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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「分断」から「結束」「協調」へ、多様性象徴 副大統領ハリス氏~米大統領選「バイデン氏勝利」を伝える在京紙の記録

 米大統領選は日本時間の11月8日未明、米主要メディアが民主党のジョー・バイデン候補の勝利が確実になったと報じました。バイデン氏も勝利宣言を行いましたが、共和党候補の現職、ドナルド・トランプ大統領は敗北を認めず、選挙に不正があったと主張し、連邦最高裁まで争うことを表明しています。しかし、その主張に具体的な裏付けはなく、説得力も感じられません。開票が進むにつれて得票が逆転したことは合理的に説明できるのに対して、トランプ氏の主張はあまりに不合理で恣意的です。
 日本の新聞で8日付朝刊に「バイデン候補勝利」の記事を掲載できたのはほんの一部でした。8日は新聞休刊日のため、大半の新聞は9日付朝刊の発行を休止しました。したがって、新聞各紙が豊富な分析や論評とともに、多角的にこのニュースを報じたのは10日付朝刊になりました。東京発行の6紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)の10日付朝刊の紙面には、見出しに「品位」「結束」「団結」「協調」などのキーワードが並びました。それらはそのまま、新大統領が向き合う課題です。

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 4年前にトランプ氏が勝利した大統領選では、東京発行の6紙はそろって「米大統領トランプ氏」の大きな見出しを掲げました。ここまで各紙の主見出しがそろったのは珍しいことです。劣勢との事前の予測を覆したこと、何よりも過激で差別的な発言を繰り返し、米国第一の保護主義的な政策を表明していたトランプ氏の当選に受けた衝撃の大きさがそのまま紙面に反映されたように感じました(ちなみに4年前も、トランプ氏の勝利を伝えたのは11月10日付の朝刊でした)。

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【写真】2016年11月10日付の東京発行6紙の朝刊1面

 今回と4年前と、二つの紙面を見比べながら、今さらながらにトランプ大統領が米国社会にもたらした分断の根深さ、深刻さを感じます。

 今回の選挙ではトランプ支持層がなお厚いことも明らかになりました。分断の克服は容易ではないようです。それでも安堵と期待を抱かせるのは、トランプ政治が終わるということに加えて、副大統領にアフリカ系、アジア系の女性、カマラ・ハリス氏が就くことがあります。多様性を象徴する出来事であり、10日付朝刊では6紙のうち5紙がバイデン氏とハリス氏が並んだ写真を1面に掲載しました。この写真を見ながら、多様性の尊重は日本社会にとっても大きな課題だと、あらためて感じます。

※参考過去記事
「『トランプショック』在京紙の紙面」=2016年11月12日
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/20161112/1478958344

news-worker.hatenablog.com

 以下に、東京発行各紙の10日付朝刊のうち、1面と総合面、社説の主な見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽1面
「『品位回復し、民主主義守る』/バイデン氏 米次期大統領」
「トランプ氏 敗北宣言を拒否」
「消えぬ『トランプ』生んだ土壌」沢村互・アメリカ総局長
▽総合面
2面「バイデン流 多難の道」
「議会運営 共和党の影/コロナ・温暖化対策に消極的」/「トランプ氏積み増し 7000万票超」/「『不正選挙』主張続ける」
3面「国際協調へ急転換」
「パリ協定・WHO復帰 バイデン氏明言」/「イランなど期待 中ロは沈黙」/「菅首相『同盟さらに強固に』祝意示す」
「『最初の大統領だが、最後にはならない』/ハリス氏演説 増す存在感」
▽社説
「米大統領バイデン氏当確 民主主義と協調の復興を」/多元主義どう回復/理念の尊重へ回帰か/日本の役割を描け

【毎日新聞】
▽1面
「『米国の結束誓う』/バイデン氏 勝利宣言/コロナ対策 最優先」
▽総合面
2面「対中外交は硬軟両様」
「日本、同盟深化を期待」安全保障/「自由貿易回帰は遠く」多国間経済/「失った信頼 回復急ぐ」国際関係
3面「分断修復へ険しい道」
「政策協力 機運乏しく」民主・共和党/「側近、敗北容認進言か」トランプ氏
▽社説
「バイデン氏が勝利宣言 内外の分断修復に全力を」/「二つの米国」が顕在化/多様性と復元力に期待

【読売新聞】
▽1面
「バイデン氏勝利/『分断でなく団結』演説/政権移行 準備始める」
「騒乱の時代 終止符を」五十嵐文・国際部長
▽総合面
2面「『日米』の安定期待」
「首相、早期訪米目指す」
「トランプ陣営敗北認めず/徹底抗戦構え 夫人『受け入れ』説得か」
3面・スキャナー「コロナ対策 最優先」
「早速、チーム結成/党派対立 政策の壁に」内政/「『国際協調』へ回帰」外交
▽社説
「バイデン氏勝利 米国の安定と威信を取り戻せ/国際協調体制の再建が急務だ」/コロナ対応が決め手に/分断をどう修復するか/同盟の結束を固めたい

【日経新聞】
▽1面
「米、国際協調へ転換/バイデン氏当確、政権移行加速/パリ協定・WHO 準備」
「民主主義再生 盟主に試練」菅野幹雄・ワシントン支局長:「米国の難路 バイデンの選択」上
▽総合面
2面「対中強硬路線、継続へ」
「ハイテク機器の禁輸など/日本製品 関税下げの可能性」
「トランプ氏 狭まる選択肢/高い訴訟費用 広がる得票差」
3面「米歳出 10年で1000兆円増/バイデン氏、経済再生急ぐ」
「インフラに巨額投資」雇用/「ITや金融 強化も」規制/「感染抑止へチーム発足」コロナ
▽社説
「バイデン氏勝利を秩序回復の契機に」/トランプ主義は根強い/日米同盟揺るぎなく

【産経新聞】
▽1面
「バイデン氏 政権移行急ぐ/米大統領選 勝利宣言/過半数獲得『分断でなく統合』」
「トランプ氏、敗北認めず 引き際焦点」
「米民主主義の試練 世界が注視」渡辺浩生・外信部長
▽総合面
2面「トランプ劇場に疲弊/急進左派との距離感 課題」黒瀬悦成・ワシントン支局長
「首相、会談と訪米『時機みて調整』/ツイッターで祝意」
3面「対中融和回帰に懸念」
「台湾、南シナ海 不安定化恐れ」・「バイデンの米国」上
「脱炭素社会へ大型投資/経済政策 就任後にパリ協定復帰」/「ワクチン無償接種検討/コロナ対策 検査会場倍増目指す」
▽社説(「主張」)
「バイデン氏勝利 強固な日米同盟の確認を 『分断』の克服に期待したい」/中国に毅然と向き合え/TPP参加を促す時だ

【東京新聞】
▽1面
「結束し民主主義守る/バイデン氏 勝利宣言」
「『最初の女性だが最後ではない』/ハリス氏 副大統領に」
▽総合面
2面・核心「バイデン氏『青い壁』再建」「ラストベルトの激戦3州奪還/白人労働者の支持回復」
3面「トランプ氏 求心力に陰り」「訴訟・再集計 逆転望み薄」
「日本政府 米軍と一体化維持へ」
「『米国第一』各国見切り」・「分断から融和へ 米大統領選 バイデン氏の課題」上
▽社説
「バイデン氏が勝利 米国の再生が託された」/対決から対話の政治へ/民主主義の立て直しを/重くなる同盟国の役割