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国と地域の関係を問う辺野古埋め立て工事の再開~控え目な在京各紙の報道

 沖縄県議選の投開票から5日後の6月12日、日本政府は沖縄県名護市辺野古の新基地予定地の埋め立て工事を再開しました。工事関係者1人が新型コロナウイルスに感染したことから、4月17日から工事は中断していました。県議選では、玉城デニー知事の県政与党が過半数の議席を確保しており、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する民意が繰り返し示されたと受け取るのが妥当だと思いますが、一方では自民党は議席数を伸ばしており、安倍政権からは「善戦できたことは大きな成果だ」(安倍晋三首相)、「かなり(移設容認の)理解が進んできている」(菅官房長官)などの評価がありました。
 経緯を見ると、工事を早期に再開せずに県議選終了まで待っていたようにも思え、2カ月に及ぶ工事中断は県議選での争点隠しだったのではないのか、との疑問が浮かびます。河野太郎防衛相は12日の会見で「(指摘は)当たらない」(朝日新聞)と否定したとのことです。
 別の観点から考えても、コロナ禍によって世界が変化を迫られることは、おそらく安全保障の面でも例外ではないはずなのですが、何ら見直しのないまま、一国の政府が地域の自己決定権を認めず、強圧的に基地建設を進めることが妥当なのかどうか。コロナ禍の特別措置法の運用で明らかになっている論点の一つは、国と自治体の役割分担であり、つまりは国と地域の関係のありようです。その意味でも、辺野古の工事強行は日本全国、どこの住民にとっても他人事ではないと思います。
 辺野古の埋め立て工事再開はそういう論点をはらんでいるのですが、東京発行の新聞各紙の扱いはかなり控え目でした。沖縄県の玉城知事は「大変遺憾だ」と反発を示していますが、読売新聞の記事にはそのことすら入っていません。

 以下は13日付朝刊の各紙の扱いと主な見出しです。
・朝日新聞
1面「辺野古工事再開」写真
4面(総合)「防衛相『争点隠し』否定」※短信
・毎日新聞
1面「辺野古工事再開 沖縄知事『遺憾』」写真
・読売新聞
4面(政治)「首相『普天間移設 早く』」※短信12行
・日経新聞
※記事見当たらず
・産経新聞
5面(総合)「首相、辺野古移設の早期実現に意欲」※短信
第2社会面「辺野古移設工事 57日ぶりに再開」写真
・東京新聞
2面「辺野古 反発多き工事再開/軟弱地盤巡る攻防 今後の焦点」写真
※1面にインデックス
※12日付夕刊は1面トップ

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[写真説明]6月13日付の毎日新聞(上)、東京新聞(下右)、朝日新聞の各1面

 沖縄タイムス、琉球新報は13日付の社説で工事再開を批判しています。一部を引用して書きとめておきます。

▼沖縄タイムス社説「[辺野古埋め立て再開]工事停止し再アセスを」2020年6月13日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/585091

 許容できないのは、普段は「選挙は結果が全て」という菅義偉官房長官が、自民党が議席を伸ばした一面だけを切り取って、新基地建設への「地元の理解が進んだ」と語ったことだ。
 県議選が示した結果は、新基地反対の変わらぬ民意である。にもかかわらず建設ありきの一方的な解釈だ。
 工事がジュゴンに与える影響も懸念されている。
 沖縄防衛局が周辺海域で実施した調査で、2月から3月にかけてジュゴンのものとみられる鳴き声が42回も確認されたことが明らかになったばかりだ。
 土砂運搬船が航行を始めれば、絶滅の恐れが高いジュゴンにさらに深刻な影響を与えかねない。
 今進めるべきは、工事ではなくジュゴンの生息環境などの調査だ。

▼琉球新報社説「辺野古で工事再開 民意いつまで踏みにじる」2020年6月13日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1137943.html 

 沖縄の民意を無視して、いつ終わるとも知れず、いくらかかるかも分からない工事に着手し、貴重な自然環境を破壊する。政府の所業は常軌を逸している。とても民主国家の振る舞いとは思えない。
 沖縄に対し強硬な態度を取り続ける一方で、米国には常に弱腰だ。米軍の特権を認める日米地位協定の改定さえ言い出すことができない。強い者に媚(こ)び、弱い者には高飛車に出る。そのような国の在りようはいびつであり、一刻も早く改めるべきだ。
 新基地に反対する民意は知事選や国政選挙で繰り返し示されてきた。7日投開票の県議選にもそのような県民の意向が反映されている。
 政府が新基地建設の根拠にしているのが13年の仲井真弘多知事(当時、14年落選)による埋め立ての承認だ。しかし同氏は10年の知事選では「県外移設を求める」と公約していた。大多数の民意に逆行する決定を盾に、強権を振るっているのが現在の安倍政権なのである。
 このようなやり方が許されるのなら、許認可権限を持った首長を説得することで、地元の同意なしにどんな迷惑施設でも自在に建設できることになる。沖縄だけでなく全国民に関わる重大な問題だ。