米バイデン大統領が掲げる社会の「結束」「団結」と「民主主義」の再建~分断の根深さとマスメディアの役割を考える

 米国のジョー・バイデン新大統領が1月20日(日本時間21日未明)、就任しました。「米国第一」を掲げたトランプ前大統領の4年間は、米国社会では分断が深まり、国際社会には混乱がもたらされました。分断と混乱の修復という新大統領の課題は明らかではあるのですが、昨年の大統領選ではバイデン氏の得票8100万票余に対しトランプ氏も7400万票余を獲得したほか、トランプ氏が選挙で不正が行われたと主張し続けているためか、共和党支持層の75%がバイデン氏は大統領選に正当に勝利したわけではないと考えている、との最近の米世論調査の結果も報じられています。米大統領の就任式は、前任者も立ち会い、連邦議会議事堂周辺で数十万人が見守るのが恒例ですが、今回はトランプ前大統領の姿はありませんでした。2週間前、トランプ支持の集会の参加者らが警備の警官隊を押し切って議事堂になだれ込んだ事件の記憶も生々しい中で、就任式には新大統領を祝福する群衆の歓声もなく、州兵2万5千人が警備にあたる厳戒ぶりが、そのまま新政権の前途の多難を表しているように感じました。
 日本のマスメディアも新大統領の就任を大きく報じました。時差の関係で、新聞各紙に就任演説の内容が盛り込まれたのは21日付夕刊ですが、21日付朝刊から未来形の記事ながら新政権発足を大きく掲載。翌22日付朝刊では演説の全文なども含めて、詳細に伝えています。

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写真:22日付の東京発行各紙朝刊

 以下に、東京発行各紙の22日付朝刊の1面と、署名評論(連載企画を含む)、社説の見出しを書きとめておきます。
■朝日新聞
1面トップ「『米国民結束に全霊』/バイデン大統領就任/パリ協定・WHO 国際協調へ回帰」
1面「民主主義 立て直す責任」沢村互・アメリカ総局長
■毎日新聞
1面トップ「米国団結へ全霊/バイデン大統領演説/パリ協定復帰に署名」
1面「事実重んじる社会に」古本陽荘・北米総局長
社説「バイデン大統領就任 米国の結束どう取り戻す」/超党派を政治の基本に/「トランプ」再来阻止を
■読売新聞
1面トップ「分断から団結へ/米バイデン政権始動/コロナ・気候変動 大統領令15本」
1面「同盟深化 戦略的に」飯塚恵子編集委員(論考バイデン政権・上)
社説「バイデン氏就任 米国の結束と底力が試される/民主主義と国際協調の舵を取れ」/まずはコロナと経済だ/超党派の合意の実現を/同盟強化の知恵絞ろう
■日経新聞
1面トップ「環境・外交 政策大転換/バイデン政権始動/大統領令15本署名」
1面「民主主義はよみがえるか/消えぬ『トランプの残像』」菅野幹雄・ワシントン支局長(混沌のアメリカ 試練の新大統領・上)
社説「米政権と連携して国際秩序の再建を」
■産経新聞
1面「バイデン氏 パリ協定復帰署名/政策転換 初日に17文書/大統領就任『米国結束に全霊』/『コロナ克服』誓い」
1面「民主主義陣営の道しるべたれ」黒瀬悦成・ワシントン支局長
社説(「主張」)「バイデン新大統領 自由世界の団結主導を/中国への厳しい姿勢変えるな」/日豪印との連携を貫け/TPP復帰が試金石だ
■東京新聞
1面「『再び世界と関わり合う』/バイデン米大統領始動/パリ協定復帰など17件署名」
1面「国民結束へ試練」岩田仲弘・アメリカ総局長
社説「バイデン政権発足 米国の再建がかかる」/トランプ派と向き合う/コロナ禍が示す不公正/外交は信頼回復から

