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「代わり映えのなさ」が「コロナ優先」民意とマッチ~菅義偉政権の高支持率

 退陣した安倍晋三氏の後任の自民党総裁、首相に、安倍政権で長く官房長官の地位にあった菅義偉氏が選出され、新内閣が9月16日発足しました。直後にマスメディア各社が実施した世論調査では、内閣支持率は60%台半ばから70%超と高い水準でした。安倍政権末期の支持率の伸び悩みや、とりわけ新型コロナウイルス対策に批判が多かったことから、安倍政権の政策を受け継ぐと宣言した菅政権の高支持率は意外な気もします。
 ただ、各社の調査の個別の設問と回答状況を追ってみると、菅内閣の最優先の課題に挙がったのはいずれの調査でも「コロナ対策」です。安倍政権の経済政策(アベノミクス)を引き継ぐことに対しては、調査によって評価は分かれており、ましてや安倍前首相がこだわっていた憲法改正はほとんど問題にもなっていません。その一方で、森友学園や加計学園、桜を見る会の問題の再調査や真相解明を求める意見は根強く、麻生太郎副総理・財務相の再任や、自民党の二階俊博幹事長の留任に対しての評価も低く、決して菅政権を積極的に評価しているわけではないようです。
 菅内閣に対しては、その顔ぶれに代わり映えがなく「安倍晋三がいない安倍内閣」(共産党の小池晃書記局長)との酷評もあります。しかし、その代わり映えのなさ自体が、コロナ禍の下で急激な変化を望まない民意に絶妙にマッチしているのかもしれないと感じます。長かった「アベ政治」が終わり、野党の側でも与党への「対案」ではなく「対抗軸」を打ち出そうとする新生・立憲民主党が発足しました。考えようによっては、政治のありようを民意に問う機会かもしれませんが、各社の調査では、民意は早期の衆院選を望んでいません。結局のところ、高い支持率には「今は変化よりもコロナ対策」との多くの人たちの考えがにじみ出ているようで、いわば消極的な支持と言えるのではないかと感じます。

 以下は各調査の菅内閣支持率と不支持率です。
▼毎日新聞・社会調査研究センター・JNN 9月17日実施
 支持  64%
 不支持 27%
▼朝日新聞 9月16、17日実施
 支持  65%
 不支持 13%
▼日経新聞・テレビ東京 9月16、17日実施
 支持  74%
 不支持 17%
▼共同通信 9月16、17日実施
 支持  66.4%
 不支持 16.2%

 順番が前後しますが、16日の菅内閣の発足を翌17日付の東京発行新聞各紙の朝刊は1面トップで大きく扱いました。ただ、久しぶりの新首相だというのに、各紙の紙面からは期待感や躍動感といったものが感じられませんでした。自民党総裁選が始まる前に、党内の各派閥が競うように菅氏支持を打ち出し、あっという間に大勢が決してしまったことは「打算の結果」としか言いようがありません。打算の寄り集まりなので、何かあれば離散も早いかもしれません。わたしが新内閣に感じるのは「不安」です。色々な意味で「大丈夫か」という不安があります。

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 以下に、各紙の1面の主な記事と編集幹部らの署名評論、社説の主な見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
「菅内閣発足/8人再任・派閥配慮の『安全運転』/桜を見る会『来年以降は中止』表明」
社説「菅『継承』内閣が発足 安倍政治の焼き直しはご免だ」/暫定色払拭するには/見えぬ国家ビジョン/解散よりコロナ対応

▼毎日新聞
「軽症と改革 旗印/『縦割り110番』指示/菅内閣発足」
「菅ビジョン聞きたい」高塚保・編集編成局次長
社説「菅義偉・新内閣が発足 まず強引な手法の転換を」/政権の骨格は変わらず/解散前には論戦が必要

▼読売新聞
「菅内閣発足/『行政の縦割り打破』/コロナ、経済対策 最優先」
「改革に突破力と説得力」伊藤俊行・編集委員
社説「菅内閣発足 経済復活へ困難な課題に挑め 改革の全体像と手順を明確に」/国民の理解が不可欠/成長戦略をどう描くか/衆院解散の時期が焦点

▼日経新聞
「規制改革へ縦割り打破/菅内閣が発足/コロナ対応・経済 両立」
社説「迅速と丁寧を両立させた政治主導を」経済・コロナは続投/地方の活性化に期待

▼産経新聞
「菅内閣発足『継承と前進』/コロナ・経済 最優先/拉致解決『不退転の決意』」
「『NASA政権』国民に信を問え/対中政策は腹くくり国益第一で」乾正人・論説委員長

▼東京新聞
「菅内閣発足/安倍政権の継承『私の使命』/自民に来月総選挙論」
「誰も置き去りにしない政治を」豊田洋一・論説副主幹
社説「菅内閣が始動 国民全体の奉仕者たれ」/女性閣僚起用、前進なく/忖度がはびこる可能性/分断の政治に終止符を

 

※追記 2020年9月22日19時30分
 読売新聞社が9月19、20両日に実施した世論調査では、菅内閣支持率は74%、不支持率は14%でした。優先して取り組んでほしい政策や課題は「新型コロナウイルス対策」が最多の34%。衆院解散・総選挙については「任期満了まで行う必要はない」が59%に上っています。読売新聞は、自民党内に早期解散論が高まっていると伝えていますが、支持率の数値の高さだけに目を奪われて、民意を読み違えている可能性が否定できません。危うさを感じます。