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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

衆院議長の異例の所感

 少し時間がたちましたが、記録の意味でも書きとめておこうと思います。
 通常国会閉会後の7月31日、大島理森衆院議長が国会内で記者会見し、安倍晋三政権に反省と改善と促す所感を明らかにしました。三権の長の一人である衆院議長のこのような会見は異例とのことです。

 ※47news=共同通信「衆院議長、安倍政権に異例の所感 『民主主義根幹揺るがす』」2018年7月31日
  https://this.kiji.is/396948562141660257?c=39546741839462401 

 大島理森衆院議長は31日、国会内で記者会見し、相次ぐ政権不祥事が問題となった通常国会を振り返り、安倍政権に反省と改善を促す異例の所感を公表した。森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんや自衛隊日報隠蔽などを挙げ「民主主義の根幹を揺るがす問題だ。立法府の判断を誤らせる恐れがある」と指摘。菅義偉官房長官に所感を渡し、再発防止のための制度構築を求めたと明らかにした。 

 日本社会の民主主義が危機的な状況にあることの証左の一つのように思えます。しかし、マスメディアの取り上げ方がその危機の大きさに見合っていたか。マスメディアがその危機をどう認識しているのかも問われているようです。ジャーナリストの江川紹子さんがツイッターにこんな投稿をしているのを見て、そう思いました。

twitter.com

 この大島議長の所感に対しては、毎日新聞と中日新聞・東京新聞の社説が目に止まりました。一部を引用して書きとめておきます。
・毎日新聞「大島衆院議長が異例の所感 常識をあえて説く深刻さ」=8月2日付
 https://mainichi.jp/articles/20180802/ddm/005/070/057000c 

 大島理森衆院議長が先の通常国会を振り返る異例の所感を公表した。
 政府による公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)、誤ったデータの提供などが相次いだことについて「民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題」と指摘した。
 そのうえで議長は行政府と立法府の双方に自省を求めている。
 議院内閣制のもとでは、国民が民主的な手続きによって国会議員を選び、その多数派から首相を選出することにより、内閣の持つ行政権に正当性が付与される。主権を有する国民からの委任の連鎖だ。
 だからこそ国会は立法権のみならず、国民に代わって行政を監視する権限を持つ。内閣は自らの生みの親である国会に対し、行政権の行使について連帯責任を負うのである。
 所感は特別なことを言っているわけではない。国政に参画する者であれば当然わきまえておくべき常識だ。それをあえて唱えなければならないところに問題の深刻さがある。
 国民を代表する立法府を行政府が欺いていたにもかかわらず、内閣はその責任を一部の官僚に押しつけ、だれも政治責任を取らない。
 立法府の側では与党が一貫して真相究明や責任追及に消極的だった。与党である前に議会人であるという自覚が極めて乏しい。その結果、立法府と行政府をつなぐ責任の糸がぷっつりと切れてしまった。 

・中日新聞・東京新聞「衆院議長『苦言』 国民からの声と聞け」=8月2日付
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018080202000169.html

  立法府は危機にある。三権の長の一人がようやく、そう認識するに至った。大島理森衆院議長が七月二十二日に閉会した「今国会を振り返っての所感」を公表した。注目すべきはその内容である。
 財務省の森友問題を巡る決裁文書の改ざん▽厚生労働省による裁量労働制に関する不適切なデータの提示▽防衛省の陸上自衛隊の海外派遣部隊の日報に関するずさんな文書管理-を挙げ、これらは法律制定や行政監視における立法府の判断を誤らせる恐れがあり、議院内閣制の基本的な前提を揺るがす、と厳しく指摘した。
 「国権の最高機関」であり「国の唯一の立法機関」の国会が、法律を誤りなく制定し、行政監視の責務を果たすには、行政府たる内閣が国会に対し、行政情報を正しく伝えることが大前提だ。
 しかし、国有地が格安で売却された森友学園の問題を巡り、財務省は国会に改ざんした文書を提出し、当時の佐川宣寿理財局長は国会で虚偽答弁を繰り返した。その後の証人喚問では偽証も指摘される。行政府の側がこんなことを繰り返せば、国会がまともに国政調査の機能を果たせるわけがない。
 法案審議も同様だ。新しい法律をつくるには、その必要性を示す「立法事実」が必要だが、それが不適切なデータに基づくものならば、国民に不利益な、誤った法律をつくることになりかねない。
 大島議長の指摘はまっとうで、国民の多くが同じ問題意識を持っていることだろう。所感は、菅義偉官房長官に渡されたという。安倍晋三首相はじめ行政府の側は、議長の指摘を国民からの声と重く受け止め、真剣に対応すべきだ。

※追記 2018年8月5日20時55分
 岩手日報の5日付の社説で取り上げていました。
・岩手日報「衆院議長の所感 これはただ事ではない」(8月5日付)
 https://www.iwate-np.co.jp/article/2018/8/5/19949 

 所感の表明は、閉幕から約10日後の先月31日だった。政府が公文書管理の在り方を見直して再発防止策をまとめ、財務省が新人事を発表したタイミング。一連の幕引きムードに対し、依然として政権に厳しい世論を大島氏が強く意識したのは間違いない。
 これを「ガス抜き」にとどめるか、深刻に捉えるかは、ひとえに政府、与党次第。9月改選が迫る自民党総裁選に向けた動きが本格化する折、直接的に首相を選ぶ政権党の責任として大島氏の課題認識を共有し、政策論議に反映させるべきだろう。
 (中略)
 大島氏は衆院青森2区選出で、当選12回。自民党幹事長や農水相などを歴任した。昨年10月の衆院選後は、安倍首相(党総裁)の判断で「1期で交代」の慣例によらず、議長に再選された経緯がある。その重鎮の政権への苦言。これはただ事ではないと思うのが、当然の反応だ。