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苦情の矢面に立つ職員にも謝罪の姿勢なし~“メディア初登場”の佐川国税庁長官

 国税庁長官の佐川宣寿氏と言えば、前財務省理財局長として、大阪市の学校法人「森友学園」への国有地売却問題の国会答弁で事実確認や記録の提出を拒み続け、批判を浴びたことで知られます。国税庁長官という昇格人事に対しても疑問視する声がありました。国税庁長官に就任後も、歴代長官が恒例としてきた就任記者会見についても、記者から森友学園の問題で追及を受けるのがよほど嫌なのか、避け続け、ごく短いコメントで抱負を公表したのみで今日に至っています。その佐川氏の、ある意味では“メディア初登場”と言ってもいいのかもしれません。国税庁職員の労働組合である「全国税労働組合」との間で10月4日に開かれた団体交渉に佐川長官が出席。そのやりとりの様子が10月25日発行の機関紙「全国税」に掲載されました。

 労使の団体交渉の性格上、森友学園の問題に直接触れたやり取りはなかったと思われますが、それでもやはり組合側の発言からは、佐川氏が批判にもかかわらず昇格ポストの国税庁長官に就いたことで、全国の税務署の職員が納税者からの批判にさらされていることがうかがえます。そしてそのことに対して佐川氏はと言えば、「職員の皆さんが高い使命感を持って職務に精励していることに感謝申し上げる」とまるで他人事のような形式的な発言しかしていません。「全国税」は「職員へ謝る姿勢なし」「職員が苦情の矢面に」との見出しを立てています。掲載されているやり取りの一部を引用します。 

 委員長 定員削減に歯止めをかけてもらいたい。また、「できないものはできない」とのスタンスでなければ、職員の生活と健康は守られない。佐川長官の理財局長時の森友事件に関わる言動に国民から批判があり、職員は批判の矢面に立たされている。現場で苦悩する職員へ、何らかの言葉を発するべきだ。
 長官 職員の皆さんが高い使命感を持って職務に精励していることに感謝申し上げる。事務の簡素化、効率化に務めながら、職員の健康にも配慮し、明るく風通しのよい職場を作りたい。
 全国税 法定外資料を提出した納税者から、「来年からは提出しない。信用できない」と言われた。消費税無申告事案の調査で、領収書がない仕入税額の否認では、「おたくのトップは

認められるのに」と言われた。
 総務課長 今後とも適正な職務に努めてほしい。 

 税金はあらゆる公共の業務の中でも、もっとも公正性と透明性が必要なのに、その業務の元締めである国税庁長官に佐川氏が就き、しかもマスメディアの取材にも応じず、対国民、納税者に対して沈黙を続けていれば、納税者の不信と怒りを招くのは当然だろうと思います。その批判に現場の国税職員がさらされ続けるなら、やがては職務に対するモラルハザードを起こさないとも限らないでしょう。なのに佐川氏は職員に謝罪することもありません。本気で「感謝申し上げる」とひと言しゃべってすむ、それで組織の士気と規律が維持できると考えているのでしょうか。

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 機関紙「全国税」は、全国税のサイトからPDFファイルでダウンロードすることができます。
 ※全国税トップ http://www.kokko-net.org/zenkokuzei/index.htm
 記者会見を始めマスメディアの取材を避け続けている佐川氏ですが、団体交渉からは逃げるわけにいかなかったようです。団交にそれだけの重みを持たせる活動の積み重ねが全国税にはあるということだろうと思います。機関紙をサイト上で公開している透明性も含めて、全国税の活動に敬意を表します。