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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「命の危険」猛暑災害と東京五輪

 厳しい暑さが続いています。7月23日には埼玉県熊谷市で観測史上最高を更新する41・1度を記録し、東京都内でも青梅市で40・8度と、初めて40度超を観測しました。連日死者も出ており、気象庁は23日午後に異例の記者会見を開き「命の危険がある暑さ。災害と認識している」として、熱中症予防を呼び掛けたと報じられています。
 東京発行新聞各紙の24日付朝刊は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙は1面トップがこの猛暑でそろいました。日経新聞の1面トップは地球温暖化のニュースですが、経済紙らしい猛暑の切り口のようにも感じます。各紙の1面トップの見出しを書きとめておきます。

・朝日新聞「『災害級』41・1℃/熊谷 国内最高を更新/都内初の40℃超 猛暑日241地点」
・毎日新聞「熱中死の疑い94人/6日間 30都府県/熊谷41・1度 史上最高」
・読売新聞「熊谷41・1度 史上最高/気象庁『災害と認識』/熱中症死13人/五輪まで2年 対策課題」
・日経新聞「2040年1・5度上昇 進む温暖化/IPCC予測 猛暑や豪雨多発/温暖化ガス『実質ゼロ』訴え」
・産経新聞「熊谷 国内最高41・1度/都内も初の40度超/熱中症13人死亡」
・東京新聞「熊谷41・1度 国内最高/酷暑 災害レベル/青梅40・8度」

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 この暑さの中で、どうしても「大丈夫だろうか」と考えてしまうのは2020年の東京五輪です。折しも、7月24日で開幕までちょうど2年とあって、各紙とも24日付朝刊で特集などの関連記事を掲載。その中で目を引いたのは、この猛暑災害に絡めた視点の東京新聞と読売新聞の記事です。
 東京新聞は1面に「東京五輪まで2年 暑さ対策全力/行列に大型冷風機・道路 特殊舗装・木陰冷やす」の見出し、読売新聞は社会面トップに「炎天五輪 どう耐暑/特殊舗装 路面温下げる/観客向け『日陰マップ』」の見出しで、それぞれ暑さ対策のあれこれを紹介しています。主なところでは、マラソンコースなどに温度上昇を抑える特殊な舗装を施すことや、競技場に入る際のセキュリティ・チェックで行列を長くしないようにすることなど。ボランティアにも活動時間に上限を設けるようです。昔ながらの打ち水も推奨されているようです。
 関係者も危機感を持って暑さ対策はいろいろ検討しているのでしょうが、高温多湿で1年でももっとも過ごしにくいこの時期に、なぜわざわざ五輪を設定したのか、との「そもそも論」の疑問を感じている人も少なくないのではないでしょうか。その意味で興味深く読んだのは共同通信配信の長めのサイド記事です。全国の地方紙などに掲載されていると思います。一部を引用します。 

 17日、報道陣に公開された新設の五輪会場の建設現場。日陰のない臨海部の会場には容赦なく日差しが照りつけ、カヌー・スラローム会場では出来上がりつつあるコンクリートの人工コースに、かげろうが揺らめいた。参加者は噴き出す汗を拭い続け、同行した組織委の職員もぐったりした様子で、思わず「これでは死者が出てしまう」と危機感が口を突いて出た。
 1964年の東京五輪は10月10日、さわやかな秋晴れの中で開会式を迎えた。しかし近年の夏季五輪は夏場の開催が定着。米プロフットボールNFLや、米プロバスケットボールNBAなどのシーズンとの競合を嫌う米放送局と国際オリンピック委員会(IOC)の意向があるとされる。20年大会も当初から「7月15日から8月31日の間」と限定されており、日本側に選択の余地はなかった。
 (中略)
 関係者によると、IOCの間では「(04年)アテネ五輪も暑かったから大丈夫だろう」と楽観視する雰囲気があった。ただアテネの夏と違い、湿度の高い日本は熱中症のリスクが格段に高い。この7月、猛暑の中で会場を視察したIOC委員からも「こんなに暑いのか。こんなところでできるのか」と懸念の声も上がり始めた。
 選手や観客の命に関わるレベルの暑さとなった場合、組織委が設ける運営の司令塔「メイン・オペレーションセンター」を中心にIOCや国際競技団体と協議しながら競技実施の可否を判断することになる。ある組織委幹部は、東京が40度超を観測した23日午後「このままいくと、大変なことになるな」と漏らした。 

 もう一つ、日刊スポーツのインタビュー記事の一部を書きとめておきます。東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会会長の森喜朗元首相です。
 ※「森喜朗会長が語る、この猛暑が東京五輪成功のカギに」=2018年7月24日
  https://www.nikkansports.com/sports/news/201807240000148.html 

 丸2年後、東京オリンピック(五輪)が開幕しているその日に東京で40度を超え、森会長は自問自答した。「この暑さが来たら本当に、まっとうにやっていけるのか」。
 全国的に熱中症で救急搬送されるケースが多発し、今夏の酷暑は社会問題となっている。しかし、開催時期は国際オリンピック委員会(IOC)が提示し、東京側も織り込み済みで招致した経緯もあり、日程はずらせない。
 現実から目をそらせない状況で「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。ある意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試すには、こんな機会はない」と語った。
 暑さ対策としてはこれまで、道路の遮熱性舗装、街頭ミスト、会場の大型冷却器、かち割り氷の配布などが検討されている。昔ながらの「打ち水」なども効果があるとし、東京五輪関連イベントではよく紹介されているが、実際に役に立つか、今夏、実証実験に最大限、利用すべきとの考えだ。 

 わたしが危惧するのは「引き返す」という発想が森氏に感じられないことです。「危ない」と思ったら取りやめる、延期する、その道を探るという柔軟さを持たないまま、「開催ありき」で2020年へ突っ走るしか選択肢はないのでしょうか。それが唯一の正解でしょうか。
 仮にこの夏を乗り切ったとしても、2年後にはさらに暑さが増しているかもしれません。現に日本の最高気温観測の更新は間が詰まってきています。2年後の本番では、日本の猛暑を知らない観客が海外から押し寄せてきます。そもそも気象庁が「災害」と形容している暑さです。災害の中での開催を覚悟せざるを得ないとすれば、あまりにも悲壮であり、そのことに、どこか、何かおかしいと感じる人もいるはずです。前進あるのみ、ではない別の選択肢を考え、提示することも、ジャーナリズムにはあっていいのではないかと思います。

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