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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

東京高検検事長の定年延長 地方紙も批判続く~社説・論説の記録

 東京高検検事長の定年延長問題に対しては、地方紙・ブロック紙の社説・論説でも批判や疑念が示されています。新型コロナウイルスへの対策を巡って、安倍晋三政権は国民の信頼を得ることが必要なのに、唐突だった小中高校の一斉休校要請が社会に混乱を招いている上に、この検事長の定年延長問題や「桜を見る会」で何一つ、安倍政権が説得力のある説明をできていません。地方紙・ブロック紙の社説・論説では、3月2日からの参議院予算委員会で真相を究明するよう求める論調も目に付きます。
 各紙のサイトでチェックできる範囲で、最近の社説・論説を書きとめておきます。サイト上で全文が読める(4日朝の時点)ものはリンクも張っておきます。

▼3月3日付
・北海道新聞「参院予算委 数々の問題 徹底審議を」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/398562?rct=c_editorial

 首相官邸に近いとされる東京高検の黒川弘務検事長の定年延長については、政府が検察庁法と国家公務員法の解釈を巡り、つじつまの合わない答弁を続けている。
 黒川氏を検察トップの検事総長に就かせる環境を整えるのが目的との疑念はなお拭えていない。
 桜を見る会を巡っては、開催前日の夕食会に関し、かつて会場となったホテルと首相の説明が食い違い、野党が追及している。
 公選法違反や政治資金規正法違反も指摘される問題だけに、参院で真相究明しなくてはならない。

・河北新報「火種残る国会/政権は疑念を晴らすべきだ」
 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20200303_01.html

 焦点は感染抑止対策だけではない。首相主催の「桜を見る会」問題では、前日に首相の地元支援者向けに開催した夕食会を巡り、首相と会場のホテル側の説明が食い違ったままだ。
 (中略)
 黒川弘務東京高検検事長の定年延長も引き続き追及されるべきだ。政府は検事総長以外の定年を63歳と定めた検察庁法にも、国家公務員法の延長規定を適用できると1月に解釈を変更したとしている。
 野党は後付けの法解釈変更だったとの疑いを指摘。黒川氏は政権に近いとされ、検事総長に据えるためつじつま合わせをしたとみてただす構えだ。国会で成立した法律の解釈をいとも簡単に変えることは、立法府を軽んじた振る舞いにほかならない。

・東奥日報「情報開示と丁寧な説明を/予算案 参院審議入り」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/320971

 国民に理解を求める以上、政権に対する信頼の確保は大前提だ。ところが、衆院段階の審議で浮かび上がったのは、長期政権のおごりだった。説明から逃げる、記録は残さず、資料も出さない、矛盾を突かれるとつじつま合わせの強弁でかわす。こんな政権の独善的な振る舞いが一段と進行。権力の乱用を防ぐという三権分立が瓦解(がかい)していく、と言われても仕方ない事態である。
 とりわけ、政権の独断専行がより鮮明になったのは、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題だ。検察庁法に規定され、約30年にわたり例外はないとしてきた検察官の定年の解釈を、いとも簡単に変えた。立法府で成立した法律の解釈を、時の政権の意のままに変更してしまえば、法の安定性は損なわれ、もはや「法治国家」と呼べない。

・福井新聞「予算案参院審議入り 政権の謙虚さが試される」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1040345

・山陰中央新報「予算案、参院審議入り/耳を傾ける謙虚さを」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1583202128261/index.html

▼3月2日付
・北日本新聞「定年延長の解釈変更/『苦しい釈明』いつまで」

・神戸新聞「予算案衆院通過/政権への信頼回復は遠い」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202003/0013159063.shtml

 これまでの国会論戦を通じ、首相主催の「桜を見る会」の私物化疑惑に加え、東京高検検事長の定年延長を巡る強引な法解釈の変更など新たな問題が次々に発覚した。
 桜を見る会前日の首相後援会主催の夕食会を巡っては、会場のホテルが野党に示した回答と首相の主張が食い違っていることが分かった。
 首相は「あくまで一般論で、個別案件は含まれない」などと反論したが、ホテルが発行した明細書や首相側への回答文書など「証拠」は示せず、疑惑はますます膨らんだ。
 現行法に規定がない検事長の定年延長の違法性を指摘されると、首相は唐突に法解釈を変更したと表明した。法相や人事院の局長は答弁修正に追われ、検討過程の文書は日付がないなど解釈変更そのものが「後付け」だった疑念が深まっている。
 政権の都合で法解釈を変えられるなら法治国家とはいえない。だが、首相は「何ら問題はない」との答弁を繰り返し、自ら招いた問題の重大性に向き合おうとしない。内閣支持率の急落は当然といえる。

・中国新聞「高検検事長の定年延長 『口頭決裁』あり得ない」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=618275&comment_sub_id=0&category_id=142

 黒川弘務東京高検検事長の定年延長を巡る問題で、法務省は法解釈変更の検討経緯を示した文書を、口頭で決裁した。正式な決裁文書はなく、森雅子法相は「口頭でも問題ない」と述べた。
 だが、誰がいつ、法解釈変更を認めたかを示す文書が存在しないことになる。政策決定過程をたどることや検証することができなくなる。
 文書では、特別法の検察庁法より国家公務員法の延長規定を優先させ、検察官の定年延長を可能とした新しい法解釈の妥当性を主張しているという。
 今回のような重要案件で、公文書の作成を省く口頭決裁はあり得ない。政府が公文書を軽んじていると言うほかない。

