新市長の公約に「米海兵隊の県外、国外移転」~沖縄・名護市長選の結果は「辺野古移設容認」に直結していない

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題で注目された沖縄県名護市長選は2月4日の投開票の結果、前市議の新人、渡具知武豊氏が3選を目指した現職の稲嶺進氏を破って初当選しました。移設阻止を前面に掲げる稲嶺氏に対し、市議時代の渡具知氏は移設推進の立場で、市長選では安倍晋三政権の全面支援を受けました。ただ、自身は市長選では移設の是非は示さず「国と県の裁判の行方を注視する」と話すにとどめました。得票は渡具知氏2万389票、稲嶺氏1万6931票で差は3458票。投票率は76・92%。「横一線の激戦」と報じられていたことからすれば、意外なほどに差が開いた感があります。辺野古移設阻止を掲げた稲嶺氏が敗れたことで、移設推進に名護市民の民意の承認を得たとのとらえ方が安倍政権や政権支持のマスメディアでは幅を利かしているようですが、ことはそれほど単純ではありません。
 琉球新報は5日付の「解説」で「市民の中に『反対しても工事は止められない』との諦めムードが漂う中、経済振興を掲げる渡具知氏の訴えが浸透した」と指摘しています。今回の選挙結果によってもなお、辺野古移設への賛否で言えば地元名護市の民意は反対が多数を占めることに変わりはありません。民主主義社会であれば本来、示された民意は結果として形になって当然のはずです。地域の将来を自分たちで選び取ることができるような、そうした選択肢が用意されていないのが沖縄の基地集中の本質的な問題点の一つなのだとあらためて感じますし、そのことの責任は、そうした選択肢を用意できるような政権を選んでいない日本の主権者全体が負うべきなのだろうとも考えています。
 渡具知氏の当選を巡ってとりわけ格段の留意が必要だろうと思うのは、渡具知氏が公明党県本部の支援を受けるに際して交わした政策協定の中に、「米海兵隊の県外、国外移転」があることです。本土マスメディアの報道ではあまり目にしませんが、これは渡具知氏のれっきとした公約であり、渡具知氏に票を投じた名護市民の中には、この点に期待した人も少なくなかったのではないでしょうか。

 ※琉球新報電子版「公明県本が渡具知氏に推薦状 『海兵隊の県外・国外移転』盛り込んだ政策協定結ぶ」=2017年12月28日 

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-638833.html 

 公明党県本部は普天間飛行場の県外移設を求めており、2014年の前回市長選では自主投票としていた。今回は、自民党側から強い要請があり、在沖米海兵隊の国外移転を求めるなど政策を一致させて推薦が決まった。 

 安倍晋三首相は5日、記者団の囲み取材で「(渡具知氏が)公約したことを国としても責任を持って応援していきたい」と話したと報じられています。「米海兵隊の県外、国外移転」の公約にどのような対応を示すのか、本土マスメディアの政治報道の重要な課題です。

 ※産経ニュース「安倍晋三首相『沖縄の発展、全力で支援』 政府、渡具知武豊氏の当選で『再編交付金』支給再開を検討」=2018年2月5日 

http://www.sankei.com/politics/news/180205/plt1802050047-n1.html

 安倍晋三首相は5日、首相官邸で記者団に対し、辺野古移設について「市民のご理解をいただきながら、最高裁の判決に従って進めていきたい。県民の気持ちに寄り添いながら、さらなる沖縄の発展に全力で支援していく」述べた。
 また、「現職市長を破るのは難しいと思っていたが良かった。(渡具知氏が)公約したことを国としても責任を持って応援していきたい」と強調した。 

 

 以下は備忘を兼ねて。
 地元の民意はなお辺野古移設に反対が多数を占める、ということについては、例えば、名護市民を対象にしたマスメディア各社の事前の世論調査の結果があります。普天間飛行場の辺野古移設に対しては、選択肢に強弱をつけた沖縄タイムス、琉球新報、共同通信の合同調査では「反対」が53・0%。「どちらかといえば反対」13・0%を合わせると66・0%が反対です。ほかの2件の調査でも同じように6割以上が反対しています。

