天皇と会い、その後、安倍首相との首脳会談、北朝鮮拉致被害者の家族との面会を経て、安倍首相との共同記者会見に臨みました。トランプ、安倍両氏の発言としては、この記者会見が大きく報じられています。
 今回の来日で最大の焦点は北朝鮮の核・ミサイル開発への対応が最大の焦点でした。2人の間では様々な話がされたのでしょうが、会見で明らかにされたことはそれほど多くなく、安倍首相は、「全ての選択肢がテーブルの上にある」とのトランプ氏の立場を一貫して支持していること、北朝鮮の政策を変更させるため、圧力を最大限にまで高めていくことで完全に一致したことを強調しました。いずれも目新しい内容ではありません。
 それよりも驚いたのは、トランプ大統領があからさまに米国製の武器の購入増を要求し、安倍首相が受け入れるかのような答えをしたことです。備忘を兼ねて、この部分の発言を共同通信が新聞向けに送信した詳報から引用します。 

 トランプ氏 首相は大量の(米国製)軍事装備を購入するようになるだろう。そうすれば、ミサイルを上空で撃ち落とせるようになる。先日、サウジアラビアが(イエメンから発射されたミサイルを)即時迎撃したように。米国は世界最高の軍事装備を保持している。F35戦闘機でもミサイルでも(米国から買えば)米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう。
 首相 防衛装備品の多くを米国から購入している。安全保障環境が厳しくなる中、日本の防衛力を質的にも量的にも拡充していきたい。米国からさらに購入していくことになるだろう。 

 来日前、トランプ大統領が複数の東南アジア諸国の首脳に、日本は北朝鮮のミサイルを迎撃すべきだったと話したとの報道がありました。発言の意図がよく分かりませんでしたが、今にして思えば、日本に米国製の武器購入を迫る伏線だったのでしょうか。あるいは、うがった見方かもしれませんが、日米2国間の自由貿易協定(FTA)交渉には応じたくない日本側の足元を見透かし、「ならば武器を買え」と要求しているのでしょうか。
 いずれにしても、抽象的な内容が多かった共同記者会見の中で、この部分は非常に具体的で、トランプ大統領はF35などと個別の商品名まで持ち出しています。北朝鮮への対応で米国と一体化していることを誇示したい一方で、日米の通商問題には触れたくない安倍首相が、トランプ大統領にいいように―言葉は悪いですが―付け込まれて、「それなら武器を買え」となったのではないかと感じます。安倍首相にとっては、それもまた米国との軍事面での一体化強化につながり、北朝鮮への圧力最大化の一環となる意味もありそうです。対中国外交にとっても、歓迎すべき方向かもしれません。この武器購入増の要求は、目新しさ、予想外という意味でも、日本社会の今後に影響は決して小さくないという意味でも、大きなニュースバリューがあったと感じています。

 首脳会談翌日の東京発行新聞各紙の7日付朝刊1面は以下の写真のようでした。
 この「武器購入増」を1面の見出しに立てたのは東京新聞のみ。朝日、日経、産経は総合面や政治・経済面に見出しを立てていました。地方紙に掲載されることが多い共同通信の新聞用配信記事では「日米、北朝鮮へ圧力最大化/貿易是正・武器購入要求/トランプ氏、首脳会談で/ 中国にらみ新海洋戦略」と、2本目に入れていました。

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 朝日新聞のコラム天声人語はトランプ氏について「接待されつつ売り込みもできるとすれば、これほど優秀なビジネスマンはいない」と書いています。ゴルフに高級和牛の会食、歌手のピコ太郎さんまで呼んでの接待の上に、武器も買わされるのが安倍政権の対米外交なのでしょうか。北朝鮮に対して米国が武力行使に出れば、朝鮮半島はもちろん、米軍基地がある日本も戦火は免れず、住民にも犠牲が出ることが容易に予想されます。武力行使は控えるべきだと、安倍首相がトランプ大統領に直に訴えることが国民の生命と財産を守ることだろうと思いますし、拉致被害者の救出にも必要なことだと思います。