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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

検事総長人事と「日本学術会議」会員人選に通底するもの

 安倍晋三首相当時の「桜を見る会」前夜祭(夕食会)の経費補填問題は、読売新聞が12月3日付朝刊で「安倍前首相の公設秘書を立件へ」と報じたのを皮切りに、各マスメディアも追随。刑事事件化する様相がはっきりしてきました。安倍前首相に対しても、東京地検特捜部は5日の国会閉会後に、任意聴取する方向で調整中と報じられています。
 一方では、安倍政権当時に農水相だった吉川貴盛衆院議員が、鶏卵生産大手業者の元代表から現金500万円の供与を受けた疑いがあることが明らかになり、東京地検特捜部が捜査中と報じられています。賭けマージャンで辞任した黒川弘務・元東京高検検事長が仮に検事総長に就いていたとしたら、公判中の河井克行・元法相夫妻の選挙違反事件も含めて、これらの捜査はどうなっていたでしょうか。安倍政権が慣行を破り、定年延長という“禁じ手”を使ってまで黒川氏を検事総長に据えようとしたのは、なるほど、今日のこんな事態を避けられると期待していたからだったのかと、あらためて感じます。
 黒川氏の人事が論議を呼んでいた当時、検察にも政治による民主的統制が必要として、政権を擁護する意見も目にしました。しかし、政界捜査も手掛ける検察に政治が人事面で介入すべきではないことは、現在起きている一連のことを見ても明らかになったと言うべきだろうと思います。
 もう一つ思うのは「日本学術会議」の会員非任命問題です。菅義偉首相は自らに人事権があると主張して頑として非を認めません。しかし、過去の国会答弁その他を見れば、会員の選考は学術会議に任せて、首相は追認だけする、との合意が確立されていたことは明らかと言うべきです。時の政権が人事に介入すれば、政権への忖度が生まれ、政策への自由な批判が行われにくくなる恐れが生じます。政権は介入を控え、人選は専門家に任せた方が、日本の科学政策、科学振興には利が大きいはずです。そのことは、検察人事と検察の捜査の関係とも、通底するものがあるように感じます。
 菅首相は安倍政権下の官房長官として政権を支え、自らが首相になった後は、安倍政治の継承を公言しています。その安倍政権下で何があったのかが今、刑事事件として明らかになりつつあります。安倍政権、安倍政治の検証があらためて必要だと思います。

 検察の問題に戻ります。では検察の民主的統制はどう確保すればいいのか。それは世論だと思います。かつて、金丸信・自民党副総裁(故人)が5億円のヤミ献金を受けていた事件の捜査を巡って、検察が事情聴取なしで略式起訴したことに怒った男性が、東京・霞が関の検察庁の玄関前で、瓶に入った黄色いペンキを投げ付ける出来事がありました。1992年のことです。「検察庁」の石碑はペンキの汚辱にまみれました。そのときに司法担当の記者としてまじかに見た検察の動揺ぶりは、今もよく覚えています。世論が高まれば、検察は意識せざるを得ません。
 世論はマスメディアの報道の在り方とも密接にかかわります。10年前に、大阪地検特捜部の検事が証拠を改ざんする事件が起きました。特捜検察を正義の味方のようにもてはやした報道ばかりが続いたあげくの驕りと堕落の極みだったと、わたしは考えています(わたしも礼賛報道の当事者の一人であることを免れ得ない、と考えています)。マスメディアの報道もあの事件から教訓を得なければいけないことは多々あったと思うのですが、現状はどうでしょうか。

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