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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

新型コロナ禍と政治への関心、安倍内閣支持率の低下~5月の世論調査結果から

 マスメディア各社が5月に実施した世論調査の結果で目にとまったもののうち、安倍晋三内閣の支持率について書きとめておきます。
 5月上旬実施の調査では、前回3月下旬ないし4月実施の調査と比べて支持が下がったのは毎日新聞調査(5月6日実施)だけで、ほかは横ばいか、4~5ポイントの増加でした。不支持率も毎日新聞調査以外は横ばいないしは微減でした。
 一転して傾向が大きく変わってくるのは、15日以降に実施された調査です。NHK調査(15~17日実施)では支持率は前月比微減(2ポイント減)の37%でしたが、不支持率は7ポイント増の45%に上り、不支持が支持を上回りました。朝日新聞調査(16、17日実施)では支持は8ポイント減の33%、不支持は6ポイント増の47%でした。その1週間後、毎日新聞が23日に実施した調査では支持率は3割を切って27%。約半月で13ポイントもの急落でした。不支持の増加の勢いはそれ以上で、19ポイント増の64%に上りました。朝日新聞の23、24日の調査でも、わずか1週間のうちに支持は4ポイント減の29%、不支持は5ポイント増の52%です。

 そのさらに1週間後の29~31日に実施された共同通信の調査では、支持率は39.4%、不支持率は45.5%でした。支持率の水準は前週の毎日新聞や朝日新聞調査より10ポイント以上高いのですが、共同通信の調査としては前回(5月8~10日実施)に続き不支持が支持を上回り、その差も開いています。支持率の低下、不支持率の上昇の傾向は毎日や朝日の調査と変わりません。

 海外を見てもそうなのですが、新型コロナ禍のような社会の危機の場合には、結束して危機を乗り越えることを訴える自国の政治指導者への支持は、多くの場合は一時的にせよ高まる傾向が指摘されています。しかし、安倍政権の新型コロナウイルスを巡る対応への評価は、例えば朝日新聞の23、24日の調査では「評価する」30%に対して「評価しない」が57%に上っています。毎日新聞の23日の調査でも「評価する」20%に対して「評価しない」59%でした。新型コロナウイルスへの対応の評価が低いことが、内閣支持率の低下の底流にあるようです。 

 以下はわたしなりの仮説ですが、もう一つ、支持率低下との関連性が考えられる要因に黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長と検察庁法改正案を挙げることができるように思います。検察官の定年を一律65歳にするとともに、一部の幹部検察官については内閣や法相の判断で職務を延長できる特例を盛り込んだ検察庁法改正案は5月8日、他の国家公務員の定年延長法案と一緒に衆院内閣委で審議入りしました。新型コロナ禍の緊急事態宣言が続く中で、採決の強行が危惧される状況でした。このことに対して、ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグを付けた投稿が9日午後から10日にかけてぐんぐん伸びました。著名人が次々にツイートに加わったこともあり、新聞や放送のマスメディアも追随して報道。5月18日の月曜日になって、政府・与党は法案の今国会での採決見送りを決めました。
 その後、週刊文春が黒川氏と産経新聞社の記者2人、朝日新聞社の元記者の社員との賭けマージャンをネット版で20日に速報。黒川氏は21日に辞職しましたが、懲戒処分にはならず、訓告処分どまりでした。この軽い処分は首相官邸の意向だったとの報道があります。 
 ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が急増した際、わたしはこのブログに以下のように書きました。

 ツイッターへのおびただしい投稿を見ていると、「これまで政治的な話題はつぶやかなかったが、今回は黙っていられない」との趣旨のツイートが、いくつもありました。タレントやミュージシャンも少なくない数の方が投稿しています。これまで、そうした立場の人が政治的な意見を表明することには批判がありました。今回も批判はあるようですが、意見表明を当然のことと受け止める声も多く目にします。コロナ禍によって政治への関心が高まり、「政治への意見の表明」に対する社会の視線が変わりつつあるのかもしれないと感じます。

news-worker.hatenablog.com

 安倍政権への厳しい視線が急増したことの背景には、政治に対する意識の変化があるのではないか、と感じています。新型コロナ禍によって、私権の制限を伴う緊急事態宣言が出され、また行動の制限によってテレビで国会での政府と野党のやり取りに接したりして、政治への関心を高めた人が増えている可能性があります。もしその通りだとすると、時間がたてば安倍政権の支持率はこれまでのように上昇傾向に転じるのかどうかは分かりません。後続の調査を注視したいと思います。

 以下に各調査の結果のうち、内閣支持率を書きとめておきます。
【安倍晋三内閣の支持率】 

・共同通信 5月29~31日
  支持  39.4%(2.3P減) ※前回は5月8~10日
  不支持 45.5%(1.5P増)

・朝日新聞 5月23、24日実施
  支持  29%(4P減) ※前回は5月16、17日
  不支持 52%(5P増)
・毎日新聞 5月23日実施
  支持  27%(13P減) ※前回は5月6日
  不支持 64%(19P増)

・朝日新聞 5月16、17日実施
  支持  33%(8P減) ※前回は4月18、19日
  不支持 47%(6P増)
・NHK 5月15~17日実施
  支持  37%(2P減) ※前回は4月10~12日
  不支持 45%(7P増)
 
・産経新聞・FNN 5月9、10日実施
  支持  44.1%(5.1P増) ※前回は4月11、12日
  不支持 41.9%(2.4P減)
・TBS 5月9、10日実施
  支持  47.3%(4.1P増) ※前回は4月4、5日
  不支持 50.8%(1.9P減)
・共同通信 5月8~10日実施
  支持  41.7%(1.3P増) ※前回は4月10~13日
  不支持 43.0%(±0)
・日経新聞・テレビ東京 5月8~10日
  支持  49%(1P増) ※前回は3月27~29日
  不支持 42%(±0)
・読売新聞 5月8~10日実施
  支持  42%(±0) ※前回は4月11~12日
  不支持 48%(1P増)
・毎日新聞 5月6日実施 社会調査研究センターと共同
  支持  40%(4P減) ※前回は4月8日
  不支持 45%(3P増)

【追記】2020年6月3日8時20分
 産経新聞とFNNの合同調査の結果も報じられました。
 内閣支持率は以下の通りです。

・産経新聞・FNN 5月30、31日実施
  支持  36.4%(7.7P減) ※前回は5月9、10日実施
  不支持 52.5%(10.6P増)