◇米軍普天間飛行場の辺野古移設への賛否
・沖縄タイムス、琉球新報、共同通信の3社合同調査(1月28、29日実施)
 「賛成」10・5% 「どちらかといえば賛成」17・8% 「どちらかといえば反対」 13・0% 「反対」53・0%
・朝日新聞、琉球朝日放送の合同調査(1月28、29日実施)
 「賛成」20% 「反対」63%
・読売新聞(1月28、29日実施)
 「(日米両政府の)合意通りにすべきだ」17% 「県外に移すべきだ」69%

 沖縄タイムスなど3社合同調査では、「名護市長選の結果に関係なく、普天間飛行場の辺野古移設を進める考えを示す政府の姿勢を支持するか」の問いにも、「支持しない」56・5%、「どちらかといえば支持しない」10・7%が計67・2%で、「支持する」「どちらかといえば支持する」は計27・9%との結果になっています。安倍政権の強硬姿勢は名護市民には受け入れられていません。
 これらの傾向は記事前投票や投票日当日の出口調査の結果でも変わりがありませんでした。4054人から回答を得たとする琉球新報の調査結果(5日付紙面掲載)によると、普天間飛行場の辺野古移設については「反対」46・5%、「どちらかといえば反対」15・2%に対し「賛成」13・4%、「どちらかといえば賛成」14・5%でした。賛成が計61・7%に対し反対は計27・9%です。投票先は、「賛成」「どちらかといえば賛成」の人の91・2%は渡具知氏、8・7%が稲嶺氏でしたが、「反対」「どちらかといえば反対」の人は稲嶺氏76・0%なのに対し、23・9%もの人が渡具知氏に流れています。「渡具知氏への投票」=「辺野古移設への賛意」とは限らないことが十分にうかがえます。さらに普天間飛行場の移設先については57・2%の人が「県外、国外にすべき」と回答し、「そうは思わない」の27・7%を大きく上回りました。

f:id:news-worker:20180210172959j:plain

【写真】東京発行の各紙5日付夕刊

 選挙結果について、東京発行の新聞各紙は5日付朝刊が休刊日で発行なしのため、5日付夕刊で報じました。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、東京新聞の4紙は1面トップ、経済専門紙の日経新聞も準トップと大きな扱いでした。東京では夕刊を発行していない産経新聞は6日付朝刊で1面の下段でした。5日は佐賀県神埼市で陸上自衛隊のAH64攻撃ヘリが住宅に墜落し、乗員1人が死亡、1人が不明(翌日遺体で発見)になる事故があり、6日付朝刊では産経のほか日経以外の他紙も1面トップでした。朝日、毎日、読売は名護市長選の続報も1面に入りました。

f:id:news-worker:20180210173153j:plain

 【写真】東京発行の各紙6日付朝刊

 【追記】2018年2月10日19時50分
 名護市長選の結果についての沖縄タイムス、琉球新報の社説の一部を、備忘を兼ねて引用します。
 渡具知氏が公明党県本部と交わした政策協定には、日米安保条約に基づく地位協定の改定も含まれていました。米海兵隊の県外、国外移転とともに、渡具知氏の公約であり、安倍首相が「国としても責任を持って応援していきたい」と言明した対象です。

※沖縄タイムス:社説[名護市長に渡具知氏]「基地疲れ」経済を重視=2018年2月5日
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204905 

