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「命を削り公約守り抜く」(沖縄タイムス)、「命懸けで職務を全うした」(琉球新報)~翁長雄志氏死去の報道の記録

 以前の記事の続きになります。
 8月8日に死去した沖縄県知事、翁長雄志氏に対して、沖縄タイムス、琉球新報はともに社説で弔意を表明しています。一部を引用して紹介します。

※沖縄タイムス「[翁長雄志知事急逝]命を削り公約守り抜く」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/296082 

 糸満市摩文仁で開かれた慰霊の日の沖縄全戦没者追悼式で、知事は直前までかぶっていた帽子を脱ぎ、安倍晋三首相を前にして、声を振り絞って平和宣言を読み上げた。
 「新基地を造らせないという私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」
 翁長知事は在任中の4年間、安倍政権にいじめ抜かれたが、この姿勢が揺らぐことはなかった。安易な妥協を拒否し、理不尽な基地政策にあらがい続ける姿勢は、国際的にも大きな反響をよんだ。
 知事は文字通り命を削るように、辺野古反対を貫き、沖縄の自治と民主主義を守るために政府と対峙し続けたのである。
 その功績は末永く後世まで語り継がれるに違いない。心から哀悼の意を表したい。 

※琉球新報「翁長知事が死去 命懸けで職務を全うした」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-778581.html 

 就任直後から基地建設を強行する政府と全面的に対立してきた。さまざまな心労、疲労が積み重なったのだろう。
 前知事による辺野古埋め立て承認の撤回を、7月27日に表明したばかりだった。がんの苦痛を押して記者会見に臨んだと思われる。文字通り、命懸けで政治家の職務を全うした。
 もとより、沖縄県の知事は他県とは比較にならないほど厳しい重圧にさらされる。国土の0・6%にすぎない県土に全国の米軍専用施設面積の70%が集中し、凶悪事件や米軍機の墜落といった重大事故が繰り返されてきたからだ。
 歴代の沖縄県知事はことごとく、過重な基地負担という深刻な課題に向き合い、苦悩してきた。その重みは健康をむしばむほど過酷だ。 

 安倍晋三政権との対決は、安倍政権の存続を民主主義の手続きにのっとって容認し続けている日本社会の民意とどう向き合うか、という問題を伴います。翁長氏は時に直接的な言葉で、沖縄県外、日本本土に住む日本国民に対して、沖縄への過剰な基地の集中の解消へ理解や支援を訴えていました。闘病中の身を押して出席したことし6月23日の慰霊の日の式典では、平和宣言の中で「沖縄の米軍基地問題は、日本全体の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべきものであります。国民の皆様には、沖縄の基地の現状や日米安全保障体制のあり方について、真摯に考えていただきたいと願っています」と述べていました。翁長氏が沖縄の総意として求め続けたのは、沖縄の地域社会の将来に対する自己決定権でした。
 民意は明らかなのに、政府はまともに取り合おうとせず、実力で国策を強行する、司法の場でも歩み寄ろうとはしない―。そのようなことは沖縄以外に日本では起きていません。そのことの重大さが、いったいどれだけ沖縄県外で認識されていたか。翁長氏の命を掛けた訴えは、日本本土のどれだけの人の心に届いていたか。本土の日本人には、安倍政権を存続たらしめているという意味で、沖縄で起きていることに対して否応なく当事者性があることを、どれだけの本土の日本人が自覚しているか。翁長氏の訃報に接して、そうしたことをあらためて考えています。沖縄で何が起きているかを県外に伝えるべき本土マスメディアの役割と責任は、小さくありません。

