韓国国会議長「天皇の謝罪」発言と報道 ※追記あり 「追記2」更新

 経済・金融情報の通信社として知られるブルームバーグが2月8日、韓国の文喜相・国会議長にインタビューした「従軍慰安婦問題は天皇の謝罪の一言で解決される-韓国国会議長」との見出しの記事をサイトにアップしました。日本のマスメディアは9日午後以降に「ブルームバーグの報道」と引用して報道。東京発行の新聞各紙は10日付の朝刊で一斉に報じています。ブルームバーグの記事も日本の新聞各紙の記事も元従軍慰安婦への「天皇の謝罪」に焦点が当たっています。ニュースバリューがそこにあることに間違いはないのですが、一方で文議長は、国家間の問題としての位置付けとは別に被害者個人の問題があることを強調しています。被害者への謝罪は天皇でなければならないわけではなく、首相でもいい、とも言っています。わたしは発言全体から、個々の当事者を慰撫し、被害感情を癒すことが必要で、そのために日本は何をなすべきか、何ができるのかを文議長は問い掛けている、本意はそこにあると感じました。
 なお、文議長は2004~08年に韓日議員連盟の会長を務めたとのこと。毎日新聞は「日韓関係のパイプ役」と、読売新聞や日経新聞は「知日派」と紹介しています。
 備忘を兼ねて、以下に報道の記録と、思うところを書きとめておきます。

 まずブルームバーグの日本語版の記事の一部を引用します。
※「従軍慰安婦問題は天皇の謝罪の一言で解決される-韓国国会議長」

日本語版 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-02-08/PMLGIP6KLVR801?srnd=cojp-v2

英語版 https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-02-08/south-korea-lawmaker-seeks-imperial-apology-for-japan-sex-slaves

 文在寅大統領に近い文議長(73)は7日のブルームバーグとのインタビューで、「一言でいいのだ。日本を代表する首相かあるいは、私としては間もなく退位される天皇が望ましいと思う。その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。そのような方が一度おばあさんの手を握り、本当に申し訳なかったと一言いえば、すっかり解消されるだろう」と語った。
 (中略)
 日本政府は慰安婦問題の最終的な解決のために2015年に韓国政府と交わした合意で、「当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から日本政府は責任を痛感している」と表明している。
 文議長は「それは法的な謝罪だ。国家間で謝罪したりされたりすることはあるが、問題は被害者がいるということだ」と語った。

 英語版は日本時間の8日17時45分のアップで、18時33分にアップデートの記録があります。日本語版では同日17時50分のアップ、18時38分にアップデートとなっています。そのまま引用して報じるだけなら、日本の新聞や放送も8日中ないしは9日付朝刊での報道が可能だったはずですが、実際には9日に韓国メディアが伝えた後を丸1日遅れて追う展開でした。
 以下に東京発行の新聞各紙の扱いと見出しのほか、自社サイトへのアップの時刻と見出しも分かる範囲で書きとめておきます。
▼朝日新聞
・10日付朝刊6面(国際面)見出し3段
「『慰安婦問題、天皇の謝罪で解決』/米報道 韓国・国会議長が発言」※クレジットは末尾「(ソウル=武田肇)」
・サイト:9日19時35分
「韓国議長『天皇の直接謝罪で慰安婦問題は解決できる』」

▼毎日新聞
・10日付朝刊7面(国際面)見出し1段
「『天皇の謝罪で歴史問題解決』/慰安婦巡り韓国議長」※クレジットは「【ソウル堀山明子】」
・サイト:10日2時51分
「韓国議長『天皇の謝罪で歴史問題解決』」

▼読売新聞
・10日付朝刊2面(総合面)見出し2段、顔写真
「慰安婦問題 韓国議長が見解/天皇陛下の謝罪『望ましい』」※クレジットは「【ソウル=水野祥】」
・サイト:10日午前
「天皇陛下の謝罪で『すっきり解決』…韓国議長」

▼日経新聞
・10日付朝刊5面(総合面)見出し3段
「『天皇陛下が謝罪すべき』/韓国国会議長 慰安婦問題で」※クレジットなし
・サイト:9日18時06分
「元慰安婦『天皇陛下が謝罪を』韓国の国会議長」

▼産経新聞
・10日付3面(総合面)見出し4段、顔写真
「『天皇が元慰安婦に謝罪すれば解決』/韓国国会議長」※クレジットは「【ソウル=名村隆寛】」
・サイト:9日14時35分
「『天皇が手を握り謝罪すべき』/慰安婦問題で韓国国会議長/米メディアのインタビューで」

▼東京新聞
・10日付朝刊2面(総合面)見出し1段
「『天皇陛下謝罪なら慰安婦問題は解決』/韓国議長が主張」※クレジットは「【ソウル=共同】」

 注目すべきだと思うのは朝日新聞の記事で、天皇のことを文議長が「戦争犯罪の主犯の息子」と表現したとブルームバーグが伝えていることについて、以下のように独自に裏付け取材を試みています。

