パチンコ店の店名公表と特措法の危うさ

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、特別措置法に基づき発出された緊急事態宣言の18日目に当たる4月24日、大阪府が営業自粛の要請に応じない府内のパチンコ店6店の店名を公表しました。吉村洋文知事は取材陣に対し「こちらのパチンコ店に府民は行かないようにして感染拡大防止に協力してほしい」(共同通信の配信記事より)と述べたと報じられています。6店のうち2点は25日からの休業を連絡してきたとのことですが、25日も営業を続けた店があり、開店時間には約300人が列をつくった店もあったとのことです。

※共同通信:47news「大阪府が初の店名公表 休業迫る パチンコ6店に 私権制限懸念」=2020年4月24日
 https://www.47news.jp/national/new_type_pneumonia/4750675.html

 大阪府が24日、新型コロナウイルスのまん延を防ぐためとして、特別措置法45条に基づきパチンコ店6店に休業を要請、全国で初めて店名公表に踏み切った。これまで24条が規定する一般的な協力呼び掛けにとどまっていたが、営業の自由など私権制限への懸念がある強い措置に移行した。東京都、茨城県なども休業要請に応じ梅場合はパチンコ店の店名を公表する意向を明らかにした。
 6店のうち1店の運営会社は、国の救済措置がないと窮状を訴え、営業を継続する方針。経済産業省は24日、中小企業の資金繰り支援の対象業種をパチンコ店などに拡大すると発表した。
 (中略)
 吉村洋文知事は「利用を控えてという呼びかけのための公表だ。こちらのパチンコ店に府民は行かないようにして感染拡大防止に協力してほしい」と府庁で記者団に語った。

※毎日新聞「店名公表パチンコ店、堺では300人行列 住民『ウイルス持ち込むかも、怖い』」=2020年4月25日
 https://mainichi.jp/articles/20200425/k00/00m/040/094000c

 同店では開店1時間前の午前9時過ぎには整理券を受け取るために約150人の客が並び、従業員が間隔を空けるよう呼び掛けた。駐車場には神戸や和歌山など府外ナンバーの車も見られ、開店時には列は約300人に達した。
 60代の男性は「毎日の習慣なので今日も来た。普段より並んでいる客が多いような気がする」と周りを見回した。

※日刊スポーツ「営業継続パチンコ店で行列『2倍以上かな』越境客も」=2020年4月25日
 https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202004250000213.html

 堺市内の大型パチンコ店には、午前10時の開店前から行列ができた。常連客の男性(65)は「いつも週末の2倍以上かな。常連客とは違う人が多い」と話した。
 大阪市内から来店した自営業の男性(42)は「家にいてもヒマやからな。地元の店は休業中だから、遠征してきた。コロナ? ハッ!? パチンコはオレの趣味や!」と語気を強めた。
 アルバイトの男性(25)はスロットを打つため、京都府内からの「越境スロット」。「地元で開いてる店を探すよりも、確実に開いている店に来た」。

 この営業パチンコ店の店名公表のニュースには、考えさせられることが多々あります。

▼厳格な運用なのか
 現に営業中の店に対して、府知事が「府民は行かないで」とまで呼び掛けるのは、私権制限の強権を公権力が発動したととらえていい事態だと思います。平時なら営業妨害であり、緊急事態でなければ到底、許されることではありません。しかし特措法に規定があるとしても、手続きを適切に踏んでいるかどうか、という論点があります。このブログの以前の記事でも書きましたが、特措法の運用が厳格に行われているかどうかの観点です。
 強権発動の目的は、新型コロナウイルスの感染拡大防止であり、そのための人の密集状態の解消のはずです。店名公表の「見せしめ」によって休業を決めた店もあった一方で、営業を継続した店ではふだん以上の密集状態が生まれたのだとしたら、私権制限の事の重大さに見合うだけの効果が得られたと評価できるでしょうか。
 特措法45条に基づく強い要請や指示、施設名の公表を巡っては、自治体側の強硬姿勢が先行し、政府が急きょガイドラインを作成するなど、ドタバタぶりが目立つ印象があります。東京都や茨城県も大阪府に続く意向のようですが、全体として熟慮の末に最後の一線(店名公表)を越えることを決めた、というよりも、規定があるのだから使ってみるとの「行使ありき」の色彩が強いように感じます。「私権の制限」という事の重大さに比して、発動までの手続きに、それに見合った慎重さや検討の積み重ねがあったと言い得るのか疑問です。もっと言えば、目的に照らして逆の効果を招いているとすれば、それは失策であり、法の趣旨にかなった運用とは言えないように思います。

