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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「自国第一」「分断」「予測不能」「高まる緊張」〜米トランプ政権が始動

 米国のトランプ新大統領が1月20日正午、日本時間の21日午前2時に就任しました。就任演説では「米国第一」を訴えました。そして、恐らくこのスピーチを代表するフレーズになると思いますが、米国製品を買うこと、米国人を雇うことを「二つの簡潔な規則」(共同通信)、「2つの簡単なルール」(NHK)として掲げました。
 就任式典に続いて主要な政策を明らかにし、予告していた環太平洋連携協定(TPP)からの離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などの方針を表明、外交では「力による平和」を目指すとして「イスラム国」(IS)壊滅を最優先事項とし、北朝鮮に対抗するためミサイル防衛システムの開発を進める考えを示したなどと報じられています。

 就任式は、時差の関係で日本の新聞制作にとっては非常に厳しい時間帯になりました。21日付け朝刊では、東京発行の各紙の扱いは分かれました。私が住む東京都区部の西部に届く紙面では、トランプ氏が大統領に「就任した」と過去形の記事を掲載したのは朝日新聞、読売新聞、日経新聞の3紙でした。毎日新聞産経新聞東京新聞は「就任する」の未来形でした。両者の紙面でいちばん違いが出たのは写真です。朝日、読売、日経の3紙はそろって1面に、かつてリンカーン大統領が宣誓の際に使ったという聖書にトランプ氏が手を置き、宣誓する場面の写真を掲載しています。
 東京の都心部では、さらに遅い時間まで編集を重ねた異なった紙面が届いているかもしれません。

※1月21日付の各紙朝刊
 各紙とも就任式やその後の主要政策発表の詳しい内容は、21日夕刊での掲載になりました。手元にある朝日、毎日、読売の夕刊は、いずれも就任演説全文の日本語訳を掲載しています。
 ただ、朝刊の各紙の見出しを拾っただけでも、「米国第一」「分断」「予測不能」「高まる緊張」などのキーワードが並ぶ紙面からは、記事が過去形であるか未来形であるかに関わらず、今後の国際情勢は先行きが見通せず、不安に世界中が覆われるさまを感じます。

※1月21日付の各紙夕刊では、朝日、毎日、読売の1面トップの見出しは「米、TPP離脱表明」でそろいました。
 各紙の朝刊、夕刊1面の主な記事や署名記事、社説の見出しを、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 
朝日新聞
・朝刊
1面トップ「『米国第一を推進』」「トランプ大統領就任」「雇用・移民 国益優先」
1面「取引外交 きしむ秩序」坂尻信義・国際報道部長
社説「トランプ氏と世界 自由社会の秩序を守れ」/あやうい取引の政治/分断の言葉と決別を/民主主義を立て直す
・夕刊
1面トップ「米、TPP離脱表明」「トランプ大統領 始動」「NAFTAは『再交渉』」「デモ過激化200人超逮捕」
1面「日本、通商戦略見直し必至」
1面「就任演説 既得権層を批判」

毎日新聞
・朝刊
1面トップ「トランプ大統領就任」「『米国第一』掲げ」「抗議デモ一部暴徒化」
1面「ワシントン厳戒」
・夕刊
1面トップ「米、TPP離脱表明」「トランプ大統領就任」「『権力 国民に戻す』」「オバマケア見直し」
1面「騒乱拡大 200人逮捕」

▼読売新聞
・朝刊
1面トップ「トランプ米大統領就任」「『米国第一』主義を宣言」「『米製品買い、米国人雇う』」「抗議デモも」
1面「世界の安定こそ 米の国益」飯塚恵子・国際部長
・夕刊
1面トップ「米、TPP離脱表明」「トランプ大統領始動」「政策 大きく転換」
1面「オバマケア見直し署名」「大統領令 基本政策も発表」
1面「抗議デモ217人逮捕」
1面「分断深める危うさ」小川聡・アメリカ総局長

日経新聞
・朝刊
1面トップ「『米国を再建する』」「トランプ大統領就任」「融和・結束 呼びかけ」「雇用創出を約束」
1面「我流の変革、高まる緊張」小竹洋之・ワシントン支局長=トランプの米国 身構える世界1

産経新聞
・朝刊
1面トップ「世界は『予測不能』領域に」「トランプ米大統領就任へ」=トランプ新時代・上

東京新聞
・朝刊
1面「『分断』抱え船出」「トランプ米政権発足」
1面「デモ 厳戒 異例ずくめ」
※1面トップは「豊洲 石原氏の責任明確化」

 折しも20日は日本でも通常国会が開会し、安倍晋三首相が施政方針演説を行いました。安倍首相はその中で、各論の最初に日米同盟を取り上げ「日米同盟こそが我が国の外交・安全保障政策の基軸である。これは不変の原則」「できる限り早期に訪米し、トランプ新大統領と同盟の絆を更に強化する考えであります」と述べました。その後に続けて沖縄の基地にも触れ「安倍内閣は、米国との信頼関係の下、抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に、一つひとつ結果を出していく決意であります」と強調しています。
 しかし、「同盟の絆を更に強化する」と言っても、相手がこちらと同じ考えではないとしたら、どうしようというのでしょうか。いよいよ米国でトランプ政権が始動し、しかもその対日本政策はいまだはっきりしないのに、「日米同盟は不変の原則」と言い切ってしまうことには、ある種の危うさを感じます。