 辺野古の海を切りさくように次々と護岸が造られる中で迎えた選挙である。
 「もう止められない」との諦めムードをつくり、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を争点から外し、経済振興を前面に押し出すのが渡具知陣営の一貫した戦術だった。
 渡具知氏は選挙期間中、全くといっていいほど辺野古を語っていない。現職の失政が市の閉塞感を招いたとして流れを変えようと訴え、暮らしの向上を求める市民の期待票を掘り起こした。
 勝利の最大の理由は、一にも二にも自民、公明、維新3党が協力体制を築き上げ、徹底した組織選挙を展開したことにある。 
 (中略)
 前回選挙との大きな違いは、自主投票だった公明が、渡具知氏推薦に踏み切ったことだ。渡具知氏が辺野古移設について「国と県の裁判を注視したい」と賛否を明らかにしなかったのは、公明との関係を意識したからだろう。
 両者が交わした政策協定書には「日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める」ことがはっきりと書かれている。
 安倍政権が強調する「辺野古唯一論」と、選挙公約である「県外・国外移転」は相反するものだ。
 本紙などの出口調査では、辺野古移設反対が64・6%に上った。選挙によって辺野古移設反対の民意が否定されたとはいえない。
 渡具知氏が「県外・国外移転」を公約に掲げて当選した事実は重い。市長就任後もぶれることなく「県外・国外移転」を追求し、地位協定見直しに向け積極的に取り組んでもらいたい。 

※沖縄タイムス:社説[名護市長選の後で]SACO合意 検証急げ=2018年2月6日
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/205751 

 実際のところ、名護市民は辺野古の新基地建設をどう見ていたのだろうか。注目したいのは、選挙で示された「民意」と「手法」である。
 本紙など3社が共同で実施した出口調査によると、辺野古移設に「反対」「どちらかと言えば反対」は合わせて64・6%に上った。
 当選した渡具知武豊氏は「海兵隊の県外・国外移転」を公約に掲げ、選挙期間中、辺野古移設の是非には触れなかった。
 辺野古移設に対する反対の声は依然として根強いとみるべきだろう。その反面、「基地問題ばかり主張する『オール沖縄』の手法は通用しなくなった」(自民党県連幹部)ことも否定できない。
 辺野古問題を訴える手法が硬直化し、言葉が若者層に届かなかったのは選挙結果を見ても明らかである。
 基地問題を巡る世代間の断絶は深い。
 選挙で浮かび上がったこうした複雑な現実をしっかりと受け止めることなしに、今後の展望は開けない。
 なぜ新基地建設に反対するのか。今、早急に求められているのは何か。県は原点に立ち返って早急に考えを整理し直してもらいたい。
 重大な分岐点にあって歴史を変えるのは「決断」である。 

※琉球新報:<社説>名護市長に渡具知氏 新基地容認は早計だ=2018年2月5日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-659247.html 

 渡具知氏の当選によって市民が新基地建設を容認したと受け止めるのは早計である。渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけだからだ。
 安倍晋三首相は2日の衆院予算委員会で、沖縄の基地負担軽減について「移設先となる本土の理解が得られない」との認識を示した。普天間飛行場の県内移設は、軍事上ではなく政治的な理由であることを首相が初めて認めたことになる。政治家として無責任で沖縄に対する差別発言だ。渡具知氏の当選をもって、他府県に移設できない新基地を名護市に押し付けることは許されない。
 当選した渡具知氏は辺野古移設について「国と県が係争中なので注視していく」と語っている。新基地容認とするのは牽強(けんきょう)付会である。
 一例を挙げれば、名護市長選を前に、琉球新報社などが実施した電話世論調査から市民の態度は明白だ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画について、53・0%が「反対」、13・0%が「どちらかといえば反対」を選択し、66%を占めた。一方で「賛成」は10・5%、「どちらかといえば賛成」が17・8%と3割に満たない。
 渡具知氏の当選は、新基地建設の是非を争点化することを避けて経済を前面に出し、前回自主投票だった公明の推薦を得た選挙戦術が奏功したと言える。 

 

 【追記】2018年2月11日0時10分

 2月5日付の東京発行各紙夕刊、および6日付朝刊が名護市長選の結果をどのように報じたか、主な記事の見出しを書きとめた記事をアップしました。

http://news-worker.hatenablog.com/entry/2018/02/11/000313