ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「ついに沖縄とまっとうな関係築けず」(沖縄タイムス)~「安倍政治」 地方紙・ブロック紙の社説、論評

 安倍晋三首相が8月28日に辞任を表明したことに対し、地方紙・ブロック紙も翌29日付の社説、論説で論評しています。ネットでチェックできたものについて、見出しを書きとめておきます。9月2日夜の時点で内容を読むことができる社説、論説は、リンクも張っておきます。
 目立つのは「強権」「独善」「忖度」「ゆがみ」「ひずみ」といったマイナス評価のキーワードです。全体として、「安倍政治」への厳しい評価が多いように感じました。
 その中で、特に目を引いたのは中国新聞の社説「負の政治遺産どうする」の中の次の一節です。世論調査では、安倍内閣の支持率は一時的に落ちても、すこしたてば回復するパターンを繰り返してきました。安倍政治の長期化は民意が支持した結果でもあったのです。「安倍政治」を批判するだけでは、検証、総括としては不十分だと感じます。

 これらのあしき政治手法や姿勢は、安倍1強の長期政権が作りだしたものだ。その中で、政治に対する国民の意識も鈍ってきた面があるかもしれない。新内閣には政治の刷新、悪弊の一掃が求められるだろう。国民もまた政治を見る目を改める必要がありそうだ。

 このブログの前回の記事でも書きましたが、安倍政治が残した社会の分断の中でも、もっとも深刻な一つは、米軍普天間飛行場移設に伴う辺野古沿岸部の埋め立て強行など、沖縄の基地の集中を巡ってです。沖縄タイムス、琉球新報の沖縄の2紙は、「安倍首相は任期中、ついに沖縄とまっとうな関係を築くことができなかった」(沖縄タイムス)などと、とりわけ厳しい評価です。
 安倍後継の自民党の総裁選びは、あれよと言う間に菅義偉官房長官が党内の主要派閥の支持を取り付け、優位に立っています。その菅氏は、安倍政権で沖縄対応の責任者でした。仮に菅政権が誕生したとして、辺野古をはじめとして、沖縄に一方的に負担増を強いる基本姿勢の転換は期待できないように思います。それを了とするのか、了としていいのか。やはり問われるのは、日本本土に住むこの国の主権者だろうと思います。

■8月29日付の各紙の社説、論説
▼北海道新聞「安倍首相が退陣表明 強権と隠蔽体質の果てに」/数の力で禍根を残す/「私物化」疑惑消えぬ/後継選び論戦尽くせ
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/454861?rct=c_editorial
▼河北新報「安倍首相退陣表明/目立った強権 熟議に戻せ」
 https://www.kahoku.co.jp/editorial/20200829_01.html
▼東奥日報「ひずみ生んだ『1強』政治/安倍首相 辞意表明」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/401360
▼秋田魁新報「安倍首相辞意 政治的空白は許されぬ」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20200829AK0012/
▼山形新聞「安倍首相退陣 ひずみ生んだ1強政治」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200829.inc
▼福島民報「【安倍首相退陣表明】政治空白をつくるな」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2020082978446
▼福島民友新聞「首相退陣表明/空白避け政治を前に進めよ」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20200829-531200.php
▼茨城新聞「安倍首相退陣 ひずみ生んだ1強政治」
▼山梨日日新聞「[安倍首相退陣表明]薄れた立憲主義を取り戻せ」
▼信濃毎日新聞「首相が退陣表明 政治の劣化を進めた責任」/遅きに失した判断/看板掛け替えの害/民主主義の再構築を
 https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200829/KT200828ETI090010000.php
▼新潟日報「安倍首相辞意 唐突な『投げ出し』またも」/暮らし混乱させるな/独善の踏襲では困る/拉致問題解決に力を
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20200829564649.html
▼中日新聞・東京新聞「『安倍政治』の転換こそ 首相退陣表明」/任期途中2度目の辞任/憲法軽視の「一強政権」/速やかに国民の信問え
 https://www.chunichi.co.jp/article/111796?rct=editorial
▼北日本新聞「安倍首相の辞任表明/難題克服する新体制を」
▼北國新聞「安倍首相が辞意 経済政策、外交に不安材料」
▼福井新聞「安倍首相退陣表明 『1強』のもろさあらわに」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1153894
▼京都新聞「安倍首相の辞意 国民への責任は果たせたか」/問題から逃げている/過剰な「忖度」生んだ/功罪の議論もなしに
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/348117
▼神戸新聞「首相退陣表明/『1強』の弊害を改める契機に」/「官邸主導」の検証を/骨太の政策議論こそ
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202008/0013644882.shtml
▼山陽新聞「安倍首相辞任 長期政権にも達成感なく」
 https://www.sanyonews.jp/article/1046255?rct=shasetsu
▼中国新聞「安倍首相の退陣表明 負の政治遺産どうする」/前回は投げ出し/自ら「成果」強調/道半ばの政策も
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=676193&comment_sub_id=0&category_id=142
▼山陰中央新報「安倍首相退陣/ひずみ生んだ1強政治」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1598666708006/index.html
▼愛媛新聞「首相辞意表明 1強政治 おごりやひずみ招いた」
▼徳島新聞「安倍首相退陣 政権の行き詰まり響く」
▼高知新聞「【安倍首相退陣】ゆがみ生んだ1強政治」
 https://www.kochinews.co.jp/article/393162/
▼西日本新聞「安倍首相が辞意 ポスト『1強政治』へ号砲」/安定とゆがみの明暗/揺らぐ政権の座標軸
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/639877/
▼宮崎日日新聞「安倍首相退陣表明 『1強』生んだひずみ総括を」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_47023.html
▼佐賀新聞「安倍首相退陣 ひずみ生んだ1強政治」(共同通信)
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/566956
▼熊本日日新聞「首相辞意表明 政策の遅滞は許されない」/響いたコロナ対応/ポスト安倍は誰に/対話重視へ転換を
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1583249/
▼南日本新聞「[首相退陣表明] ひずみ生んだ1強政治」/議論の機会を喪失/難題の道筋示せず
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=124872
▼沖縄タイムス「[安倍首相 辞意表明] 後継者は県との対話を」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/623672

