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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

志村けんさんの訃報に抱く喪失感

 悲しい知らせがありました。ザ・ドリフターズのメンバーでタレントの志村けんさんの訃報が3月30日午前、報じられました。報道によると死去したのは3月29日午後11時10分、死因は新型コロナウイルスによる肺炎でした。ウイルスに感染していることは既に報じられていました。残念でなりません。謹んで哀悼の意を表します。
 訃報を知って、悲しみとともに直感的な予感として思ったのは、新型コロナウイルスを巡って、日本社会でいろいろ局面が変わるのでは、ということでした。それぐらいインパクトがあり、ショッキングな知らせだと思いました。
 1960(昭和35)年生まれのわたしにとっては、志村けんさんと言えば、まずドリフターズの一員として出演していたテレビ番組「8時だョ!全員集合」です。小学生だったわたしが毎週のように見ていた番組でした。リアルタイムの放送で見たのか、その後の名場面特集のような映像だったのか、記憶は定かではありませんが、荒井注さんの後任として、付き人から昇格した志村けんさんが、リーダーのいかりや長介さんから紹介されながら、神妙な顔付きでいたシーンを覚えています。その後も「バカ殿」や、加藤茶さんを相手に「あんた神さまかい?」ととぼけた掛け合いを展開する「神さまコント」が、わたしのお気に入りでした。こうやって書いていても、テレビをつければどこかのチャンネルで変わらず笑わせてくれているのではないかと感じるほどに、社会に溶け込んだキャラクターでした。
 SNS上では、多くの人が弔意を表明し、深い喪失感を吐露しています。報道によれば、3月17日に倦怠感を訴えたのが最初の兆候で、20日に肺炎の診断を受け入院。23日に新型コロナ検査で陽性が判明していました。それから1週間足らず。心の準備も何もないまま、訃報がもたらされました。あまりにも病状の悪化は速く、唐突感すらありました。
 この深い喪失感は、新型コロナウイルスで肉親を失った世界中の人たちに共通のことなのだということに、今は思い至っています。志村けんさんの死を通じて、今や多くの方が、その感情を共有しているようです。訃報に接した当初の予感、社会で新型コロナウイルスを巡る局面が変わるのでは、との予感は、このことだったように思います。今まで、どこか距離を感じていた新型コロナウイルスのことが、身近な問題、だれもが当事者になりうる問題としてとらえられ始めているのだと思います。

 志村けんさんの訃報は、東京発行の新聞各紙の30日夕刊では、朝日新聞、東京新聞が1面トップでした。毎日新聞、読売新聞も1面に掲載しました。おそらく、新型コロナウイルスの日本人の犠牲者としては、初めて実名で報じられたケースだと思います。世界でウイルスの感染者が70万人に上っている、その中での訃報でした。そうしたことも後世への記録にとどめておこうと思います。

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