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検事長の定年延長、日弁連も撤回求める会長声明

 東京高検検事長の定年延長に対し、日弁連(日本弁護士連合会)が4月6日、延長を決めた閣議決定の撤回を求める荒中会長名の声明を発表しました。検察官の定年を一律65歳とする検察庁法改正案に対しても、内閣または法務大臣が必要と認めれば、役職定年や定年を超えて特定の官職で勤務させることができるとする部分に反対しています。
 日弁連は、裁判官、検察官とともに「法曹三者」として日本の法秩序の一角を成す弁護士の職能団体です。その日弁連が会長名で反対を表明したことは、この東京高検検事長の定年延長を巡る問題が、日本の司法や民主主義の根幹にかかわることをあらためて示しています。
 折しも6日、安倍晋三首相が新型コロナウイルスの感染拡大への対策として、特措法に基づく緊急事態宣言を7日にも発すると表明しました。日弁連の会長声明は、このニュースの陰に隠れてしまう懸念があります。しかし、緊急事態宣言という強権を発動する安倍政権は、一方では都合の良い法解釈を国会や国民の目が届かないところで勝手に行い、国会で追及されても、後付けとしか考えようのない弁明を法務相らが延々と続けて恥じません。そのことは忘れてはならないと思います。今が危機的な状況であるのなら、なおさら、かじ取り役がその任にふさわしいのかを見極めることが必要だと思います。
 以下に、声明の全文を転記します。

◎検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

 

 政府は、本年1月31日の閣議において、2月7日付けで定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について、国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3第1項を根拠に、その勤務を6か月(8月7日まで)延長する決定を行った(以下「本件勤務延長」という。)。

 しかし、検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで、国公法第81条の3第1項は、検察官には適用されていない。

 これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。

 したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。

 さらに政府は、本年3月13日、検察庁法改正法案を含む国公法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出した。この改正案は、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上で、63歳の段階でいわゆる役職定年制が適用されるとするものである。そして、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、役職定年を超えて、あるいは定年さえも超えて当該官職で勤務させることができるようにしている(改正法案第9条第3項ないし第5項、第10条第2項、第22条第1項、第2項、第4項ないし第7項)。

 しかし、この改正案によれば、内閣及び法務大臣の裁量によって検察官の人事に介入をすることが可能となり、検察に対する国民の信頼を失い、さらには、準司法官として職務と責任の特殊性を有する検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険があまりにも大きく、憲法の基本原理である権力分立に反する。

 よって、当連合会は、違法な本件勤務延長の閣議決定の撤回を求めるとともに、国公法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するものである。

2020年(令和2年)4月6日

日本弁護士連合会
会長 荒   中