 国会報道官は朝日新聞に「他の同席者にも確認したが、文氏は(天皇に関し)『戦争犯罪』という表現は使っておらず、『戦争当時の天皇の息子』と述べたと思う」と記事が引用した文氏の発言を一部否定。「天皇が訪韓の意思を明らかにしており、元慰安婦の手を握って謝罪すれば、心のしこりが解けるのではないかというのが文氏の趣旨だった」と説明した。

 「戦争当時の天皇の息子」は客観事実の表現ですが、「戦争犯罪の主犯の息子」となると、昭和天皇が戦争責任を問われて訴追された事実はないことから、比喩的な主観混じりの表現ということになりそうです。このニュースの評価の際には、こうした問題があることにも留意が必要だと感じます。
 また、日本の各紙の報道の間には顕著な違いがあります。朝日、読売、産経は基本的にはブルームバーグが伝えた文議長の発言の引用、紹介にとどめているのに対し、毎日、日経、共同通信は日韓関係への影響に踏み込んで触れていることです。それぞれ、以下のように書いています。
 ・毎日:「インタビューでは、15年の慰安婦問題の日韓合意についても国家間の謝罪の限界に言及しており、日韓の和解を模索する中での発言とみられるが、天皇の政治利用を促しているとも受け取れる内容で批判を招きそうだ」
 ・日経:「今回の発言が日韓関係の悪化を加速させる可能性がある」
 ・共同:「韓国の中央日報(電子版)は『(元徴用工訴訟問題などで)韓日関係が最悪の中、日本の国民感情を刺激する発言で、波紋を広げることが予想される』と指摘。日韓の対立を一層激化させる可能性がある」

 ちなみにNHKはサイト上では「韓国の国会議長『総理大臣か天皇陛下が謝罪を』」との見出しを立てています(アップは9日18時04分)。新聞各紙と比べて、文議長の発言に正確な見出しであり、本意も伝わりやすいのではないかと感じました。

 わたし個人の受け止めですが、首相や天皇が謝罪するのがいいのかどうかはさておき、個々の当事者を慰撫し、被害感情を癒すことが必要との問い掛けには、日本国民の一人としてきちんと向き合いたいと思います。仮に両国の政府間では解決済みとの立場だとしても、歴史を教訓として、歴史の前に謙虚であろうとするなら、かつての加害側は抑制的に振る舞うべきだと考えています。これは従軍慰安婦問題ばかりでなく、徴用工の問題でも同じです。

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「天皇」だけでなく「総理大臣」も見出しに取ったNHKのサイト記事=10日夜にスクリーンショット採録

 

 【追記】2019年2月11日7時55分
 2015年12月に日韓両政府間で従軍慰安婦問題に対して「合意」がなされた当時の報道を書きとめた、このブログの過去記事を読み返してみました。日本政府に元慰安婦への賠償を命じた「関釜裁判」の原告側代理人の山本晴太弁護士、アジア女性基金で専務理事を務めた和田春樹・東大名誉教授というこの問題に精通している識者2人が、ともに被害者の気持ちの問題に言及しています。被害者への直接謝罪、被害者の気持ちの問題は、ずっと以前から従軍慰安婦問題の根本にあります。徴用工の問題でもそうでしょう。そこを踏まえないと、現在の日韓関係に対しても「韓国は非常識な国」というとらえ方でしか説明できなくなってしまうように感じます。

news-worker.hatenablog.com

 

【追記2】2019年2月13日10時
 朝日新聞は2月13日付朝刊に、文喜相議長の発言の文言について「『その方(天皇陛下)は戦争犯罪の主犯の息子ではないか』と語っていた」との記事を掲載しました。ブルームバーグ通信が公式サイトでインタビュー音声の一部を公開したとのことです(東京本社14版、4面「韓国議長の音声 米メディア公開/天皇陛下巡る発言」)。
 比喩的にはともかくとして、東京裁判などの客観事実とは異なるわけで、文議長の発言は立場を考えれば問題があります。より大きな問題としては、外交上の問題の解決を図るために天皇を持ち出すのだとすれば、天皇の政治利用の疑義が生じるという点もあります。
 一方で、文議長の真意は被害当事者の気持ちの問題が残っており、それが従軍慰安婦問題の最終解決を妨げている、という点にあって、日本のだれかが直接、謝罪することが必要と指摘していると、わたしは受け止めています。議長は、だれが謝罪するのかについて「日本を代表する首相」とも言っています。この被害者の気持ちの問題があるとの主張を理解しないと、いつまでも、どこまでも「韓国は無礼で非常識な国だ」との受け止めしかなく、つまるところは日本社会で韓国ヘイトの言辞が勢いを増すだけになることを危惧します。