河井夫婦から金を受け取った100人をなぜ立件しないか、検察は公に説明すべきだ

 河井案里参院議員が初当選した昨年7月の参院選を巡り、東京地検特捜部が7月8日、河井議員と夫で前法相の河井克行衆院議員を公職選挙法違反の罪で起訴しました。この事件では河井夫婦の地元の広島県内で、首長や地方議員らに広範に現金が配布されていました。受け取った側も被買収の選挙違反に当たる可能性があるのですが、検察当局は訴追しない方針と報じられてきており、河井夫婦の起訴の際に検察がどのような説明をするのか、注目していました。翌9日付の東京発行の新聞各紙の報道を総合すると、被買収の100人は起訴はおろか、起訴するかどうかの判断以前に、刑事事件としては扱わないとの方針のようです。これでは、「検察の判断はおかしい」として検察審査会に持ち込むこともできないようです。

 金を受け取った側を立件しないこと自体の検察の発想は想像がつきます。検察にとって重要なのは河井夫婦を有罪にすることです。金を受け取った側の供述はこの点の立証を直接、左右します。「案理の選挙の買収だと思っていました」との供述を公判段階でも維持させるための、事実上の司法取引の色彩は否定できないと思います。自分も刑事罰を受けるかもしれないとなれば、「買収とは思いませんでした」と供述を翻すかもしれません。
 また、この事件で検察は「いちばん悪いヤツを罰すれば十分である」と半ば本気で考えているのではないかとも思います。金を受け取った首長や議員らの名前が公判ですべて明らかになるかどうかは分かりませんが、「だれに、いつ、いくら」は公訴事実の一部なので、伏せる理由はありません。そこで社会的制裁が待っている(既に辞職した首長、議員もいる)ので、刑事罰までは必要ないだろうということも考えているでしょう。
 そもそも選挙違反事件の捜査は通常、警察が中心です。検察が自ら、しかも東京から遠く離れた選挙区の選挙違反事件捜査に特捜部を投入するのは異例です。嫌疑の中心は妻の選挙のために衆院議員である夫がせっせと現金を配って歩いていたことです。しかもその後、夫は短期間とはいえ法相の要職に就いていました。妻の出馬自体、自民党中枢の強い意向が働いていたと指摘されています。異例づくめの極めて特殊な事件です。なぜ検察が全力を挙げて河井夫婦を立件したかと言えば、通常の選挙違反とは質も規模も異なる「巨悪」ととらえたからでしょう。その巨悪に比べれば、金を受け取った側の悪質さは相対的に小さい、と考えているのではないかと思います。
 捜査を取り巻く背景事情には検事長の定年延長問題もありました。検察は政治による介入圧力を感じ取っていたはずです。金を受け取った側を刑事手続きの上では不問に付すという判断は、河井夫婦の有罪立証に全力を注ぎたい、ということと表裏一体だろうと思います。

 ただし、これは検察に多少ともカンを持っている人にしか分からないことだろうと思います。そして、被買収側の立件見送りが妥当、適当なのかどうかとなるとまったく別問題です。だから、多くの人が感じるであろう「なぜ被買収側は起訴されないのか」との当然の疑問に対し、まずは検察が公に説明を尽くすべきです。「巨悪」の事件ならなおさらです。検察が自ら説明しようとしないのなら、マスメディアが見える形で説明を要求するべきだろうと思います。昭和や平成までの検察事件ならいざしらず、それが検事長定年延長で浮き彫りになった「検察とメディア」の問題の教訓のはずです。検察も、世論の期待と批判を同時に身に沁みて味わったはずです。
 報道で見る限りですが、検察の態度はまったく不十分だと感じます。検察が説明しなければいけないことをメディアが推測交じりで代弁しています。以前は現職国会議員を起訴する際には、東京地検検事正、次席検事、特捜部長がそろってオンレコの記者会見を行っていました。今回はそれもなかったようです。選挙を経て国民の代表に選ばれている政治家を訴追するのですから、記者会見ぐらいは当然です。
 まもなく検事総長が交代します。新旧総長とも、退任、就任の記者会見を行うはずですので、ぜひその場で「金を受け取った側を立件しないのはなぜか。国民に分かるように説明を尽くせ」と記者たちは頑張って迫ってほしいと思います。

 9日付の東京発行6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の朝刊では、河井夫婦の起訴は1面が大勢でした(日経のみ第2社会面)。被買収の100人は不起訴(起訴猶予を含む)ではなく、起訴か不起訴かの判断対象にすらならないことは、一般の人には分かりづらいと思います。この点について朝日新聞が社会面で関連記事を載せているのが目を引きました。

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