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 翁長雄志氏の訃報を、東京発行の新聞6社が8月9日付朝刊でどのように扱ったか、以下に書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面トップ「翁長・沖縄知事が急逝/67歳 辺野古移設反対 主導/知事選 9月にも」
2面・時時刻刻「辺野古阻止 候補不在に/翁長知事急逝 『承認撤回』表明の矢先」「『代わりいない』結集に課題」「官邸幹部『流れ読めない』」
社会面トップ「『オール沖縄』柱失う/翁長知事死去 悲しみ・落胆広がる」表・翁長雄志氏の主な発言
社会面・視点「本土へ失望 突きつけた」上遠野郷・前那覇総局長
社会面・識者たちの見方「孤独な闘いだった」「現代日本外交史」などの著書がある宮城大蔵・上智大教授(国際関係論)/「県民議論の場作った」「首里城への坂道」の著書があるノンフィクション作家の与那原恵さん/「法廷闘争 手法に限界」外務省から沖縄県に出向経験がある山田文比古・東京外国語大学教授

▼毎日新聞
1面トップ「翁長沖縄知事が死去/辺野古移設 反対貫く/膵がん 闘病続け執務 67歳/知事選は来月」
3面・クローズアップ2018「移設反対派 絶句/自民 選挙戦を警戒/翁長知事 死去」「県 撤回手続き粛々と」
5面「『沖縄守ろうと命削り』/翁長氏死去 与野党悼む声」
社会面・評伝「沖縄の不条理訴え続け/翁長知事死去 希代の闘う政治家」/「稲嶺氏『全力尽くした』」

▼読売新聞
1面トップ「翁長・沖縄知事 死去/67歳 知事選前倒しへ 膵臓がん/辺野古移設に反対」
3面・スキャナー「知事選戦略 練り直し/翁長派『代わりいない』/自民も想定外」「『保守』から『辺野古阻止』翁長氏」
4面「翁長氏死去 与野党悼む声」

▼日経新聞
1面「沖縄県知事 翁長氏死去/67歳、辺野古移設反対」
4面「辺野古移設に影響も/翁長氏死去 沖縄知事選前倒しへ」
社会面「移転の賛否超え悼む声/沖縄県民 翁長氏突然の訃報 驚き」

▼産経新聞
1面トップ「翁長氏死去 知事選前倒し/9月投開票 辺野古撤回に影響/沖縄知事 がん闘病 67歳」
2面「自民、弔い合戦警戒/オール沖縄 再び結束も」/「埋め立て承認撤回へ/きょう予定通り聴聞」
5面「二階氏『通じるもの感じていた』/翁長氏死去 悼む声」

▼東京新聞
1面トップ「翁長沖縄知事 死去/67歳 辺野古阻止 政権と対立/埋め立て撤回聴聞前日」
1面「来月知事選へ 再び争点」
2面「焦る新基地反対派/政権 弔い合戦警戒/翁長氏死去 来月、沖縄知事選へ」「埋め立て承認撤回 県の判断焦点」
2面「与野党幹部から悼む声」/「副知事の会見要旨」
3面・評伝「『オール沖縄』声上げ続け/怒りの翁長氏 県民率い」
社会面トップ「『沖縄のために命削った』/11日の県民大会 出席かなわず/新基地反対派『遺志継ぐ』/翁長知事死去」/「側近ら対面『無念だろう』」
社会面「『沖縄の現状は国難』/上京し本紙フォーラムで訴え」
社会面「沖縄差別に異議」翁長知事と交流のあった元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏/「保守と革新束ねた」沖縄の基地問題を扱ったドキュメンタリー映画「標的の村」の監督三上智恵さん

 

【追記】 2018年8月10日8時50分
 朝日、毎日、読売の3紙が10日付でそろって社説を掲載しました。東京新聞(中日新聞)も掲載しています。
・朝日新聞「翁長知事死去 『沖縄とは』問い続けて」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13629884.html?ref=editorial_backnumber
・毎日新聞「翁長・沖縄知事が死去 基地の矛盾に挑んだ保守」
 https://mainichi.jp/articles/20180810/ddm/005/070/024000c
・読売新聞「翁長知事死去 沖縄の基地負担軽減を着実に」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180809-OYT1T50130.html
・東京新聞(中日新聞)「翁長知事死去 沖縄の訴えに思いを」
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018081002000150.html