▼ギャンブルの依存性
 なぜ要請に従わないパチンコ店があるのかを考える時に留意が必要なのは、パチンコは娯楽というよりもギャンブルであり、ギャンブルには程度の差はあれ依存性があるということです。同じように人の密集を避けるために休業要請や営業時間の短縮要請の対象になっている施設でも、ナイトクラブ、居酒屋、飲食店などは、客の側が利用を控えることがあります。客が来ないなら店を開けても仕方がない、となります。しかしパチンコ店では、店が開いている限りは客が来ます。営業しても客が来ないのならともかく、客は来るので「営業を強行する」という選択肢が成り立ちます。
 パチンコをやったことのない人には理解しがたいことだとは思うのですが、依存性が高まると、勝ち負けよりもとにかくパチンコ台に座っていないと落ち着かない、ほかのことは手に着かない、となります。ギャンブル依存症となれば病気で、治療が必要です。
 パチンコには換金システムがあり、いわば街中(まちなか)に賭場が堂々と開帳している状態です。そういう中でのギャンブル依存症の問題は近年、カジノ解禁論議と絡めて繰り返し指摘されてきました。しかし、それを何とかしようという具体的な論議や施策は乏しいように思います。大阪でも維新の会の吉村府知事や松井一郎大阪市長はカジノ誘致に熱心です。吉村知事もギャンブル依存症のことは知らないはずはないのに、パチンコ店の店名公表に当たって、その要因をどこまで考慮、検討したのか、それもまた見えません。逆効果になりかねないことは、事前に想定できたはずです。

▼特措法の危うさ
 仮にこの後、東京などで店名が公表されても、あるいは「要請」が「支持」「指示」に切り替わっても、それでも営業をやめないパチンコ店が残った時に、何が起こるのでしょうか。法改正をして「営業停止」の強制力を備える、罰則を備える、ということになるのか。パチンコ業界を所管する警察が動くのか。あるいは、社会の同調圧力の高まりによって、店にも客にも批判が高まり、休業へと追い込まれていくのか。
 いずれにせよ、重要なのは、法に基づく手続きが適正に取られること、その手続きが透明性を持つことだと思います。緊急時であることを理由に人権の制限をさらに容認するとしても、緊急時を脱した際には元に戻れることが、民主主義に即した手続きによって担保されていることが絶対に必要です。緊急時だからこそ、厳密な手続きの設定と、それが守られることが重要です。その意味で、もともと現在の特措法には、緊急事態宣言の発動や終了に国会が関与しない、発令や終了の要件があまりに漠としているなどの大きな不備があり、危うさを感じざるを得ません。 

※追記=2020年4月26日11時30分

 この記事をアップした後に考えたことをまとめました。長くなったので追記ではなく、単独記事としてアップしました。

news-worker.hatenablog.com

※追記終わり

 「大阪府がパチンコ店名公表」のニュースを、東京発行の新聞各紙がどのように扱ったか、以下に書きとめておきます。大阪発行の紙面では、はるかに大きな扱いだったのではないかと思いますが、私権制限と厳格な法の運用という観点は、地域差なく全国どこでも重要であって、その意味ではどこでも重要ニュースとして大きく扱われていい(新聞なら1面で)と思います。

・朝日新聞
第2社会面
「『店名公表』自治体相次ぐ/休業要請応じぬパチンコ店」
「識者『裁量権逸脱の恐れ』」

・毎日新聞
1面
「パチンコ店名公表/大阪府 休業要請応じぬ6点」
「東京・茨城は28日にも」/「資金繰り支援 パチンコ店にも」
社会面
「都内パチンコ41店営業/専属チーム 現地確認へ」
「国の強制措置必要」鈴木宏・新潟大名誉教授(公衆衛生学)/「行政の裁量権逸脱」右崎正博・独協大名誉教授(憲法学)

・読売新聞
社会面
「大阪 要請応じぬ店公表/パチンコ6点 都も28日に 営業自粛」/「特措法3段階 罰則規定なし」

・日経新聞
社会面
「都、パチンコ店名公表へ/28日にも 大阪すでに6店公表」

・産経新聞
第2社会面
「休業拒否 パチンコ6点公表/全国初 知事『最後の手段』 大阪府」
「拒否店舗、とは28日にも公表」/「特別措置法24条と45条」

・東京新聞
3面
「大阪府 パチンコ店名公表/営業継続 より強い休業要請」
「都も18日以降に公表へ」
「茨城と神奈川、公表を検討」