 各紙を見比べると、バイデン大統領が演説で多用した「unity」を見出しに取っているのが目立ちます。「結束」と翻訳したのは朝日、日経、産経、東京、「団結」と訳したのは毎日、読売です。各紙によると、バイデン大統領はこの言葉を演説の中で8回ないし9回使ったとのこと。もう一つ、「民主主義」(democracy)も11回を数えたとのことです。
 ちなみに4年前、トランプ前大統領の就任時の報道のキーワードは「米国第一」でした。

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写真:2017年1月22日付の東京発行各紙朝刊

 ※参考過去記事
▽「『米国第一』突っ走るトランプ政権―新大統領就任、在京紙22日の報道と沖縄2紙社説」=2017年1月23日 

news-worker.hatenablog.com

▽「『自国第一』『分断』『予測不能』『「高まる緊張』~米トランプ政権が始動」=2017年1月21日 

news-worker.hatenablog.com

 「米国第一」を掲げたトランプ前大統領の4年間の後、米国では社会の「結束」「団結」と「民主主義」の再建が課題として残されました。副大統領に女性、黒人、アジア系で初のカマラ・ハリス氏が就いたことは、多様性を重視しながら、課題の克服に向かう新政権の姿勢の象徴でしょう。対米関係を政府が「同盟」と位置付ける日本にとっても、この多様性の重視がいい影響をもたらすように期待したいのですが、果たしてどうでしょうか。
 中でも気になるのは、辺野古の新基地建設など、沖縄への米軍基地集中の問題です。沖縄の人々は新基地に反対する意思を繰り返し、明確に示しています。しかし、技術的にも軟弱な地盤の存在が明らかになっているのにもかかわらず、計画は強行されています。およそ、沖縄以外には日本のどこでも起こり得ないようなことが続いています。地域の自己決定権がどこであれ保障されること。それも多様性が担保されることの一つであるはずです。社会に分断を招くトランプ的なものを問うのであれば、日本社会ではこの沖縄への基地集中の問題も根っこでつながっている課題だと思います。バイデン政権の対日政策と日本政府の外交を報じる中で、課題が課題として社会で広く共有されるようになるために、日本のマスメディアの役割も問われると思います。

 昨年の大統領選で大規模な不正が行われたと考える人は、日本にも少なからずいます。SNSへの投稿などを見ると、多くの人は同時に「マスメディアは真実を伝えていない」とも感じているようです。「ネトウヨの陰謀論」と片付けるのではなく、マスメディアにはまだやれることがあるように思います。取材態勢や取材自体の公開です。
 日本の新聞社や通信社がどれだけの記者を米国に配置して、どんな取材をしているか。提携している米国の報道機関からどのような形で記事や情報を受け取り、それをどのように自社の報道に反映させているのか。そして米国の報道機関は、米国内でどのような取材を展開しているのか。取材した結果だけを報じるのではなく、そうしたことをも伝えることで、マスメディアが真偽不明の情報の確認に努め、何を報じるかを厳格に判断していることが理解されるようになるのではないかと思います。
 これまでは新聞なら紙面のスペース、放送なら時間という制約があり、伝える内容には限りがありました。しかしデジタル空間にはそうした制約はありません。マスメディアの報道をデジタルで展開するなら、取材の可視化は必須のことだと思います。

 意見の相違を認め合うことは民主主義の基本ですが、それぞれの意見が異なるにしても、前提になる「事実」は共有していなければなりません。事実ではないことを「事実である」と主張することは、意見の相違とは異なります。インターネットの普及とSNSの登場によって、社会の情報流通は爆発的に増えました。何が事実か、ファクトチェックの重要さが増していますが、ひとつの風説がデマと検証されても、その検証結果を知らないまま風説を信じ込む人がいれば、デマの拡散は止まりません。今日的な分断の根深さの一端がここにあるように思います。

 

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写真:東京発行各紙の21日夕刊

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写真:東京発行各紙の21日付朝刊