▼3月1日付
・岩手日報「検事長の定年延長 法治国家を危うくする」

・中日新聞・東京新聞「権力は『無罪』なのか 週のはじめに考える」/嘘の中で生きる羽目に/学者は「違法」と指摘/多数派は万能でない
 https://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2020030102000091.html

 「権力はアプリオリ(先天的)に無罪である」という言葉もハベルにあります。一九八四年執筆の「政治と良心」に出ています。権力は何をしても罪に問われない-旧東欧の悲劇的な状態を指すのと同時に権力の一般論でもあるでしょう。不条理劇の劇作家でもあったハベルは鋭く権力の核心を言い当てていました。
 「嘘の中で生きる羽目になる」とは、日本の政治状況とそっくりです。東京高検検事長の定年延長問題は典型例です。検察官の定年は検察庁法が適用されるのに、国家公務員法の勤務延長の規定を用いる無理筋です。
 人事院が八一年に「検察官には国家公務員法の定年規定は適用されない」と答弁していたことが判明すると首相は唐突に「解釈を変更することにした」と。人事院は「八一年解釈は続いている」と答弁していたため、「言い間違え」と苦し紛れの状態になりました。
 法相も解釈変更の証明に追われます。日付などがない文書を国会に提出したり、揚げ句の果てに「口頭決裁だった」とは。国民には政権が嘘を重ねているように映っています。
 それでも「解釈変更だ」路線で突っ切るつもりでしょう。首相が「権力は先天的に無罪である」ように振る舞っているためです。

・西日本新聞「予算案衆院通過 疑惑は『通過』させられぬ」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/588317/

 衆院予算委員会で取り上げられた問題のうち、とりわけ気掛かりなのは黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題だ。結論から言えば、法治国家として到底容認できない状況が明らかになってきた。首相は速やかにこの人事を撤回すべきだろう。
 検察官の定年は検事総長を除き63歳と検察庁法で定められている。検察官は国家公務員法の定年延長規定の適用外であることも過去の政府見解で明示されていた。にもかかわらず、政府は閣議で黒川氏の定年延長を決め、平然と「国家公務員法を適用した」と説明していた。
 野党からの追及に対し、首相は「今般、法解釈を変更した」と弁明するが、政府内で深い議論が行われた形跡はない。森雅子法相や人事院局長らの国会答弁は時系列などを巡って二転三転した。後付けで理屈をこじつけた疑いが濃厚だ。
 黒川氏は政権に近い人物とされる。政府が次期検事総長に据えるため恣意(しい)的に定年を延ばしたということであれば、言語道断だ。政府が法解釈を自らの都合で勝手に変更する。それも強大な権限を有する検察トップの人事に関わる解釈変更が、国会審議抜きでまかり通るのなら、三権分立の根幹を揺るがす。

・琉球新報「検察官の定年延長 違法と認め決定の撤回を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1082785.html

 決定的だったのは2月10日の衆院予算委員会で元検察官でもある山尾志桜里氏(立憲民主)が示した1981年の衆院内閣委員会の議事録だ。
 定年制が盛り込まれた国家公務員法改正案を議論した際、人事院幹部が「検察官と大学教員は既に定年が定められ、今回の定年制は適用されないことになっている」と答弁していたのである。「違法だ。議事録をちゃんと読んだのか」と追及された森雅子法相は「詳細を存じ上げていない」と答えざるを得なかった。
 この時点で政府の主張は完全に破綻したと言っていい。検察官には国家公務員法の定年制が適用されないのだから、勤務延長そのものが違法な措置ということになる。
 その中で13日の衆院本会議で、安倍晋三首相が法解釈を変更したことを明らかにした。立法の趣旨を無視し、解釈を勝手に変えるのは法治主義を破壊する暴挙である。

▼2月28日付
・徳島新聞「検事長定年延長 速やかに撤回すべきだ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/329178

 政府の説明はとても納得できるものではない。潔く撤回すべきだ。
 検察庁法に反して、黒川弘務東京高検検事長の定年を延長した閣議決定である。
 安倍晋三首相は、従来の政府の法解釈を変更したと国会で述べた。だが、その理由に説得力はなく、経緯も極めて不透明なことが国会審議で明らかになった。
 立憲民主党など野党4党は、森雅子法相の不信任決議案と、棚橋泰文衆院予算委員長の解任決議案を提出した。否決はされたが、両氏のこれまでの対応は非難に値しよう。政府、与党は襟を正さなければならない。

▼2月25日付
・沖縄タイムス「[検事長定年延長問題]解釈変更は後付け濃厚」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/538976 

 安倍政権は閣議決定を乱発する。これまでできないとされてきた検察官の定年延長をできるとする重大な変更だ。
 本来ならば、国会で審議してしかるべきであるはずだのに、閣議決定だけで事実上法律を変えることは国会を軽んじるものだ。
 なぜ法解釈を変更してまで定年延長をするのか。国会で説明がなされているとはとてもいえない。森法相は「東京高検管内で遂行している重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため」と説明したことがある。「重大かつ複雑、困難な事件」とは何か。何の説明にもなっていない。
 しかもなぜ黒川氏でなければならないのか。黒川氏に代わる人材はいないのか。はなはだ疑問である。
 法務・検察内部からも不満の声が上がるのは当然で、国民が納得できるはずもない。