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巨大選挙区でたった1人を選ぶ東京都知事選~現職が圧勝 雑感

 東京都知事選は7月5日に投開票が行われ、現職の小池百合子氏が他候補に大差をつけて再選されました。得票は366万1371票で、都知事選では歴代2位とのことです。得票率は59.7%。次点の宇都宮健児氏が84万票余りなので、文字通り他の候補が束になってもかなわなかった圧勝ぶりです。
 以下、今回の選挙に感じたことを書きとめておきます。雑感です。

  • もともと一つの選挙区としては巨大な東京で、たった1人を選ぶ選挙なので、どうしてもイメージ選挙、言葉を変えれば人気投票のようになるのは仕方がないのかもしれません。現職は知名度を持っているので、よほど大きな不祥事でもない限り有利です。加えて今回は新型コロナウイルスへの対策が主要な争点でした。安倍晋三政権のコロナ対応が、「アベノマスク」と揶揄された布製マスクの配布もたつきに象徴されるように、決して高い評価を受けているとは言い難い中で、首都東京の小池氏が存在感を増していたのは確かです。
  • 投票日に在京マスメディア各社が実施した投票所の出口調査によると、小池氏は支援を受けた自民党、公明党の支持層はもちろんのこと、無党派層や野党支持層からも幅広い支持を得たようです。朝日新聞社の調査では、手堅い組織票であるはずの共産党支持層からも17%が小池氏に流れたとのことで、これはちょっと驚きました。宇都宮氏や3位の山本太郎氏が小池氏に対抗する候補として、貫禄が不足していたかと言えばそんなことはなく、公約・政策の面でも違いは明確でした。それでもこの結果になった最大の要因は、コロナ対策による現職・小池氏の知名度と存在感ではないかと感じています。
  • 前回、小池氏が初当選した2016年選挙では、わたしは国政野党4党が支援した候補が惨敗したことについて「人格と識見、身ぎれいさに政策を兼ね備えた、そういう意味での『勝てる候補』を選挙民に提示できなかった4党の責任は極めて大きい」と、このブログに書きました。今回は「勝てる候補」も出馬していました。巨大選挙区の東京都知事選はイメージ選挙になることを免れ得ないのか、という気がしています。 

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  • 出口調査結果によると、小池氏は女性からの支持が高かったようです。「首都東京で女性知事が再選」ということ自体は、積極的な意味を見出してもいい変化なのだろうと思います。
  • 選挙直前に小池氏のカイロ大卒業の学歴にあらためて疑義を呈する出版物が刊行されましたが、カイロ大学が卒業を“証明”する声明を出し、そのタイミングに違和感は覚えたものの、結果的に知事選にはほとんど影響はなかったように思います。この間、小池氏が色をなして反論するといったこともありませんでした。激しく反応することがなければメディアも報じようがない、という考えだったのかもしれません。一方、この出版物は選挙戦さなかの広告によると20万部超ということで、よく売れたようです。

 人口も予算規模も何もかも図抜けて巨大な東京には、たくさんの政策課題があります。小池氏に対する評価は人それぞれだとしても、大事なのは、その一つ一つが2期目の小池都政でどう扱われるかです。それをウオッチするのはマスメディアの役割です。

 東京発行の新聞各紙のうち、投開票日翌日の6日付朝刊で都知事選の結果を1面トップに据えたのは産経新聞と東京新聞でした。朝日、毎日、読売の3紙はいずれも熊本の水害がトップでした。主見出しは単に「再選」としているのが大勢で、「圧勝」を入れたのは産経だけ。ほかは読売が「大差で再選」としたぐらいでした。ちょっと意外な気もしています。選挙戦さなかの情勢報道の段階から、小池氏の優勢が報じられていました。開票結果に今さら驚きはない、という判断でしょうか。ちなみに朝日新聞と日経新聞の1面の写真は、当選後の小池氏の表情ではなく、資料の顔写真でした。

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 今回の選挙では、日本第一党の桜井誠党首が17万8784票を得ました(小池、宇都宮、山本、小野泰輔の各氏に次いで5位の得票)。得票率は2.92%。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)元会長です。前回2016年選挙にも出馬しており、このときは11万4171票(得票率は1.74%)。投票率は下がったのに、得票は大幅に伸びています。これも無視できない社会の変化のように感じていますので、書きとめておきます。