 通算の在任期間が8年を超えるというのに、安倍首相は任期中、ついに沖縄とまっとうな関係を築くことができなかった。
 米軍普天間飛行場の返還合意を実現した橋本龍太郎元首相や、サミットの沖縄誘致を決断した小渕恵三元首相と比べたとき、その違いが際立つ。
 橋本氏や小渕氏、そして野中広務元官房長官らは県民の戦争体験や戦後の米軍統治下の苦難を理解していた。
 だが、戦後生まれの安倍首相には、沖縄の歴史に向き合う姿勢がほとんど感じられなかった。
 菅義偉官房長官にも言えることだが、何度でも足を運んで話し合いを重ね、接点を見いだす、という「寄り添う姿勢」が感じられない。 
 安倍首相の辞意表明を、県との関係改善、計画見直しの機会にすべきである。

▼琉球新報「首相辞任表明 民意尊ぶ政治の復権を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1181527.html

 沖縄には国内の米軍専用施設の約7割が集中し、米軍による事件や事故が相次ぐ。今年6月23日の「慰霊の日」に首相はビデオ映像を通じて「基地負担の軽減に向け、確実に結果を出す決意だ」と述べた。「唯一の解決策」として、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を強行する。対米交渉で辺野古以外の解決策を見いだそうとしなかった。
 米軍基地問題に対する県政の姿勢によって沖縄関係予算を増減させ、県を通さず国が市町村に直接交付する「沖縄振興特定事業推進費」を創設、地域の分断を図ろうとした。「アメとムチ」の政策である。
 辺野古の問題で昨年12月、埋め立て海域の約70メートルより深い軟弱地盤への対処などのため、総工費が当初計画の約2・7倍の約9300億円とする計画見直し案を発表した。しかし、技術的にも財政的にも完成は見通せない。
 安倍首相の大叔父に当たる佐藤栄作首相は、琉球政府の屋良朝苗主席に対し「本土の(基地)負担を沖縄に負わすようなことはしない」(1971年)と明言した。だが約束は今も果たされていない。
 安倍政権は、国政選挙や知事選挙、県民投票などで辺野古新基地建設反対の民意が示されても無視してきた。民主主義を形骸化させ、少数の国民に基地の負担を押し付けてはばからない政権として、歴史に名が刻まれるだろう。